かねてから思っているのだが、日本語には、英語のbe動詞に相当する意味での存在動詞というものは、ないのではないかという疑念を持っている。 結論から言ってみれば、英語のbe動詞フランス語のetre動詞等は、いわば存在を保証する動詞だと思っている。 日本語いや日本語に限らず、漢字圏の言語では、例えば、「... 続きをみる
2017年10月のブログ記事
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およそ、これほど人生というものに密着している徳もないだろうと思うのだが、宗教でも、これを第一義の徳とする宗教の教義を、わたしは寡聞だが、聞いたことがない。 世界的な宗教では、副次的な役割ばかりである。儒教の八徳にも見えない。 あまりに輝きに欠ける徳だからだろうか。 本当の縁の下の力持ちとは、この徳... 続きをみる
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日本最古の物語です。原文はすべて難解な漢字で書かれています。これが現在の形で読めるようになったのは、江戸時代の国学者本居宣長の三十年余をかけたライフワーク「古事記伝」のおかげです。日本人ならずとも、一度は手にとって読んでみたい本です。宣長は、古事記の神代の巻を評して、「良きは悪しきよりきざす理<こ... 続きをみる
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遠野は、今の岩手県にあたります。もの深い山奥の物語です。「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。」この物語は事実「平地人を戦慄せしむる」に充分な数々の話柄に満ちています。他の書物で柳田はこうも語ります「迷いも悟りもせぬ若干のフィリステル(俗物)を改宗せしむるの機縁を得れば」柳田は、民俗学の戦慄... 続きをみる
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民俗学、生物学の巨人、南方熊楠の評伝です。南方の著作は膨大を極め、その研究もやっと緒についたばかりです。少年の時の南方は「和漢三才図会」と呼ばれる当時の膨大な百科事典の数十ページを、毎日丸暗記して、とうとう全てを写してしまうほどの驚異的な根気と記憶力の持ち主でした。「ヨーロッパにあるようなものは日... 続きをみる
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ユングは、ある同じ神経症の女性患者の症状を分析したフロイトの外向的な解釈とフロイトの弟子であるアドラーの内向的な解釈が、同等の正当性を持っていることに注目し、外向性と内向性というタイプ論を打ち立てました。古今の書物を渉猟し、例えば、ゲーテの外向性の性格と対照的なシラーの内向性な性格について、詳細な... 続きをみる
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後に一家を成したフロイトの高弟アドラーの著作です。アドラーはあまり本を書いていませんが、優越感情や劣等感情など、今では常識になって使われている用語を発案した人物です。アドラーは名誉心や虚栄心などの過度の発達、いわば権力志向が、真の人間性をいかに損なっているかに注目します。人間知はいまだ、発達の途上... 続きをみる
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日本的経営の原点と言われる本書は、江戸時代の疲弊した松代藩で、財政改革を任された恩田木工<おんだもく>の言行を記した書物です。気の重い、難しい仕事を担った恩田は、次々と手を打ちます。まず、長老たちに一切口出しさせないこと。また、命がけの仕事であることを知らせるために、妻に離縁状を出します。それでも... 続きをみる
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ひとことで、資本主義経済というが、その本性は定義も、ある大まかな分類も不可能な、巨大な世界的現象で、文学上のロマンティシズム運動が定義不可能な大きな運動であるよりも、もっと規模の大きな社会的運動であるということである。 分かっているのは、大規模な需要に対する大規模な供給、それと、なによりも速さを伴... 続きをみる
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バッハのマタイ受難曲やヨハネ受難曲を聞き込んだ。 そうして、思ったことがあるのだが、そのことについて少しばかり書いてみたい。 アーチ型の橋を石組みで作るとき、アーチの下の部分をまず木組みで作り、その上に木組みに合わせて石を載せていく。その後に、木組みを取り除けば、しっかりした橋ができる。物理的に見... 続きをみる
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名著「文明論之概略」を精細に読んだ、丸山真男の評論文です。丸山は戦後民主主義を代表する思想家ですが、自分の拠って来たる思想の根本となった、福沢諭吉の代表作であるこの書物を、自分なりに得心のいくまで吟味しようと筆を執りました。丸山の読みは明快です。文明の理想を不抜の理念とする思想は、どこにも曖昧さは... 続きをみる
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福沢諭吉の思想の本領が発揮された書物です。福沢自身が、雅俗混交体と呼んだ俗語も豊富に取り入れたこれまでにない名文になっています。「文明論之概略」には、緒言があります。この未曾有の混乱期を、我が身をそのまま実験台にして「一身にして二生を経る好機」とする人間と、頭だけを切り換えたかに見える奇怪な「両頭... 続きをみる
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現代を代表する知性、立花隆が、七人のサイエンティストと交わした対話集です。多岐に渡る科学分野の第一人者たちとの対話は、知的冒険にも似た興奮を覚えさせてくれます。七人の対話者はいずれも日本人ですが、どの一人を取っても世界の第一線で活躍する人々です。謎を問いかけて止まない、母なる「自然」をかれらはどう... 続きをみる
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「量子力学入門 ー現代科学のミステリー」並木美喜雄 岩波新書
量子力学は、相対性理論と並ぶ現代物理学の知的金字塔です。ミクロの世界における科学及び技術への貢献度は、相対性理論よりも上まわっています。プランク定数h、トンネル効果等、量子論における不思議な現象を懇切に解説してくれます。特に、光の波動性と粒子性の二重性の性質から、物質そのものの波動・粒子の二重性ま... 続きをみる
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難解な相対性理論を厳密に、しかし誰にでも分かり易く説くために、著者は、ニュートン力学から筆を起こします。その次に、動いている船からボールを落とすと、船上の人にはまっすぐ下に落ちるように見え、岸から見る人は、ボールは弧を描いて落ちるように見えます。この二様の見方を説明したのが、ガリレオ・ガレリーの相... 続きをみる
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フランスの科学者であり、哲学者であったパスカルのパンセ「瞑想録」です。「人間は考える葦である」という有名な言葉が見えます。この書は不抜のカトリックの信仰を持つパスカルが、人々を信仰にいざなうために書かれた書物です。信仰を持つ方に賭けることがどれほど大きな得であるかをパスカルは力説します。けれども、... 続きをみる
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今、現代人で心の中に、荒涼とした冬の景色を感じていない人はいないだろう。これは、子どもでさえそうである。胸にポッカリと空いた穴と言っても、いずれ文学的表現なので、同じことだが。 ともかく、一種、異様な光景であることは間違いない。誰もが、不安で孤独な心を持て余してしまっている。 現代人の心は病んでい... 続きをみる
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セネカは暴君ネロの時代に生きたストア派の哲学者です。どのように荒れ狂い、自分を圧倒するような怒りであれ、その怒りは自分ではない。お前はわたしとは別ものだと、男らしい意志を持って、その怒りを自分から截然と切り離すことを知恵とした哲人です。セネカはこの書で、怒りがどれほどの害悪をもたらすものであるかを... 続きをみる
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知がテーマのプラトンの対話篇です。無知の知とは違い、人間が普通に兼ね備えている悟性の働きに注目します。篇中、傍らに侍っている奴隷の知性を試す場面が見られますが、現実の法廷で、真実である信憑性が極めて高いと裁断されるような、リアル感のある場面です。ソクラテスは、実際にその奴隷の知性を、どのような人間... 続きをみる
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ソクラテスの口から哲人政治が語られる雄篇です。じつに激しい議論のやりとりがあります。政治を担うのは哲人こそふさわしい。それも、進んでではなく嫌々ながらするのだというプラトンの政治思想が語られます。この対話篇には「エルの物語」という挿話が入っています。死後の世界を見たエルの話が語られるのですが、良い... 続きをみる
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愛をテーマとして語られた対話篇です。愛の達人であったソクラテスが、酒を飲み、ご馳走を食べながら、名だたる人物たちと語り合います。悲劇詩人のアガトーンがいます。喜劇詩人のアリストパネースもいます。いずれも歴史的人物ですが、対話を主導するのは、もちろんソクラテスです。アリストパネースはしゃっくりを起こ... 続きをみる
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たましいの不死をテーマとした対話篇です。ソクラテスの対話相手が、人間の心の仕組みを、見事な比喩によって解き明かそうとします。死を直前にしても、平静な語り口で語られるソクラテスの言葉には、どんな人間の心さえやわらげるようなただならぬ力を内に秘めているようです。対話が終わり、獄卒に呼ばれ、ソクラテスは... 続きをみる
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ソクラテスが裁かれた後の獄中での対話篇です。法と正義がテーマです。ソクラテスは、自分がこの牢獄から出ないのは、足が悪いからではなく、出ようとする意志がないからだと、脱獄を勧めるクリトンに言います。アテネの法に従うことが、なぜ正義であるのか。ソクラテスの心情は計り知れませんが、その穏やかに平静に語ら... 続きをみる
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プラトン初期の傑作です。アテネの法廷に立ったソクラテスが不当に断罪され、死罪を言い渡される有名な話ですが、ソクラテスは判決を言い渡された後、親しい人々に不思議なことを語ります。「諸君、驚くべきことが起こった。私のダイモーンがまったく沈黙してしまったのだ。」ソクラテスのダイモーンは、ソクラテスが子供... 続きをみる
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語録の王と呼ばれる、臨済宗の開祖、臨済の言行録です。一読、本から爽快な風が吹いてくるような自在極まりない精神を感じさせます。「仏を殺し、祖を殺し、父を殺し、母を殺し、眷属を殺し、親族を殺し、知音を殺し等々」臨済の言葉は奔放そのものです。「赤肉壇上一無位<しゃくにくだんじょういちむい>の真人、これな... 続きをみる
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著者は、禅に深い造詣を持った学者です。本書は禅を修する者の便宜のために書かれた十牛図という絵図をユング心理学を参考にしながら、精細に分析した書物です。牛は、ユング心理学でいう無意識に他なりません。この無意識とどう向き合い人格の上で、調和させるのか。禅修行の発展段階が、錬金術の過程に不思議なほど近似... 続きをみる
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ドイツの哲学者ヘリゲルが日本に来日し、折角だから日本文化を学ぼうと弓術を習うことにします。そこで、論理思考によって武装した西洋の知性と心技体を体得した日本の弓術の師匠との激しいぶつかり合いが生じます。お互いに一歩も譲らないまま弓道の練習は佳境を迎えます。どうしても納得できないヘリゲルに、師は、的に... 続きをみる
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日本第一級の女流作家宇野千代が、人生の師と仰いだ中村天風の座談です。天風は日本軍の工作員として活動している最中に、難病の奔馬性結核に罹ります。病気を治すために世界各地を転々としますが、どうにもならず、諦めて日本に帰ろうとしたとき、偶然、ヨガの行者と出会いその弟子になります。インドでの修行の末、自然... 続きをみる
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くだらない話で、申し訳ないが、御器かぶり、ゴキブリの話である。ゴキブリが、なぜまた、これほど多くの人に、異常なほど嫌われているのはどうしてだろうかと気に掛かるのである。 わたし自身、もちろんゴキブリは嫌いで、見つけると身の毛がよだち、やっつけるのだが、あるとき、ふと「ゴキブリと言えども、生き物には... 続きをみる
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名画をよく鑑賞したいのだが、何をどう見ていいのかよく分からない。そういう人のために、赤瀬川は懇切な入門書を書きました。それがこの「名画入門」です。著者自身が、まったく自分の目で名画を鑑定しようと、先入観を一切取り払って名画と対峙します。そうすると、名画と言われて来た絵画には、やはり立派な価値がある... 続きをみる