現代の美の達人、赤瀬川原平による卓抜な千利休論です。「茶の本」のような緊張感はありませんが、著者が無意識に求めていたものと、利休がすでに極めていたものとが、著者の心の中ではげしくぶつかり合いこの本が生まれました。著者は、現代でもそのまま通用する利休の芸術性の高さに目を見はります。この時代にすでに現... 続きをみる
2017年9月のブログ記事
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原文は非常に美しい英文で書かれているそうです。新渡戸稲造の「武士道」といい、内村鑑三の「代表的日本人」といい、この時期、日本人による英文の名著が多く出ました。明治人の心意気の高さを感じさせるものがあります。「茶の本」は日本の茶の湯を世界に紹介した高名な本です。狭い茶室の中で、苦い茶を喫し、宇宙を感... 続きをみる
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近世日本国民史という膨大な著作を書いた徳富蘇峰の中でも、一番の傑作とされているのが、この「吉田松陰」です。松陰は行動家でしたが、ほとんどの行動は無惨な失敗に終わっています。鎖国の世にアメリカ渡航を企てますが、乗船を断られ、牢獄に入れられます。幕府の重臣に手をかけようとしてやはり失敗し、そのために安... 続きをみる
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フランス救国の少女ジャンヌ・ダルクの伝記です。二十歳にも満たない少女が一国を救ったという世界史上、奇跡的な出来事なのですが、フランスの正史にも英雄として正しくジャンヌ・ダルクの名が刻まれています。軍の司令官としても政治家としてもずば抜けた行動力を示したこの少女は、王の裏切りによって、最後には火刑に... 続きをみる
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性悪で、手の付けられないような気の強い女が、劇の最後には、素直でどこに出しても恥ずかしくないような立派な女性に変貌するというちょっと有り得ないと思えるような喜劇です。主人公の女は、まさにじゃじゃ馬を絵に描いたような女で、思いつく限りの性悪な悪事をしでかします。この女の教育係を買って出た男は、また、... 続きをみる
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シェイクスピアの書いた最後の傑作と言われています。ミラノ公で魔術師プロスペローは、娘ミランダとともに、とある島で隠遁生活を送っています。島には様々な妖精たち、中にはキャラバンという性悪な怪物もいます。プロスペローは魔術を使い、ある船を難破させ、乗組員たちを全員島に漂着させます。ミランダの夫に相応し... 続きをみる
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劇中、最も魅力のある喜劇人、太ったフォルスタッフの登場する史劇です。フォルスタッフの登場する場面は、どこでも空気が緩みます。フォルスタッフにはおよそ徳というものがありません。悪徳さえ身につけなかった男といっていいでしょう。生きていること自体が、愉快でしょうがないような人間です。何をやらかすにしても... 続きをみる
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金貸しのユダヤ人シャイロックが登場するシェイクスピアの中でも、よく知られた作品です。ユダヤ人の典型的な性格が描かれているとして有名になったのですが、劇の面白さは、むしろシャイロックが法廷で負けて退場した後の、恋人たちの語らいの場面にあります。ここでは、まったく手垢に汚れない生まれたばかりのロマンチ... 続きをみる
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シェイクスピア四大悲劇の中で、もっとも家庭的と呼ばれている悲劇です。オセローは、愛を誓い合ったデズデモーナに嫉妬をするのですが、オセローの気高い心は、この嫉妬によっても、少しも傷つけられることはありません。策略家のイアーゴーの唆しに乗って、最後は、自分の手で最愛のデズデモーナに手をかけて殺してしま... 続きをみる
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シェイクスピアの四大悲劇の中で、もっとも色調の暗い悲劇です。これは、マクベスが本物の悪人に他ならないことから来ています。王の高貴な血筋を断ったマクベスは、自ら、王位簒奪者になります。魔女の予言にいいように振り回され、権力をわがものとするために、殺し屋に暗殺を依頼します。マクベス劇中もっとも暗い場面... 続きをみる
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シェイクスピアの四大悲劇の一つです。リアは領地をめぐる話し合いの際、最愛の娘コーディーリアから、素気ない言葉を聞き、あっという間に信用のならない二人の姉に領地を与えてしまいます。この振る舞いが劇に正邪の反転したような狂気の性格を与えます。リアの怒りは自分の蒔いた種に他ならないのですが、自然力を思わ... 続きをみる
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ニーチェ自身が、「わたしの哲学を学ぼうと思う者は、まず、この書から読むといい」と言ったニーチェ哲学への入門書です。巻頭言に「女が真理であったとしたらどうであろうか」という言葉が載っています。ニーチェにとって真理とは机上の論理ではありませんでした。常に人生や生活の直中で試みられ、生き続けなければなら... 続きをみる
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ショーペンハウアーは幸福について独特の考えを持っていました。ショーペンハウアーの隠れた思想に貴族主義があります。精神の貴族として繊細な感じやすい精神を持った人間は、できるだけ俗悪な人々との交渉を避けて、安逸な静かな生活を送るように心掛けるべきだと言います。弟子のニーチェの考え方とは相容れないもので... 続きをみる
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ニーチェの師匠に当たる、ドイツの哲学者の主著です。ニーチェ自身は、この人の書いた本の第一行目を読むや、あらゆるページのあらゆる言葉を謹聴せずにはいられない読者であったと書いています。この書は、東洋哲学、特に仏教の華厳経の影響が顕著です。滝のように流れて止まない現象の非情性とそこに虹のように掛かる本... 続きをみる
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ユングは、自分の個人的な出来事を語るのを好みませんでした。ユングの秘書ヤッフェがいなかったら、この書物は出来上がっていなかったでしょう。ですが、実際出来上がった書物を読んでみると、この本がじつに価値のある得難い本であるのが分かります。ユングは精神科医でしたが、ユング自身がそのまま統合失調症者でした... 続きをみる
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晩年のユングには、多くの名著があります。「ヨブへの答え」はその一つです。ヨブは、旧約聖書を越えて有名な人物です。義人でありながら、神から手酷い試みを受けるのですが、ユングは、神のヨブへの仕打ちは、イエス・キリストという神の受肉化の前段階であったという独自の理論を提起します。イエスの十字架上の死は、... 続きをみる
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鎌倉時代の旧仏教の名僧、明恵上人の「夢の記」を元に、現代の心理療法家の著者がそれを精細に分析した書物です。著者は、明恵上人が自分の夢とどう向き合って来たのか、正面から取り上げます。著者の本の中では、読解の難しい本ですが、著者独自の父性原理、母性原理という言葉を用い、夢が、どう明恵上人の生き方に関わ... 続きをみる
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著者の鈴木大拙は、世界に仏教を広めることに尽力しました。鈴木大拙は禅仏教ですが、現在、世界で特に欧米圏の人々が仏教をいうときには、ほとんどこの鈴木大拙によって紹介された仏教が基底になっています。その著者の思想がもっともよく現れたのがこの書物です。著者は禅を修したのですが、浄土教的な見方にも並々なら... 続きをみる
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膨大な数の仏典の中でも、仏教の教えがもっとも平易に説かれた書物です。般若心経はいうまでもなく、大乗仏教の空の理法を簡潔に説いたもので、仏教経典の真髄と言われています。また、金剛般若経は、仏教経典の中でも、もっとも初期の頃に成立した書と言われ、後に登場する教典のものものしさ重厚さがなく、清新ないぶき... 続きをみる
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「大学」は儒教の初学者のための書。「中庸」は儒教の奥義が書かれた書とされています。「大学」巻頭には、儒教についての構造的な文章が書かれています。「修己治人」というのがその圧縮した表現で、要するに我が身を修め、しかる後に国も治まるようになるという考え方です。「日日新たにして、日日に新たなり。」これは... 続きをみる
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盛唐の詩を中心に、膨大な唐詩選の中から、読者の便宜のためにさらに厳選して注釈を加えたのが本書です。中国が世界に誇る唐詩のアンソロジーを、日本の読者向けに分かり易く書いたもので、一読して、漢詩のすばらしさを伝えてくれる優れた書物になっています。編者の吉川幸次郎は、流麗で分かり易い文章の書き手で、難解... 続きをみる
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およそ、物語上の登場人物で、作者から、これほど本当に愛された主人公というものは、いないでしょう。式部は太陽光のようなまっすぐな愛情を、光源氏に注ぎきります。物語に奔出するおびただしいメタファーとそれを正確にかぎ分けるするどい嗅覚と感覚は、源氏物語に慣れない人を戸惑わせますが、そのメタファーの大海に... 続きをみる
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六歌仙の一人、在原業平が主人公とされています。業平は、国史に「歌をよくし、女人には行くところ可ならざるはなし。」と書かれたほど、女性にはとてもよくもてた男で、「身を用なき者と思いなして」と諸国を遍歴するのですが、さまざまな女性とも遍歴を繰り返したようです。伊勢物語には、その間の風流な出来事が記され... 続きをみる
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「袖ひぢて結びし水のこおれるをけふ吹く春の風やとくらむ」古今和歌集の巻頭の一首です。この歌には、一首の中に三つの季節が読み込まれています。他の言語では、これほど短い言葉でこれほどの時の推移を表せないものです。古今集は、また、一首一首続けて読んでいくと物語性が隠されていることも分かってきます。心憎い... 続きをみる
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ゲーテは、自分の書いた「若きウェルテルの悩み」は、ほとんど読み返そうとしませんでしたが、この「ヘルマンとドロテーア」という恋愛劇詩については、晩年になっても強い愛着を持ち、何度も読み返したと言います。一読、清新で豊かな抒情性と建設的で骨太い理性とが見事に一体となって感じられる作品で、破れ目のない古... 続きをみる