Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「論語」吉川幸次郎校注 朝日選書

「論語」は、言わずと知れた中国を代表する古典中の古典です。江戸期の大儒伊藤仁斎は自注の稿本を改訂するごと「最上至極宇宙第一之書」と、巻頭に書こう迷ったそうですが、結局、この言葉は削られたそうです。「論語」は孔子を中心とした言行録ですが、体系化され、組織化された儒教が成立する以前の、十分に現代に通用する偉大な知恵の書です。「己の欲せざる所は人に施すことなかれ」という論語を越えて有名な言葉が見えます。この言葉は「恕」という漢字一言で言い表せる徳です。孔子という人は世界の四大聖人の中でも、まったく伝説の衣も宗教的な衣も纏っていない、すぐそこの身近に感じられるというような有り難い人です。私たちは地に足をつけた聖人を目の当たりにすることができます。およそ、どの時代のどのような社会にあっても、中を得た基本図書になり得るようなこの書物の普遍的な性格は、言い表す言葉が見つかりません。この書を読んでいないという人は非常な幸運と言っていいでしょう。これから、なんの先入観もなく、孔子という人物に出会え、その謦咳に接せられるほどの書物ですから。