月澄んで猫になりたい夜だった わたし自身は、月についてのどんな詩を書いてきたかと、振り返ってみたところ、上記の句と下記の詩が思い当たり、UPしてみました。 はじめて、自分の過去記事を、リブログしてみました、宜しかったら、ご覧ください。 詩は、秋の虫と月との取り合わせで、奇抜でも何でもないのですが、... 続きをみる
文学のブログ記事
文学(ムラゴンブログ全体)-
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音楽は、果たして、至上の芸術であるか。 「すべての芸術は音楽になりたかった」というショーペンハウアーのことばは有名で、これに異論を唱える人も少ないようだが、現在、音楽が享受しているこの破格の待遇は、確かなものかどうかを、問うてみるのも面白いかも知れない。 思うに、音楽は、区分けを嫌がる芸術であるよ... 続きをみる
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わたしは、法律の条文が苦手である。と言うより、自分のような文学に馴染んだ頭からすると、とても、不思議な文章に見える。人がことばを操るのではなく、言葉が人を制御するという、まったく逆用の言葉の使い方だからである。 ことばが人を縛るというので、思い当たるもっとも古い言葉は、十戒であろうか。ただ、これは... 続きをみる
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中国に行って、空港に降りたったとき、その中国のにおいの強さに驚いたものである。慣れるまで、小一時間くらいかかったと記憶しているが、中国にいる間中、時折、鼻につくその独特の匂いには悩まされたものだった。 添乗員さんに聞くと、あれは八角のにおいだということで、そういう日本だって、外国の人から、言わせれ... 続きをみる
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和歌によるミクロコスモスと言って良い、日本人や日本語ができるような人なら、誰でも名前なら知っている、藤原定家の編集者としての天才が如実に表わされた、見事な和歌集である。 こう言って置いて、後は、はずかしい話になってしまうのだが、じつは、わたしはこの和歌百首をすべて諳んずることができない。気の利いた... 続きをみる
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<あるいは実験する自己> 自らを 近代文学で試し 中世文学で試し 音楽で試し 絵画で試し 哲学で試し 学問で試みる
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一時期、文学にせよ論文にせよ、翻訳で、一体何パーセントが伝わるのだろうということが、盛んに言われたことがあった。わたしは児戯に属する議論だと思っていたが、一口に言えば、伝わるものは伝わるし、伝わらないものは伝わらない。それで、少しも構わないではないかと思っている。 前掲した「神曲」にしても、原文は... 続きをみる
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この書の題名には、少々不審に思う人が居るかもしれません。俳句という文芸には、解し方や味わい方まであるのか、自由に解し自由に味わえば、それで良いではないかというように。それも、もっともな考え方なのですが、俳句というのは、とても狭い道を行く文芸だということを、忘れないで欲しいと思います。虚子は、さらに... 続きをみる
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人間性とはいいますが、これほど偉大でまっさらな心情を持った作中人物は他にいないでしょう。著者のセルバンテスは、この書のために、風俗紊乱罪で投獄されています。現代の視点から見れば、滑稽なほどの法律の乱用に見えますが、著者の有名な「ドン・キホーテは私だ。」という裁判での弁明の言葉は、その後の文学の脊髄... 続きをみる
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この書は、現在、世界中の美術家の間で読まれている書物です。書中「日本人は障子に遮られて、生気を失った、死んだような日の光を愛した」という言葉は、撰者には、自分の日本人としての心の小暗い深所を、まるで懐中電灯ででも照らされたかのように、あっと驚いたものでした。日本文化を語るときには、欠かせない書物の... 続きをみる
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夏座敷縁側降りる猫の子や耳をそばだて秋の音をきく 夜の秋窓より風のまたぎ来る 月天心とんがりおりぬピラミッド ランボーという男あり秋の夜 くったりと女ねむるやキリギリス しばらくは月を見ていし無人駅 永遠という観念の秋は深み
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猫じゃらし思い思いにクビ揺らし 霧雨やすっと立ちたる赤き花 もみじ葉やアスファルト上二三枚 心病みてむさぼるごとく月を見し 心病めど澄み渡りたる名月や 人形の首のみ取れしさびしさよ 雨上がり沈む西日のすごきかな 春深み小さき花や線路わき
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シェイクスピアの作品の登場人物の中では、年齢が特定されている人物は数名ほどですが、ジュリエットはその中でもはっきりと十四才とされています。これは真剣な恋愛をするのには十四才で十分だということを物語っているようです。この「ロミオとジュリエット」は、悲劇と喜劇との境を紙一重の差で行き来するように見えま... 続きをみる
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大人物トルストイの幼年期の溌剌とした感受性を伝える得難い名著です。トルストイの父母は、トルストイがごく幼いころ、死に別れしましたが、貴族の家の中で、なに不自由なく育てられたと伝記は伝えています。ここには、幼年時代の少年らしさが、まことに飾り気なく、まっすぐな幸福感に満ちた感情で表現され、後年の苦悩... 続きをみる
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林達夫はフランス文学者で、まとまった著作がほとんどない人でした。この書物も、雑多な文章を集めたものと言ってよく、どれも書き流された感がありますが、そのために発想は自由で自在、ときにきらめくような文章に出会います。哲学者の三木清とも交流があり、その経緯を書いた文章が他の書物に見えます。日本のモラリス... 続きをみる
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巻頭に、「別れた妻そうしてまだ見ぬ妻たちへ」と書かれています。異才を放った伊丹十三の半ばどうでもよいと思われる話が、軽妙に語られていきます。女についての毒づき方は、彼の思慕する本当の女らしい女への求愛の方法なのでしょう。伊丹は、やがて女優の宮本信子と結婚し2児をもうけますが、マスコミに追い詰められ... 続きをみる
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サリンジャーはユダヤ人の作家です。日本の禅文化の影響を色濃く受けた人で、巻頭言には白隠の「両手で打って鳴る音を片手で聞け」という禅の公案が掲げられています。サリンジャーは初めから、日本の禅文化に興味を持っていたわけではなく、アメリカで起こった、金持ちの家に生まれ、どこから見ても幸福そうだった青年の... 続きをみる
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梶井は宮沢賢治と比肩する童話的感性の持ち主だったと言っていいのですが、イマージュの鋭角的な強烈さでは賢治を上回っているように見えます。そうして、それが円満な童話的世界を破る裂け目となります。レモンの鮮烈な味と引き締まった造形美に爆発を見、美しい桜の木の下には動物たちの屍体が埋まっているのだと見る幻... 続きをみる
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当時、見掛けだけ大げさでロマンチックな小説が持てはやされていましたが、スタンダールはそうした小説を憎み、一見平板にさえ見えるような文章を用い、本当のロマンチシズム溢れる小説を書くことに成功しました。スタンダールは、この小説を自分の膝に親類の少女を座らせて、その少女に語るように口述筆記をさせて書いた... 続きをみる
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スタンダールは時代を越えてはじめて、その本当の価値が分かると言われるほどの普遍精神の持ち主でした。ただ、フランス人は非常に計算好きな国民性を持っていて、スタンダールもこの恋愛論の中で、恋愛を様々なタイプに分析、分類し、これ以外の恋愛というものは有り得ないということを言っています。有り得ないかどうか... 続きをみる
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親和力は化学用語です。ある物質と他のある物質とが互いに強く引き付け合う化学反応を指します。ゲーテはここで、どうしても互いに引き合って止まない人間同士の恋に例えました。一人は妻のある中年の男、もう一人は、その男を思慕する若い女性です。道ならぬ恋に悩む女性は、ついに絶食して自ら命を絶ちます。男も同じ方... 続きをみる
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ゲーテの幼少青年期の伝記です。占星術にも決して偏見を持たなかったゲーテは、自身のホロスコープを巻頭に掲げています。「ファウスト」に出てくるノストラダムスといい、ゲーテの実に広い教養の幅を思わせます。また、それらに溺れてしまうような人間でも無論ありません。世界精神と呼ばれるほどの人物の伝記です。われ... 続きをみる
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タッソーは実在した歴史上の詩人です。ここでは、ゲーテはタッソーに半ば成り代わってこの劇詩を書いている感がありますが、激情家で疑い深い性格の持ち主のタッソーが、まさに、その自身の性格の故に破滅していく物語です。ゲーテのタッソーへの感情移入は並々ならぬものがあって、劇の終わりにタッソーが縄に掛けられる... 続きをみる
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ゲーテ晩年の著作です。この書には「-あるいは、諦念の人々-」という副題があります。この本を読むキーワードになるような言葉かと思って読んでいますと、はっきりとこの言葉を語るのは、最初に出てくるヤルノという人物だけで、それもほんの少し登場しただけで、後は、最後まで彼の出番はありません。物語は、七十才で... 続きをみる
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トルストイと比べると、ドストエフスキーの方がより現代的な小説家だというのが、一般的な見解となって久しいようですが、人物としては、トルストイの方が遙かに上回っているようです。ト翁という言葉はありますが、ドストエフスキーにはそうした言葉はありません。トルストイには、ドストエフスキーが書いたような芸術と... 続きをみる
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題名は、ベートーヴェンの有名なヴァイオリンソナタからとられています。トルストイはこの作品でクロイツェル・ソナタを徹底的に批判し、やがて、芸術一般を否定する強烈な思想を確立するに至ります。しかし、この小説で見せるトルストイの芸術家としての稟質は目覚ましく、夫が不倫をした妻をナイフで刺す場面などは、圧... 続きをみる
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「死の家の記録」には、多くのさまざまな動物が登場するが、皆、動物の形をした人間である。「カラマーゾフの兄弟」にもペレスヴォンという忘れがたい犬が登場するが、これも犬の形をした虐待された人間である。 ドストエフスキーの目は、本当に人間というもの見て見抜く目で、よくあれほどまでに強烈な興味を人間という... 続きをみる
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およそ小説に描かれた女性で、これほどかわいい女は他にいないでしょう。オーレンカは自分の意見というものを持たない人間ですが、誰かを好きでいずにはいられない女です。三度結婚しますが、三度とも相手の意見に従い、愛し切ります。最後に寡婦になりますが、ある少年に心底から愛情を注ぎます。トルストイは、この短編... 続きをみる
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チェーホフ晩年の作品です。名篇「桜の園」にも通じる象徴的な筆使いが感じられます。三人姉妹は、悲しい運命と俗悪な日常生活に曝されますが、胸の中に宿る小さな倫理的といってもよい希望の火を決して消しません。劇の最後、三人姉妹がそれぞれに、心の底から絞り出したような偽りのない心情を歌うように語る場面は、ど... 続きをみる
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女優志望の娘ニーナは、名声にあこがれて家を出てある劇団に加わり、男に身をまかせ子どもを産み、やがて、男に捨てられ子どもにも死なれます。絶望したニーナは、自分を気まぐれな漁師に撃たれたかもめのようだと「わたしはかもめ。」と繰り返します。「わたしはかもめ。・・・いいえ、そうじゃないわ。」時を経て、ニー... 続きをみる
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ロシアの近代作家チェーホフは医者でもありました。結核を患い44才で亡くなりましたが、その生涯は忍耐に忍耐を重ねた、聖職者のように清潔なものでした。作中のワーニャ叔父さんはどこにでもいるような、さしたる取り柄のない独身の中年男ですが、ある若い美しい夫人に恋をします。ワーニャ叔父さんは結局振られてしま... 続きをみる
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司馬には、硬軟入り交じった著作が多いのですが、この本はその司馬の中でも、もっとも硬い方の著作に属するでしょう。剛直な筆致で、平安期の巨人空海を描きますが、著者の筆が思うように伸びず難渋しているのが分かります。筆者は、後記でこの伝説に包まれた巨人弘法大師の衣の翻りでもいいから描いてみたかったと言いま... 続きをみる
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ロシア戦役で最高司令官を務めた乃木希典を描きます。乃木は当時の論文で、「無能論」が書かれるほど戦術家としては取り柄を持たない人でしたが、松陰と同じ師によって教育されたその精神力は巨魁と言ってもいいものでした。有名な二〇三高地への攻撃命令は、まるで明日の馬の準備でもするような口振りで伝えられます。病... 続きをみる
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戦国期の名将、伊達政宗を描きます。司馬のこの短編は、優に他の伊達政宗に関する書物を凌駕しています。題名は、漢詩もよくした政宗の「馬上少年過ぐ、世は平らかにして白髪多し、残躯は天の許すところ、楽しまずんば又如何せん」からとられています。政宗がこの漢詩を詠んだ時、戦国の世は終わり泰平の世が始まっていま... 続きをみる
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油売りの身から一国の城主にまでなった斎藤道三と稀代の天下人織田信長を描きます。道三の話柄には、多くフィクションが紛れ込んでいる感がありますが、一介の貧民から城主にまで登り詰めた男を描いて、痛快ささえ覚えます。信長については、「信長公記」があるおかげでしょう。写実的な筆致でその人物像を捉えます。戦国... 続きをみる
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著者畢生の代表作、小説「楢山節考」です。舞台は、どことも知れないもの深い貧しい山村です。主人公おりんばあさんは、なんでも食いそうな自分の健康できれいな歯が恥ずかしく、石臼にぶつけて自分の歯をガタガタに傷付けたりします。この村は、いつもの食物に事欠くほど貧しいのです。やがて、おりんばあさんが裏山に捨... 続きをみる
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戦後第三の新人と呼ばれた作家の一人、安岡章太郎の代表作です。海辺の施設には、もう何も判別も判断も付かなくなった認知症の主人公の母が入所しています。主人公は母の傍らに付き添い、一夜を明かします。母との思い出を辿っていく中に、主人公は豁然と蒼穹が開けたような大きな心の境地に到達します。志賀直哉の名篇「... 続きをみる
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舞台は、どことも知れない海岸近くの僻村です。主人公は、まるで人間用の蟻地獄の巣のような、とある一軒の砂に囲まれた家の中に、ふとした油断から堕ちてしまいます。自力ではどうしても這い上がれないその家の中には、一人の女がいます。村人達は、この女と一緒になって、この村の人間になるなら出してやろうと告げます... 続きをみる
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「イワン・デニーソヴィッチの一日」ソルジェニーツィン 新潮文庫
ソビエト連邦はすでに崩壊しましたが、この小説はそのソビエト連邦崩壊の立役者となった作家ソルジェニーツィンの処女作です。筆者は、ドストエフスキーとは違い、全くの無実の罪で当時のソ連の強制収容所へ十年間、囚人として監獄生活を送りました。そのために文学者の中には、この小説に「死の家の記録」に引き続くロシ... 続きをみる
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フレンホーフェルという金持ちの老画家の話です。彼は、熱っぽく絵について語り、瞬く間に一枚の見事な絵を描いてしまうような腕を持っていますが、少し風変わりなところがあります。十年来、ある絵に没頭し、それが自分でも傑作かどうか判じかねているのです。ある機会があって、思い切ってその絵を信頼している画家の仲... 続きをみる
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幾重にも織り巡らされた物語の筋が、最高潮を迎えて、一挙に一点に集中し、破局します。リアリズム作家バルザックの苦り切った顔が見えるようです。バルザックは、自分のすべての作品群を、ダンテが自分の「神曲」をコメディーと呼んだのにあやかり、「人間喜劇」と名付けました。この「幻滅」は、その「人間喜劇」の中で... 続きをみる
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主人公のバルタザールは、科学の「絶対」に憑かれた男です。妻は足の悪い身体障害者ですが、夫のバルタザールのことを愛しきっています。バルタザールは時折、家族のことを顧みはしますが、科学の実験のために、家のほとんどの財産を蕩尽してしまいます。その間に妻は亡くなってしまいますが、見かねた娘がバルタザールに... 続きをみる
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ウジェニーの家は葡萄作りで収入を得ていて、非常な金持ちです。これはウジェニーの父が、本物の守銭奴であるためで、父は、家族全員、召使いにも爪に火をともすような暮らしを強制させます。これほど頑丈な守銭奴の性格の持ち主は、どの小説にも見られないと言っていいでしょう。妻がどうなろうと娘のウジェニーがどうな... 続きをみる
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バルザックの中では、比較的短い小説ですが、強い感動を受けずにはいない傑作です。話は、二人の子どもを連れた若く美しい未亡人が誰とも付き合わず、ざくろ屋敷で行い澄ましているところから始まります。なぜ、未亡人は誰とも付き合おうとしないのか。その理由は、読み進むうちに明らかになりますが、物語の末尾は、どの... 続きをみる
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バルザックは51才で亡くなりましたが、創作意欲は実に逞しく膨大な量の小説を後世に残しました。この「谷間の百合」はそのバルザックの小説の中でも、「ゴリオ爺さん」と並んで、最高傑作と目されるものです。舞踏会で出会った美しいモルソフ伯爵夫人に恋をしてしまった純情な青年フェリックスは、夢がかない夫人とつき... 続きをみる
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作者の中島敦は若年で亡くなりましたが、漢文調の簡潔で力強い文章を得意とし、さまざまな格調の高い小説を残しました。この本に収められている短編は、どれも完成度の高い、何回もの再読に耐える、古典の名に値する名篇です。囚われの身となった「李陵」が、鬱屈を晴らそうと馬で駆けて行く場面は雄渾ささえ感じます。「... 続きをみる
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ゴッホは画家ですが、弟のテオや友人に宛てて、非常に多くの手紙を残していたことはあまり知られていません。しかも、その多くの手紙は、ゴッホの多くの絵と同じくらいの、またそれ以上の文学的な価値を持ったものだとなると驚きを増す人は多いことでしょう。ゴッホの絵が、誰の真似も追従も不可能な、断固たる芸術的な価... 続きをみる
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一時代前に、一世を風靡した小さな名言集です。撰者のかんがえとしては、こうした簡便な本から、引用された文章を読んで、当の本を読んだ気になるのは、どうかとは思いますが。この本から、さらに孫引きされた言葉が、一人歩きしている感がありますので、一言しておきたいと思います。この本には、寺山の意訳がかなりあり... 続きをみる
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菊池寛の残した唯一の自伝ですが、題名の通り、自分の子どもの頃のしかも「万引き」をしていた自分の悪さを中心に書いた破格の半自叙伝です。作者の良いところは、まるでと言っていいくらい出て来ません。写実的に描かれた子どもの頃の悪事は、作者の鋭敏な心情をずいぶん傷付けたに違いないのですが、読者には「万引き」... 続きをみる
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近代の小説家、井伏鱒二の唯一の詩集です。小説が書けなくなったときの厄除けに書いた詩群で、それで、「厄除け詩集」とつけたと言っていますが、その内容から見ても、井伏が詩人としても抜群の素質の持ち主であったことを窺わせます。漢詩を現代語訳した詩「この盃を承けてくれ、どうぞなみなみ注がせておくれ、花に嵐の... 続きをみる
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演劇の世界で活躍した著者は、短詩型もよくしました。この本はその寺山の短歌俳句集です。題名の由来となった「マッチする束の間海に霧深し身すつるほどの祖国はありや」の歌も収められています。終戦直後の日本人の複雑な心境が読み込まれていると言っていいでしょう。寺山の詩歌は音楽的で独特の韻律を持ったものです。... 続きをみる
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「海潮音」が文語調であったのに対し、この訳詩集は多くは口語調の詩として、さらに新しい時代の文学に資するために書かれました。やはり、フランスの詩が多く訳されました。「巷に雨の降るごとく、われの心に涙ふる」のヴェルレーヌの詩を訳した詩編は多くの人々に愛唱されました。「海潮音」と比べてみると、格段に近代... 続きをみる
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晩年の志賀は、老練な剣豪のような風貌をしていました。志賀は、日本語から大理石像のような不動の文章をきり出すことに成功しました。ニュアンスが豊富なために、平易な言語で、正確な文章を書くことの難しい日本語の性質と、長年の間、格闘したことのあらわれなのでしょう。その日本語をあくまで生かしきりながら、簡に... 続きをみる
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芥川は、晩年のある時期を除いては、宗教的な考え方について秀れた見識を有していました。この作品では、布教のために近世日本にやって来た主人公のバテレンを通して、日本人の宗教の有り様を見事にとらえて見せています。短編小説ですから、論理的な説得力を持ったものではありませんが、日本的な宗教の微妙な勘所をたく... 続きをみる
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世界最古の英雄叙事詩です。起源は聖書より古いとされ、神話上の人物オデュッセウスが主人公です。「オデュッセイアー」とは「オデュッセウスの物語」という意味です。非常な冒険譚に富んだ物語で、古代ヨーロッパの人々にとって冒険がいかに人生の重要なテーマであったかを窺わせます。一度その歌声を聞いたら、もうその... 続きをみる
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芥川は、小説の中で自分の姿を見え隠れさせます。それが、初期の頃はピリッとしたエスプリと自嘲の効いたよい味の作品になるのですが、後期になると、やり切れないほどの苦い後味を感じさせるものになっていきます。この「蜜柑」では、世間の塵埃にまみれた自分というテーマは相変わらずの芥川ですが、はじめのうちはがさ... 続きをみる
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頭の働きは悪く、無教養だが大金持ちの町人ジュールダンは、貴族になりたくてしようがありません。貴族の真似をして、じつにさまざまな習い事に手を出します。ついには、娘も貴族でなければ、嫁にやらないと言い出しますが、ジュールダンは、貴族のしたたかさに手もなくやられてしまいます。観客はその有り様に抱腹絶倒し... 続きをみる
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ヨーロッパ、特にフランスの近代詩を日本に紹介することに尽力した上田敏の名高い訳詩集です。藤村の新体詩抄等に飽き足らず、「一世の文芸を指導せん。」との意気盛んな抱負の元に書かれました。もはや、日本文学の仲間入りをしたと言っていいでしょう。気品のある名調子で訳された詩の数々は、多くの日本人に愛唱されま... 続きをみる
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著者は言います。「日本文学の盛り上がりのときを見ていると、古今集にしても、新古今集にしても、その他の連歌、俳諧にしても、「合す」原理が強く働き、それだけではなく、その「合す」ための場の直中で、いやおうなしに「孤心」に還らざるを得ないことを痛切に自覚し、それを徹して行った人間だけが、瞠目すべき作品を... 続きをみる
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著者のライフワークです。朝日新聞の第一面にコラムとして、長年月に渡って一時的な中断はありながらも、毎朝掲載されました。海外、特にヨーロッパでは、日本には大新聞の一面に文芸批評が載っているとして、驚きの目で見られました。日本の短詩型の文学によく合致した小さなスペースに収まる文芸批評です。俳句や短歌な... 続きをみる
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一読して、その明快で、流麗な文章が目を引きます。漢の武帝の時代は中国の歴史の最初の大転換期にあたります。はじめて儒学を定立し、その後、二千年に渡り引き継がれた経学、文学、史学を発足させました。有名な歴史家の司馬遷も武帝の時代の人です。つい最近の民国革命に至るまで、中国のお国柄となる中核の性格を形作... 続きをみる
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トルストイと比べてドストエフスキーは常識外れと思われがちだが、作品の中で社会常識を踏み外さないのは、むしろドストエフスキーの方である。 晩年のトルストイの無政府主義的革命家とも思える言動は、社会の在り方を根底から引っ繰り返そうとする道徳的野人のそれである。しかも、これは晩年に限ったことではないので... 続きをみる
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「詩聖」と呼ばれる杜甫の名詩群をさらに厳選して、解説を加えた書物です。著者の吉川幸次郎は、中国の古典中、冠絶した二著として「論語」と「杜甫詩集」を挙げています。杜甫の詩が日本文化に与えた影響は、白楽天には及びませんが、芭蕉は奥の細道の旅で杜甫の「杜工部集」を懐に忍ばせています。それから得られたのが... 続きをみる
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フロイトのオイディプス・コンプレックスの出処となったギリシア悲劇です。オイディプスは、自分でまったく知らぬ間に、父を殺し、母と結婚して子を産ませます。劇は、そのオイディプスの所行が、連れて来られるさまざまな人々の証言から、次々と明るみに引き出されて行き、劇を見る者がオイディプスの悲惨極まりない運命... 続きをみる
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世界文学の最高峰に位置する小説です。作者が最も成功した「罪と罰」を越えていると言っていいでしょう。「罪と罰」も含めた、ドストエフスキーの後期の大小説群は、単に、長いからというのではなく、コスミックと言えるほどの大きさを持っているのですが、この書はその中でも、最も円熟した作品です。「カラマーゾフの兄... 続きをみる
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現代の黙示録とまでいわれる本書は、他のドストエフスキーの作品と一線を画します。この点、シェイクスピアのマクベスに似ています。これは、単なる文学上の趣味的な見方でいうのではありません。主人公のスタブローギンは徹底して悪の道を歩きます。それも、最初は単なる興味本位からですが、それが、スタブローギンの行... 続きをみる
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「罪と罰」を書き終えた著者が、「無条件に美しい人間」を書こうと筆を執ったのがこの小説です。「キリスト公爵」と呼ばれるムイシュキン公爵がその人ですが、不思議なことに「あなたはキリスト教徒か」と問われ、ムイシュキンは黙っています。人々を途方に暮れさせるようなムイシュキンの純潔さには、ある形容し難い奥行... 続きをみる
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軍記物の一大叙事物語です。平氏の絶頂から没落までを具に描き、つはものたちの躍動感に満ちた言行を簡潔な和漢混交文で活写します。木曽義仲の最期などは、真に武人らしい最期で、芭蕉が惚れ込んだものです。時代の意匠であった仏教思想は、手玉に取られているようで少しも抹香臭さを感じさせません。男らしい人間臭さが... 続きをみる
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モーパッサンの作品中、もっとも有名な小説です。ある平凡な貴族の娘の平凡な一生が、鮮やかに活写されます。ここにも、著者は特に優れた人物は一人も描いていません。モーパッサンの作品では、自身を題材にしたいくつかの小説を例外として、著者自身ほとんど顔を出すことはありません。この小説の最後で、ある平凡な女の... 続きをみる
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モーパッサンには、研究書の類がほとんどありません。人生がそのまま書かれてあって、それを読めば誰にでも分かる。わざわざ研究書を書く必要などあるまいという訳です。この短篇集はその人生を書く達人であったモーパッサンの選りすぐりの名篇が集められています。どれを取ってみても人生の妙味を味わえるものばかりです... 続きをみる
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モーパッサンはフランスの小説家です。この「ピエールとジャン」は著者の最良の作品と言っていいでしょう。この小説には、少し長めの序文があります。モーパッサンの師匠に当たるやはり小説家のフローベルから受けた薫陶の言葉、「主語を飾るのは一つの形容詞、動かすのは一つの動詞で足りる。しかも、それは他のものとは... 続きをみる
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先述の「詩を読む人のために」の姉妹編にあたります。ここでは、三好は現代詩に限らず、もっと自由に一月から十二月に渡る古今の詩歌を自在に引用し、また、自らの詩的経験を単なる一経験として記述し、読者を自由な詩歌の鑑賞へといざないます。俳句、和歌、口語自由詩、そして、作者にとって最良の詩の手本であった漢詩... 続きをみる
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三好達治は萩原朔太郎の弟子にあたります。自身優れた詩人であった著者が、現代詩を読もうとする年少の人たちのためにと筆を執りました。著者は「詩を読み、詩を愛する者はすでにして詩人であります。」と古人の言葉を引き、そう人々に呼びかけます。「この書物は、たださまざまの詩を、私という一箇の貧しい心に迎えて、... 続きをみる
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近代抒情詩の確立者、萩原朔太郎によって描かれた与謝蕪村です。俳人蕪村に、すでに近代に繋がる水々しいロマン的な抒情性を見出し、芭蕉が「漂泊の詩人」と呼ばれたのに対し、「炉辺の詩人」「郷愁の詩人」と名付け、その本質をあたたかいロマンの詩人として見出しました。「君あしたに去りぬ。ゆうべの心千々に何ぞ遙か... 続きをみる
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俳聖とまで呼ばれた芭蕉畢生の傑作です。昔、権力者から「歌枕の意味を調べてこい」と左遷された人々にあやかって、その意味を逆手にとって出掛けた旅でした。江戸からはるばる奥州に至り、旅の連れの門人曾良は病いに倒れ旅を諦めます。芭蕉自身も病いに伏せりますが、それでも旅を続け、とうとう旅の最終目的地、桑名に... 続きをみる
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ドストエフスキーの小説、特に「罪と罰」以降の作品には、独特の時間が流れていることは誰も指摘することだが、それについての詳細な論は読んだことがない。 ここで少し、それについてかんがえてみたい。まず、ドストエフスキーの時間の扱い方だが、ドストエフスキーは、じつにうまく現実の時間を利用していることである... 続きをみる
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これまでの紀貫之のイメージを一新した画期的な名著です。子規の「下手な歌よみ」評から論を起こし、貫之は決して子規の言うような歌人ではなかったことを、「うつしの美学」と著者が呼んだ菅原道真の詩との関連を説き進め、古今集の暗示性、象徴性を体現した歌人であったことを豊かな説得力を持った文章で論証していきま... 続きをみる
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川端による清新な「竹取物語」訳です。源氏物語に「物語の出でし始めの祖」と書かれていることは有名ですが、竹取物語には、歴史上の実在の人物も登場するという虚構と現実が入り交じった性格を持っています。求婚者に無理難題を吹っかけるかぐや姫の姿は、ある意味で、現代の女性とも似通うところを持っています。ともあ... 続きをみる
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評論家で詩人の著者が、万葉集のおもしろさを伝えるために、懇切丁寧な解説を加えながら書き下ろした書物です。「今生きている私たちにとって、『万葉集』を読むことがどれほど身近なものでありうるかをということを、実際の作品を読むことを通じて考えよう」とした著者は、万葉学者でもなければ、その専門家でもありませ... 続きをみる
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シェイクスピアの四大悲劇の中で、もっとも色調の暗い悲劇です。これは、マクベスが本物の悪人に他ならないことから来ています。王の高貴な血筋を断ったマクベスは、自ら、王位簒奪者になります。魔女の予言にいいように振り回され、権力をわがものとするために、殺し屋に暗殺を依頼します。マクベス劇中もっとも暗い場面... 続きをみる
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著者の吉田健一は、総理大臣を務めた吉田茂の長男です。多くの著作がありますが、著者のもっとも円熟した時期に書かれた傑作です。吉田健一の文体は独特です。奇妙と言っていいほどですが、紆余曲折しながら進む文章に導かれていくと、豁然と展望の開けた高台にいることに気付きます。ヨーロッパが真にヨーロッパであった... 続きをみる
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この「おすすめ本」に入れるかどうか迷う本ですが、やはり、取り上げましょう。リルケはドイツの詩人です。ロダンの秘書を務めたこともあります。リルケは、何よりもネガティブなもの、殊に夜をこよなく愛しました。「闇の詩人」と言ってもいいでしょう。この「マルテの手記」の毒は強烈です。リルケ自身が、マルテの心情... 続きをみる
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数多いバルザックの作品の中でも、選り抜きの最高傑作です。バルザックは、スタンダールと同時代人のフランスの小説家ですが、スタンダールとはまるで作風が違います。充分に前置きを固めておいて、大団円まで持っていきます。前置きがかなり長いために、中途で読むことを諦めてしまう読者も少なくないほどです。けれども... 続きをみる
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ト翁とまで称される文豪トルストイの面目が躍如とする一大叙事小説です。トルストイは人間が想像しうるあらゆる才能を備えた人間と絶賛されました。「戦争と平和」はそのトルストイが、幼年時代から続けていた日記も止め、図書館が一つ建つくらいの膨大な文献を渉猟し、文字通り天才が心血を注いだ作品です。登場人物は五... 続きをみる
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二十歳という若さで、世界の頂点に立つ詩を書きあげ、その自ら書いた詩をなげうって、アデンの砂漠へ旅立ち、37歳で死んだフランスの詩人ランボーの作品です。ランボオは誰のためにも詩を書きませんでした。そのために、書かれた詩は非常に難解ですが、生命そのもののようなギラギラする鮮烈なイマージュは、めまいのす... 続きをみる
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帝政ロシア末期、停滞しきった活力のない社会を背景に、後は、消え去るのみの没落地主の貴族とその配下の者たち。チェーホフは、じつに澄み切ったまなざしで、彼ら、運命に押し流されていく役割の終わった人間たちの姿を描きます。劇の最後、溜め息のように登場人物が自身につぶやく「この出来そこないめが。」というセリ... 続きをみる
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ごくありふれた平凡な役人イワン・イリッチは、人生においても平凡な楽しみと平凡な苦労の連なりでしかない生活を送り、また、それに満足しきっていました。その彼が、ふとしたはずみの事故で、死に至る難病におかされます。トルストイは、この死に直面した平凡人を、時に残酷とさえ思えるような迫真の筆致で、正確無比に... 続きをみる
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作者は四年間、政治犯としてシベリアの監獄で獄中生活を送りました。その体験から書かれたのが本書です。前書きを除き、文句のつけようのない確固とした写実性に貫かれ、囚人たちの異様な、また最底辺の日常生活が克明に描き出されます。ダンテスク<ダンテ的な>とまで評された風呂場の情景。凄惨な三千にも及ぶ笞刑。労... 続きをみる
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作者のルイスは数学者です。作品は、物語好きなルイスが仲のよい少女たちにせがまれて、書き始めたことから生まれました。「鏡の国のアリス」はその一つです。自分の内面にある劣等な人格面を、これほど小気味よくさらけ出した作品もちょっと他に見当たりません。王女は、訳も分からず「首をはねろ!」とわめき散らします... 続きをみる
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太宰治の代表作。太宰の人生を色濃く反映した自伝的な小説とされています。他人の前では面白おかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出すことのできない男。仕事についてのやる気を問われてもどうとも返答しない男。徹底的に、世の中の余計者であり続けた男の人生を描き、海外でも多くの人々の共感を呼... 続きをみる
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燕の子横一列に顏並べ 動くとも見えでうつろう春霞 冬の夜の思いはとぎれ雨の音 それぞれの星を背負いて雪の道 生き抜けとつぶやくごとく寒椿 行く春や行方も知れぬわが身かな もの言はぬ自販機うれし炎天下