Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「沈黙」遠藤周作 新潮文庫

カトリック作家、遠藤周作の代表作です。日本におけるキリスト教・カトリック受容の歴史において欠かすことができない人物です。ルオーの描く、常に弱き者貧しき者の隣に寄り添うキリストの絵に衝撃を受け、長崎で出会った人々に踏まれ続けた踏み絵のイエス像を見て、この作品は形をとりました。小説の最後、責め苦に遭ったバテレンの神父は、踏み絵のイエス像が進んでわたしを踏めと言っている内心の声を聴き取ります。神は沈黙しています。作中、もっとも厳かな場面です。謎めいたイエスの像は、何かを語りかけて来るようです。迫害は常にわたしとともにある。イエスと痛みを分かつように神父は踏み絵を踏みます。日本のイエス・キリスト像がこれほど純粋な形をとったことはかつてありませんでした。日本のカトリック受容の歴史に抜き差しならぬ痕跡を残した名著です。