本の上での友人が欲しいと思う人は、このエセーを読んでみるといいでしょう。モンテーニュというまったく等身大の当たり前な人間が現れて、そのモンテーニュという何者でもない人間と付き合うように本を読んで行くことが出来ます。モンテーニュがこの書物を書くきっかけとなったのは、無二の親友を亡くしたことにあります... 続きをみる
Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春の新着ブログ記事
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著者は絵画の専門家ではありませんが、日頃から傾倒している画家セザンヌについての一書を著してみたいと筆を執りました。遠近法に従って見ていると、どうしても違和感の出て来るセザンヌの絵の特徴を詳しく説明し、その拠って来たるセザンヌの創造の秘密に迫ろうとします。人物としても非常に風変わりであったセザンヌの... 続きをみる
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著者は音楽や絵、文学に造詣の深い文芸評論家です。詩人の中原中也とも親交がありました。中也はバッハの「パッサカリアとフーガハ短調」が大好きだったそうです。豊富な音楽体験をもとに、どの曲がどのように好きなのか鍛え上げられた審美力を用い、懇切に楽曲の本質に踏み込んで解き明かしてくれます。著者自身をさらけ... 続きをみる
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著者の長男光君は、脳に障害を持って生まれました。著者はこの小説で、その受け入れがたい現実を虚構の世界に仮託して、自分と血を分かつように書いた主人公が、その過酷な現実を進んで受け入れるまでの魂の遍歴を翻訳体の独特な文体を用い、具に描きました。小説では、障害の程度は軽かったように描かれていますが、本物... 続きをみる
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戦争という狂気に走らざるを得ない人間というものを、深く考究した書物です。著者は、ある著名な文学者の書いたまったく当たり前な戦争反対論を携えて、第二次世界大戦当時、少しでも戦争反対に尽力しようと、自分の知り合いたちに、戦争のような無益なものに関わることがいかに馬鹿げているかを説いて回ります。著者のユ... 続きをみる
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非常に名高い本ですが、実際に読んでいる人の少ない本です。著者は心理学者で、クライアントとして来た英語の堪能な女性が、息子のことを相談するときに、「この子は幼いとき甘えなかった」という言葉だけを日本語で語ります。英語には「甘える」という言葉がなかったからです。それが、著者の「甘え」論のきっかけになり... 続きをみる
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クラシック音楽の好きな人なら、ぜひ座右に置いておきたい一冊です。古今のクラシック音楽の中から、年代順に300曲を厳選しそれぞれに著者の卓抜で正確な評価を加えていきます。グレゴリア聖歌からシュトックハウゼン、武満徹に至るまで、クラシック音楽に対する著者の並々ならぬ造詣の深さは、単なる紹介書の域を超え... 続きをみる
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日本はタテ社会であるという現在では当たり前となっている常識を作った書です。著者の言うタテ社会の意味は、しかし、実際に本書を読んでみれば分かりますが、現在流布している「タテ社会」という言葉とは、ずいぶん異なったものです。常識として通用している言葉が、いかに本来の意味合いから遠ざかってしまうものである... 続きをみる
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イギリスロマン派の神秘詩人ブレイクの詩集です。ブレイクには次の言葉があります。「生きとし生ける者はみな神聖である」心の無垢なやわらかさというものをこれほど見事に詩にのせることのできた詩人は他にいません。わたしたちには何の準備も要りません。ブレイクの語る言葉に素直に聞き入っていれば、そのまま自分のも... 続きをみる
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サン・テグジュペリはフランスの作家です。この作品は世界中の多く人に読み継がれて、中には熱狂的なファンがいます。「星の王子様」は永遠の少年の物語と言っていいでしょう。本当に大人と言える人間が果たしているのだろうかという現代の状況にあって、むしろ、進んで開き直って大人になることを拒んだ書と言えるでしょ... 続きをみる
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カトリック作家、遠藤周作の代表作です。日本におけるキリスト教・カトリック受容の歴史において欠かすことができない人物です。ルオーの描く、常に弱き者貧しき者の隣に寄り添うキリストの絵に衝撃を受け、長崎で出会った人々に踏まれ続けた踏み絵のイエス像を見て、この作品は形をとりました。小説の最後、責め苦に遭っ... 続きをみる
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三島は、現代では稀な名文家と言っていいのですが、この文章読本は、谷崎のそれに劣らないほどの仕上がりになっています。「あなたが小説を書くとき、彼女は絶世の美女だと書けば、それで、そのままその人は絶世の美女となるのです。」というような言葉には、なんとも言えないユーモアさえ籠もっています。鴎外の簡潔な文... 続きをみる
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良い文章を書きたい願いは誰でもあります。この本は大谷崎と称された文豪が、読書人のために良い文章を書くための便宜を図るために書かれたものです。単に文章の手引き書というだけではなく、文章自体に味わい深い品格があります。懇切丁寧な文章の紹介を読むと、思わず自分でも何か文章を書きたくなってきます。作品とし... 続きをみる
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キリスト教では、先述の聖書を旧約聖書と呼んでいます。コーランも、拠り所となっているのは、聖書です。ムハンマドはイスラーム教をアブラハムの宗教だとさえ言っています。この新約聖書くらい輝かしい書物はないでしょう。古代中国ではキリスト教を景教と呼びました。「景」とは、光り輝くという意味です。イエス・キリ... 続きをみる
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アダムとイブの物語が載せられた有名な書物ですが、この書物を最後まで読み通した人は少ないことでしょう。聖書は神話ではありません。神話はその民族の永続を願って作られるものと言っていいのですが、聖書の神は、そのイスラエルの民に、もしあなた方がわたしの言葉に背くようなら、わたしはあなた方を滅ぼし尽くすであ... 続きをみる
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この「おすすめ本」に入れるかどうか迷う本ですが、やはり、取り上げましょう。リルケはドイツの詩人です。ロダンの秘書を務めたこともあります。リルケは、何よりもネガティブなもの、殊に夜をこよなく愛しました。「闇の詩人」と言ってもいいでしょう。この「マルテの手記」の毒は強烈です。リルケ自身が、マルテの心情... 続きをみる
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数多いバルザックの作品の中でも、選り抜きの最高傑作です。バルザックは、スタンダールと同時代人のフランスの小説家ですが、スタンダールとはまるで作風が違います。充分に前置きを固めておいて、大団円まで持っていきます。前置きがかなり長いために、中途で読むことを諦めてしまう読者も少なくないほどです。けれども... 続きをみる
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ト翁とまで称される文豪トルストイの面目が躍如とする一大叙事小説です。トルストイは人間が想像しうるあらゆる才能を備えた人間と絶賛されました。「戦争と平和」はそのトルストイが、幼年時代から続けていた日記も止め、図書館が一つ建つくらいの膨大な文献を渉猟し、文字通り天才が心血を注いだ作品です。登場人物は五... 続きをみる
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内村鑑三は、明治期を代表するプロテスタントのキリスト教徒です。内村は日本史にも登場する「不敬事件」で当時の社会から指弾を受け、内村の家は投石され、妻はその心痛に耐えかね病死します。この書は、その独自の人生経験から生まれた、内村の処女作です。「艱難を受け、それを耐え忍ぶ者は、すでにして基督教徒である... 続きをみる
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古美術の鑑賞によって培われた鋭利な批評眼で、日本の中世を代表する歌人、西行の詩魂を見事に浮き彫りにします。西行は、現代の日本でも人気の高い歌人です。若年にしてみずから世を捨て出家し、旅人として諸国を漂泊し、芭蕉が「奥の細道」の中で「古人も多く旅に死せるあり」と語ったその「古人」のひとりです。「生得... 続きをみる
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著者の白州は、政治家や実業家さらには百姓まで兼ねた人です。日本が太平洋戦争に突入する以前から、すでにアメリカと戦争するということを見抜き、敗戦経験のほとんどない日本は行くところまで行って、東京は焼け野原となって降伏するだろうということまで予見していました。百姓になったのは、日本は終戦後多くの物資、... 続きをみる
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本書は、哲学や仏教にも破格の造詣を持っていた著者が、渾身の力を込めて著した哲学書です。最晩年の未完に終わった「意識の形而上学」の先駆となる作品で、「意識のゼロポイント」という井筒独自の言葉を用い、意識とはなんであるか、本質とはなんであるかとの問いを携えて、驚くべき深さまで思考を深めていきます。深い... 続きをみる
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夜を阻むものはなにもない 眠りにつくごとに わたしはけだるい悪の夢を涵養した 無言の空間に輝く星は虚空の思想の罪業の深さを知っている 下半身を車につぶされた子猫が鳴く声の 遠い記憶のように 虚無は わたしの伴侶である
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井筒俊彦は、数十カ国の言語に精通した語学の天才でした。司馬遼太郎が井筒を天才を十人束にしたような人だと言っています。井筒の文章には迫真力があります。イスラームが成立する以前の「無道時代」と呼ばれた実存的な場から、どのようにイスラームが誕生していったかを精細に物語ってくれます。無道時代の無益な部族間... 続きをみる
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近代を代表する俳人、高浜虚子の言行録です。一読、清新な感情に満たされる、現代ではまれな情操文学の書と言えます。少しも小難しいようなところはなく、高校生でも理解できる内容です。「佳句は一生に一句あれば充分です。」といった言葉から、虚子の俳句や人生に対する態度がにじみ出てきます。「死後百年の名声を楽し... 続きをみる
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ニーチェが、ドイツ語で書かれた最も偉大な書は何かと問われたとき「ゲーテとの対話だ」と答えた逸話が残っています。秘書のエッカーマンは、誰に頼まれた訳でもなく、晩年のゲーテの悠々迫らざる生き生きとした風貌をあますところなく描き、大人物との日々の対話を丹念に記録していきました。そうして出来上がったのが本... 続きをみる
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飄然としていながら、独特の風格をもった現代作家、井伏鱒二の代表作です。原爆が投下されてから約二十年後に、この本は完成しました。日本最初の原爆小説ですが、二十年という年月がいかにこの悲惨な現実を描くことが難しかったかを物語っています。そうして、これほどの悲惨な戦争の悲劇を取り扱いながらも、飄々とした... 続きをみる
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菊池寛は偉人です。何がどのように偉かったか説明に困るような偉人です。文藝春秋という雑誌を創刊し、大衆小説を数多く書いた、実業家と作家を兼ねた人と言えばそれまでなのですが、それだけではどうしても菊池寛という人を掴んだことになりません。およそ、作家と言われる人はその当の人間より、書かれた文章の方が立派... 続きをみる
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「神は死んだ」という有名な言葉の書かれたニーチェの中でも最も知られた書です。ニーチェは、この一言で現代の不安と混乱の状況を予見しました。たくましい精神がそうした状況をどう生きるべきか。ニーチェの超人思想が綴られていきます。近代の病理を隅々まで見抜いていたニーチェは、自らを犠牲にするように、これから... 続きをみる
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この小説については、すでに小林秀雄の名評があります。「破壊にのみ適した諸運動が、突如として合成され、一挙にして形を得た。」評自体が、すでに抽象語による詩になっている感があります。ダイヤモンド・カットのように切り出された恋愛心理の動きは、明晰に屈折しながら、また彫りの深い陰影に富み、作者ラディゲが二... 続きをみる
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歎異抄の言葉は、たましいの奥底に墨で大書されたような文言です。「たとへ法然上人にすかされ参らせて地獄へ墜ちたりとも」すかされという俗語が、正しく読む者の肺腑を衝き、血の匂いがする思いがします。この文言はどんな人間にも応じます。悪人であろうと善人であろうと。歎異抄には、また美しい言葉があります。「弥... 続きをみる
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詩は刃に切られ 鮮血を 流し 生命を証す 詩は強風にあおられ 砕け 散り 吹きだまりをつくる 詩は火に焼かれ 熱く 燃え 骨となる 詩は土に埋もれ 腐り 死に 時を待つ
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雑駁な言い方を、許してもらえれば、マルクスの「資本論」は、通貨が金貨や銀貨であった時代のもの、ケインズの経済論は通貨が金銀から紙幣となる移行時代のものと言えるのではないだろうか。 1978年から、金が通貨の座を奪われ、国際通貨が不在となり、通貨はことごとく価値が相対化された。この価値を保証するのは... 続きをみる
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中国はなんとも不思議な国である。国民性としては、時の為政者など信用しないが、知識階級の政治的関心は他のどの国と比べてみても抜群に高い。諸子百家の時代は自由思想時代といわれ、それこそ思想が乱立し百家争鳴したが、それらの思想はすべて政治思想である。儒教は、もちろんそれらよりずっと古い。 国は一般にどの... 続きをみる
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老子と荘子の思想を一括して、老荘思想といい、道家ともいいます。荘子は、老子の言をさらに推し広げて、中国では珍しい宗教的な色彩を帯びた思想に到達します。特に内篇にそれが顕著です。老子に見られた社会への熱い眼差しは影を潜め、社会とほとんど関わりを持たない全くの宗教的な境地に至ろうとします。仙人の思想な... 続きをみる
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「道の道とすべきは常の道にあらず、名の名づくべきは常の名にあらず。」道徳経の巻頭の言葉です。儒教は名を重んじる教えで名教とも呼ばれます。老子は、その儒教の教えと真っ向から対立する自由思想の大家です。前掲の言葉は、道も名も普通にそう言われているものは、決して永遠のものではないという意味です。道徳経に... 続きをみる
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この夏の日盛りに君は忽焉として 逝った 心臓に大病を抱えた君の体は するどく痩せていた それでも君は仕事に熱心だった 誰のためというのでもなく 動かぬ足を引き擦ってでも 君は仕事先に出掛けた それは君の譲れぬ意地であったか 口は開き喉の奥の白い詰め物が見えた 君の死に顔は痛ましかった 略式の無宗教... 続きをみる
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儒教は、その本質を一言では言えないという特徴を持った学問で、儒教が批判されるときには、いつもその端的さを欠いた不得要領な性格が、引き合いに出される。儒教は無論政治思想なのだが、孝悌忠を徳目に掲げるという世界的に見てもめずらしい政治思想である。 そもそも、第一の徳として掲げられている「仁」にしてから... 続きをみる
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「論語」は、言わずと知れた中国を代表する古典中の古典です。江戸期の大儒伊藤仁斎は自注の稿本を改訂するごと「最上至極宇宙第一之書」と、巻頭に書こう迷ったそうですが、結局、この言葉は削られたそうです。「論語」は孔子を中心とした言行録ですが、体系化され、組織化された儒教が成立する以前の、十分に現代に通用... 続きをみる
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原野には男 ウサギはしなやかに叢を跳んだ 小石には蟻 眼界の果てには 遠くけぶる町 ここに 新しい線を引こう 黒く太々しい果てしない線を
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一時期、「ラスト・サムライ」という映画が流行ったことがあった。わたしは流行りものは敬遠する性質で、未だに、その映画は見ていない。 わたしが思ったのは、内村鑑三が「代表的日本人」の中で、西郷を評して「最後にして最大の武士」と言っていたのを、記憶していて、そのことを、あれこれとつらつら思い巡らしたので... 続きをみる
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著者の新渡戸稲造は、元五千円札の肖像になっていた人物です。新渡戸は明治期、国際的に活躍した日本を代表する人物のひとりです。日本の精神文化を海外に紹介することに尽力し、「武士道」はその活動の中から生まれた国際的な評価を得た書物です。 海外の人に向けて書かれたために、原文は英文になっています。「武士道... 続きをみる
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わたしは、三人肉親を亡くしているが、彼らが日々いかに雄弁であるかは、他の兄弟や母も、私自身も変わりはないようである。他界した兄のことを、母は未だに、わたしに「なんで死んだんだろう?」と問い掛けてくる。母がまだ兄の死を受け入れられないでいることが分かっているので、わたしは黙っている。 これは、無論、... 続きをみる
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「タオ」とは、中国語で「道」ということです。人気者だが、ぐうたらなクマのプーさんこそ、本当の道を歩いているたぐいまれな存在だという意味です。著者のベンジャミン・ホフは、アメリカ人ですが、彼のように中国や日本などの東洋の思想に深い関心を抱く外国人が、最近、急速に増えています。キリスト教の弱体化がその... 続きをみる
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ちりぢりの髪と 明るい少年の目をして あなたは詩を論じていました 光る言葉が見つかると あなたは貴重な昆虫をつかまえた子供のように うれしそうでした バイク事故に傷ついた 受難を思わせる あなたのでこぼこの額は けれどもどこか 人を安堵させる未完成の真実を 持っていました 松井さん クリスチャンだ... 続きをみる
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「シャーロック・ホームズ」シリーズの中でも、粒よりの名編が集められた一冊です。およそ、小説の登場人物で、その職業も含めて、これほど世界的に有名になった架空人物も他にありません。シャーロック・ホームズが名探偵であることは、子供でさえ知っています。ところが、作品を書いた当の作者はというと、誰だっけと忘... 続きをみる
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道元禅師の弟子懐奘が、師の言葉を採録した書です。懐奘は道元よりも年長なのですが、真摯に師の言葉を書きとり、その為人に肉薄します。この書には、現代のわれわれの心をじかに打つものがあります。道元の開いた永平寺の修行は有名ですが、その修行は実は普通の人間が、修行の心構えを持ち、それなりに我慢すれば、誰で... 続きをみる
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そもそもの話であるが、「新自由思想」という、言葉自体が奇妙である。ニーチェが言っているように、「思想」はすでに、どのような思想であろうと、人間によって考え抜かれ、その帰結するところは、見抜かれているのである。 従って、われわれに残されているのは、思想を選択することであって、それが、現代という地に播... 続きをみる
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ユング派心理療法家の第一人者が、自らの臨床経験を元に心理療法について懇切に説明した、河合隼雄の中では難解な書物です。河合隼雄の他の本は、いくらかの本を除いては、高校生でも理解できるような平易さがあります。そのために、心理療法について読みかじった生半可な読者が、阪神大震災の折に、被災者に自分の体験を... 続きをみる
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西洋文化の女性の視点ということで、よく考えることがある。 卑俗なところから、まず、ベートーヴェンをヨーロッパ随一の美男子としなければ、気の済まなかったこと。バッハについても、その再婚相手のアンナ・マグダレーナが、「バッハの思い出」の中で、申し訳ありませんという調子で「私の夫は、美男子ではありません... 続きをみる
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日本で、最も名高い自伝ですが、世界を見渡してみても比類がないと言っていいほど、清廉で鮮やかな精神の足跡が、まざまざと見えてくる自伝です。江戸末期から明治に至る日本史上、空前絶後の大変革期の時代を、なんの気負いも外連味もなく、正しい精神がしっかりした足取りで着実に歩を進めて行くさまを、目の当たりに見... 続きをみる
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現在、日本だけでなく、諸外国を見渡して見ても、インテリゲンチャと呼べるような人が居なくなってしまっている。村上春樹が一人いるが、残念ながら、彼の作品はどうしても、思想としての力は弱いように思えてならない。 ちなみに、インテリゲンチャという言葉は、ロシア語である。蒙昧な貧しい民衆と暗愚な専制君主との... 続きをみる
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残念ながら現代は、当たり前な「感覚」がどんどん麻痺していって、何が当たり前かなのかさえ戸惑うような無秩序な混沌とした時代になっています。その当たり前なコモンセンス「常識」を取り戻し、その本当の力を発揮させること。忙しさにまぎれてしまう現代人にはなかなかむずかしいことですが、現代人に課された、最も必... 続きをみる
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喜びはモーツァルトを聴くこと 時にふと誰かが聴いている モーツァルトの音楽に耳を澄ますことは 無上のよろこびである なんという絶対の新しさ なんという絶対の自然さ どこまでもつきぬける自由 流れ出して止まない無限のやさしさ きよらかな泉のようによどみを知らず溢れでる抒情 そうして 異様なまでの多様... 続きをみる
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バッハの音楽は神に捧げられている ベートーヴェンの音楽は人類に捧げられている モーツァルトの音楽は言葉に窮する ハイドンの音楽は美のために スカルラッティの音楽は遊戯のために メンデルスゾーンの音楽は趣味のために シューベルトの音楽は心情のために ショパンの音楽は集う人のために シューマンの音楽は... 続きをみる
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読み味、爽快な青春歴史小説。幕末の動乱期を疾風のように駆け抜け、大きな業績を残していった竜馬の生涯を活写します。全8巻ですが、少しも長さを感じさせません。西郷吉之助の描き方も見事です。歴史にあまり興味がない人でも、一読をお勧めできる本です。
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「カラマーゾフの兄弟」を高校時代の17歳の時に読み、圧倒的な衝撃を受けた。それまで、うつろな観念の集合体以上のものではなかった人間たちが、わたしの心のなかで突如としていきいきと躍動しはじめ、ひからびていた心臓に本当の血流が注ぎ込まれ、たくましく鼓動を打ちはじめた。いや、それでもまだ弱い比喩である。... 続きをみる
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なんでもない野良ネコたちの、なんでもない日常を撮ったらどうだろうか。ネコのことはネコに聞いてみようとカメラ片手に、あちらこちらの町々をうろついて、ついにイタリアはベネチアあたりまで来てしまった。ネコを撮り続けて30年。ひとつ写真集にして出してみようかと出版したのが、岩合写真家のこの本書。人に懐かな... 続きをみる
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ものがなしい夢から夢へと 人々はさまよう アスファルトは雨に濡れてさらに黒く バスはとまっている 外灯は葬式の灯明のようにきびしく光り ビルの谷間からのぞいた月に 青猫は手を合わせる 人は思いに耽る もの憂い語られることのない思いに
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一見、無造作と思える筆致で書かれていながら、ロマンチシズムの香気が濃厚な作品です。作中、主人公のジュリアンは、ある女性が昔の恋人の話を楽しげにするのを聞いていて、じりじりします。その女性は、ジュリアンと今会って話しているからこそ、昔の楽しい思い出に耽っているのですが、ジュリアンは、「それでは、あな... 続きをみる
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筆者は多くの著作を持つ著名な精神科医です。「診療室にきた赤ずきん」とは、一見風変わりなタイトルですが、実際の診療にあたって、様々な昔話がいかに人々を癒し、元気づけるかを豊富な事例をもとに、平易な文章で解き明かしてくれます。あなたは、昔話の赤ずきんであったかも知れないし、これからそのおばあさんの役を... 続きをみる
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わたしは、高浜虚子のこの言葉が好きである。 歴史を見てみると、喜撰法師という人がいる。この人は六歌仙の一人に選ばれるくらいの歌人なのに、残っている歌は、百人一首で有名な一首しかない。どういう人だったかも、さっぱり分からない。 分かっているのは、都の東南に庵を構えていた法師だということくらいで、それ... 続きをみる
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日本で最も独創的で、また理解しがたい人間、織田信長。日本の近代は彼によって準備され、われわれ現代の日本人は誰でも、信長が時代の大転換期に画した業績の上に立っていると言ってよいくらいです。その信長の天才に迫る画期的な労作。ナポレオンと信長とを同列に論じた章は絶妙です。
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数ある「幸福論」の中でも、これこそ本当の「幸福論」と言える一冊です。著者のアランは戦争について深く考究した哲学者ですが、世界大戦当時、医師として戦争に従軍し、行動する哲学者としても活躍しました。フランスでは、人間性について深い洞察を持った人をモラリストともいうのですが、激動の20世紀を誠実に生きた... 続きをみる
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「無知の知」で有名なソクラテスを主人公とするプラトン初期の対話篇です。「美について」という副題がつき、ギリシアの地中海的な美しさが際立つ、美しい哲学書となっています。作中、ソクラテスは自身を、ギリシア神話に登場するテュポンのような巨怪な怪物なのか、単たる人のよいアテネの一市民ソクラテスに過ぎないの... 続きをみる
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パっと扉が開いても ぼくは ボーっとしている 自然がどんどん入り込み 言葉がどんどん脱けて行く ああ 雨が降ったら傘をさすのだ ぼくはでく おお 紫陽花の花が咲いている ぼくは木偶
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ツァラトゥストラはゾロアスター(拝火教の祖)のドイツ語読みである。ニーチェは原水爆という史上もっとも熱い火を手に入れるに至った現代を予見していただろうか。詩人の千里眼とはそういうものであろうとも思うが。 ベルクソンは、最後の著作で、「人類はまだ自分たちの運命は、自分たち次第だということをよく分かっ... 続きをみる
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作中、ウェルテルはかなわぬ恋の悩みから、自殺を遂げるのですが、当時、大評判となったこの作品を読んだ若者が、主人公の真似をして自殺する事件が相次いで起こり、ウェルテル病と呼ばれました。ゲーテ自ら、「ウェルテル」を書いていた、その24、5歳の当時を振り返り、あの時期はじつに危なかったと晩年の「ゲーテと... 続きをみる
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二十歳という若さで、世界の頂点に立つ詩を書きあげ、その自ら書いた詩をなげうって、アデンの砂漠へ旅立ち、37歳で死んだフランスの詩人ランボーの作品です。ランボオは誰のためにも詩を書きませんでした。そのために、書かれた詩は非常に難解ですが、生命そのもののようなギラギラする鮮烈なイマージュは、めまいのす... 続きをみる
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日本語が、テンポやリズムに乗り難い言語であることは、ご承知のことであろう。英語やフランス語、ドイツ語などのアルファベット属の言語は、テンポやリズムに乗りやすい。この性質が、リンカーンやキング牧師、オバマ、また、悪人だが、ヒトラーなどの雄弁家を生む。 では、日本語で、雄弁家のように長々と喋るとなると... 続きをみる
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帝政ロシア末期、停滞しきった活力のない社会を背景に、後は、消え去るのみの没落地主の貴族とその配下の者たち。チェーホフは、じつに澄み切ったまなざしで、彼ら、運命に押し流されていく役割の終わった人間たちの姿を描きます。劇の最後、溜め息のように登場人物が自身につぶやく「この出来そこないめが。」というセリ... 続きをみる
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ごくありふれた平凡な役人イワン・イリッチは、人生においても平凡な楽しみと平凡な苦労の連なりでしかない生活を送り、また、それに満足しきっていました。その彼が、ふとしたはずみの事故で、死に至る難病におかされます。トルストイは、この死に直面した平凡人を、時に残酷とさえ思えるような迫真の筆致で、正確無比に... 続きをみる
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権力が一点に集中するとき、どんなものが出来上がるのか見本のようなものである。 今になって人々が嘆賞しているが、当時の人々は、ああいうものを作り上げるために、どれほど苛酷な労働を強いられたかを想像してみる人がいないのは、わたしには意外に思えてならない。 兵馬俑の壮観よりも、この俑が歴史の文献から完全... 続きをみる
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華麗でよどみのない文体と、「才能の魔」とまで言われた異常な詩的才能とを合わせ持ち、当時の日本で圧倒的な存在感を誇った三島由紀夫の絶頂期の小説です。こんこんと尽きることを知らずあふれ出る豊かで彫りの深い詩的イマージュは、読む者をそのまま文学世界のただ中に引き入れます。柔軟で格調の高い文章は、最後まで... 続きをみる
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jazzはかんがえない、踊る。 だが、チャーリー・パーカーはかんがえる。 なにを。 何をではない。ただ、かんがえる、しかも過不足なく軽やかに。 チャーリー・パーカーのサックスは早すぎて踊れない、だからスウィングする。 論理的に言えば、無思量底を思量する。 こんな意識の絶壁で、詩や音楽など歌い上げら... 続きをみる
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シェイクスピアが創造した数多くの魅力的な人物の中でも、異彩を放つ人物像です。体型は背が曲がり醜く、風采の上がらない男ですが、口が天才的にうまい。その口を武器に、あらゆる権謀術数を駆使し、特に地位の高い女性を言葉巧みにたぶらかし、胸に秘めた野心を実現して王位につきます。まさに、立て板に水のその驚くべ... 続きをみる
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女→論→教え→信仰 という日本仏教の流れ。 記録されている限り、日本の最初の出家者は女であった。このことは、日本人の仏教に対する態度として、多くのことを示唆している。 伝教大師は、当時の仏教が論であることを嘆いて、中国に渡り、教えを伝えた。その後の鎌倉六祖である。 この流れは、何を示唆しているであ... 続きをみる
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作者は四年間、政治犯としてシベリアの監獄で獄中生活を送りました。その体験から書かれたのが本書です。前書きを除き、文句のつけようのない確固とした写実性に貫かれ、囚人たちの異様な、また最底辺の日常生活が克明に描き出されます。ダンテスク<ダンテ的な>とまで評された風呂場の情景。凄惨な三千にも及ぶ笞刑。労... 続きをみる
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現在、一番上等な牛は、世界で公認されている和牛である。オーストラリアがWagyuの商標を取って世界に売り込んでいることでも知られる。ただ、世界の一般の人々には、Wagyuが日本由来の牛であることは、あまり知られていないようだが。 明治期になるまで、日本では牛を食う習慣はなかった。こんな滋養に富んだ... 続きをみる
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花のように世界を信じている 少女に出会いました 男は突風のように あっというまに少女を連れ攫いました 根っこさえ残らなかったのです
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表題は、イスラームのことわざである。この言葉には、大きな知恵が宿っていて、現代のような気忙しい世の中では、こんな言葉は間違いだという人もあるだろうが、人が生き延びていくためには、よくよく考えてみれば、明日という日をしっかりと信じていなければ本当には生きていけない。経済的で効率的な観念よりも人を重視... 続きをみる
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セゴビアという名ギタリストがいた。ある友達がその人のことを当然のごとく絶賛しているのを聞き、早速買って聴いてみたが、良さがさっぱり分からなかった。1930年代くらいの古い録音で、多分SP番からの復刻だろう、録音状態の悪さもあって、何がいいんだろうと思っていた。それに、演奏自体も取っ掛かりのない弾き... 続きをみる
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作者のルイスは数学者です。作品は、物語好きなルイスが仲のよい少女たちにせがまれて、書き始めたことから生まれました。「鏡の国のアリス」はその一つです。自分の内面にある劣等な人格面を、これほど小気味よくさらけ出した作品もちょっと他に見当たりません。王女は、訳も分からず「首をはねろ!」とわめき散らします... 続きをみる
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バルザックでは、金貨が活躍する。バルザック自身がありとあらゆる事業に手を出しては失敗し、金に振り回され続けた作家だった。 「ウジェニー・グランデ」で、ウジェニーの父の守銭奴のグランデが、娘に譲ったはずの金貨をいとおしそうにじっと見つめる場面には、凄惨な迫力がある。 「絶対の探求」で、バルタザールの... 続きをみる
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日本人は、記憶力のいい国民である。アメリカに無条件降伏したとき、大人たちは何と言ったかというと「早く、子供たちを隠せ。」と口々に言ったのである。 これは、元寇のとき、元の軍人たちは何をしていったか覚えていたからである。彼らは、男女を問わず、子供たちの手に穴を開けて綱を結び、船にその綱を絡げて、引い... 続きをみる
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ドストエフスキーの「死の家の記録」の中で、廃船解体を命じられる囚人たちの話がある。鮮やかな印象を残す場面で、最初に読んだときにも、よく記憶に残った。 アランも「幸福論」の中で、言及しているが、囚人たちに課せられたのは、どこにでも山のようにある、一文の得にもならない廃材を、廃船を解体して積み上げるこ... 続きをみる
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全応態とは聞き慣れない言葉だが、聖書(キリスト教では旧約聖書)の言葉の正訳を心掛けようとして、こういう言い方になった。もちろん、わたしの造語である。もっと、いい言い方があればそれにするのだが。 聖書中のもっとも哲学的な書と言っていい「伝道の書」の中に「金はすべてのことに応じる」という言葉が見える。... 続きをみる
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「生きるべきか死ぬべきか、それが問題なのだ。」など、シェイクスピアの作品の中でも、名文句、名台詞に溢れたあまりにも有名な作品です。作中、あらゆるものを突き抜けたように感じられるハムレットの自由感情は、世界中のどのような文学と比べても比類がありません。運命の自然力と人間の自由とが渾然と一体になった、... 続きをみる
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芸術上、あるいは宗教上に伝えられるものとして、秘伝というものがある。禅の教外別伝などは次元の違う考えで、混同してはならないが、この秘伝というものの正体はそのほとんどが俗なものと言っていい。 能にも秘伝がある。このことは世阿弥が風姿花伝の中で、はっきりと書いているが、芸の妙味というものは、能に通じて... 続きをみる
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風にもまれ サクラは散り急ぐ 空を映した川に それは音符のように流れて行く 降りそそぐ花びらのその一つ一つの軽さを 川は 透明な裸体で受け止める 空は高く晴れ サクラは散り止まぬ その性急な凋落 遁走のアレグロ 死という最良の友を 連れて