Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「死の家の記録」ドストエフスキー 新潮文庫

作者は四年間、政治犯としてシベリアの監獄で獄中生活を送りました。その体験から書かれたのが本書です。前書きを除き、文句のつけようのない確固とした写実性に貫かれ、囚人たちの異様な、また最底辺の日常生活が克明に描き出されます。ダンテスク<ダンテ的な>とまで評された風呂場の情景。凄惨な三千にも及ぶ笞刑。労働の本当の在り方を問う廃船解体の場面。野獣としか言いようのない囚人から、驚異的な精神力を持った囚人。また、比類ない人間性の輝きを放つ囚人、民話から抜け出たようなお人好しの囚人等々。無私に徹した作者の見事な観察眼によって、鮮やかなありのままの人間たちの姿が、目の当たりに見えてきます。人間の可能性の宝庫と言って良い書物です。「罪と罰」の名が大き過ぎて、あまり目立ちませんが、ドストエフスキーの名を世界的にした非常な名作です。因みに、当時のロシア皇帝アレクサンドル一世は、この書を読んで涙し、監獄の待遇が改まったと伝えられています。