この劇詩は、選ばれた少数の人々のためにしか書かなかったとゲーテは言っています。老博士ファウストはあらゆる学問を究めた後、言い知れぬ虚しさを味わいます。悪魔メフィストが現れ、世の活動に満足を見出すまでという契約によって、再び若さと健康を手にし、世の中のあらゆる活動にわが身を委ねます。ゲーテが五十年の... 続きをみる
2017年8月のブログ記事
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主人公のヴィルヘルム・マイスターは、恋に破れ、ある劇団に身を置きます。そこではハムレットを演じるのですが、この小説自体が一編の卓抜なハムレット論にもなっています。ハムレットは性格劇ではないという卓見がここで出てきます。その劇団で運命の荒波にもまれながら、ヴィルヘルム・マイスターは成長していきます。... 続きをみる
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無意識心理学の祖フロイト自身による精神分析学の入門書です。フロイトは重度の神経症者でした。弟子のユングの夢を聞き、ユングは私を亡き者にしようとしていると思い込み、列車の中で倒れてしまうほどの症状でした。フロイトの学説は自身の神経症が治癒していく過程から生み出されていったものです。また、フロイトは稀... 続きをみる
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エラン・ヴィタール「生命の飛躍」と訳される有名な言葉の登場するベルクソンの進化学説です。ダーウィンの「進化論」では説明できない生物の進化の過程を、非常な知力を用い、徹底的に考究していきます。そこから直観されたのが、先に書いた「生命の飛躍」です。付言しておかなければなりませんが、ベルクソンの言う「直... 続きをみる
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原題は「意識に直接与えられたものについての試論」という長い題です。ベルクソンは、われわれが日常感覚として持っている当たり前な自由感から決して離れません。自由が哲学者の間でどう論議の対象となろうが、この自由感からものを考えようとします。ベルクソン自身が、わたしは実在論も観念論も行き過ぎていると感じた... 続きをみる
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ホフマンはドイツの人で、作家、作曲家、画家、法律家と多岐に渡る才能を見せました。現在では、後期ロマン派の幻想文学の奇才としてよく知られています。現実と非現実が直接に交錯する彼の作風は、読む者の感覚を奇妙に混乱させてしまうようなものを持っています。まさしく幻想文学ですが、単なる幻想文学の枠を越えて、... 続きをみる
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運命であるか わたしを遠くへ連れ去ろうとするものは 過去を振り返ろうとは思わない わたしはあんまり出鱈目な道を歩いてきたから それが生きるに値する 物語であるなら 過去は自らを自らの言葉で語り始めるだろう 町の灯が雨に滲む バスは濡れている 病んだ心を抱えていることが わたしを前へ進ませるのか 空... 続きをみる
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著者の吉田健一は、総理大臣を務めた吉田茂の長男です。多くの著作がありますが、著者のもっとも円熟した時期に書かれた傑作です。吉田健一の文体は独特です。奇妙と言っていいほどですが、紆余曲折しながら進む文章に導かれていくと、豁然と展望の開けた高台にいることに気付きます。ヨーロッパが真にヨーロッパであった... 続きをみる
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若い頃の渡辺一夫が、この書物を読み「人生に絶望した」と言っているほど、強烈な毒を中に秘めた書物です。「われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない。」この書の中心思想となる巻頭言です。ラ・ロシュフコーはフランスのモラリストですが、人間洞察に格段の炯眼を見せました。著者にはポルトレと呼ば... 続きをみる
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本の上での友人が欲しいと思う人は、このエセーを読んでみるといいでしょう。モンテーニュというまったく等身大の当たり前な人間が現れて、そのモンテーニュという何者でもない人間と付き合うように本を読んで行くことが出来ます。モンテーニュがこの書物を書くきっかけとなったのは、無二の親友を亡くしたことにあります... 続きをみる
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著者は絵画の専門家ではありませんが、日頃から傾倒している画家セザンヌについての一書を著してみたいと筆を執りました。遠近法に従って見ていると、どうしても違和感の出て来るセザンヌの絵の特徴を詳しく説明し、その拠って来たるセザンヌの創造の秘密に迫ろうとします。人物としても非常に風変わりであったセザンヌの... 続きをみる
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著者は音楽や絵、文学に造詣の深い文芸評論家です。詩人の中原中也とも親交がありました。中也はバッハの「パッサカリアとフーガハ短調」が大好きだったそうです。豊富な音楽体験をもとに、どの曲がどのように好きなのか鍛え上げられた審美力を用い、懇切に楽曲の本質に踏み込んで解き明かしてくれます。著者自身をさらけ... 続きをみる
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著者の長男光君は、脳に障害を持って生まれました。著者はこの小説で、その受け入れがたい現実を虚構の世界に仮託して、自分と血を分かつように書いた主人公が、その過酷な現実を進んで受け入れるまでの魂の遍歴を翻訳体の独特な文体を用い、具に描きました。小説では、障害の程度は軽かったように描かれていますが、本物... 続きをみる
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戦争という狂気に走らざるを得ない人間というものを、深く考究した書物です。著者は、ある著名な文学者の書いたまったく当たり前な戦争反対論を携えて、第二次世界大戦当時、少しでも戦争反対に尽力しようと、自分の知り合いたちに、戦争のような無益なものに関わることがいかに馬鹿げているかを説いて回ります。著者のユ... 続きをみる
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非常に名高い本ですが、実際に読んでいる人の少ない本です。著者は心理学者で、クライアントとして来た英語の堪能な女性が、息子のことを相談するときに、「この子は幼いとき甘えなかった」という言葉だけを日本語で語ります。英語には「甘える」という言葉がなかったからです。それが、著者の「甘え」論のきっかけになり... 続きをみる
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クラシック音楽の好きな人なら、ぜひ座右に置いておきたい一冊です。古今のクラシック音楽の中から、年代順に300曲を厳選しそれぞれに著者の卓抜で正確な評価を加えていきます。グレゴリア聖歌からシュトックハウゼン、武満徹に至るまで、クラシック音楽に対する著者の並々ならぬ造詣の深さは、単なる紹介書の域を超え... 続きをみる
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日本はタテ社会であるという現在では当たり前となっている常識を作った書です。著者の言うタテ社会の意味は、しかし、実際に本書を読んでみれば分かりますが、現在流布している「タテ社会」という言葉とは、ずいぶん異なったものです。常識として通用している言葉が、いかに本来の意味合いから遠ざかってしまうものである... 続きをみる
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イギリスロマン派の神秘詩人ブレイクの詩集です。ブレイクには次の言葉があります。「生きとし生ける者はみな神聖である」心の無垢なやわらかさというものをこれほど見事に詩にのせることのできた詩人は他にいません。わたしたちには何の準備も要りません。ブレイクの語る言葉に素直に聞き入っていれば、そのまま自分のも... 続きをみる
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サン・テグジュペリはフランスの作家です。この作品は世界中の多く人に読み継がれて、中には熱狂的なファンがいます。「星の王子様」は永遠の少年の物語と言っていいでしょう。本当に大人と言える人間が果たしているのだろうかという現代の状況にあって、むしろ、進んで開き直って大人になることを拒んだ書と言えるでしょ... 続きをみる
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カトリック作家、遠藤周作の代表作です。日本におけるキリスト教・カトリック受容の歴史において欠かすことができない人物です。ルオーの描く、常に弱き者貧しき者の隣に寄り添うキリストの絵に衝撃を受け、長崎で出会った人々に踏まれ続けた踏み絵のイエス像を見て、この作品は形をとりました。小説の最後、責め苦に遭っ... 続きをみる
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三島は、現代では稀な名文家と言っていいのですが、この文章読本は、谷崎のそれに劣らないほどの仕上がりになっています。「あなたが小説を書くとき、彼女は絶世の美女だと書けば、それで、そのままその人は絶世の美女となるのです。」というような言葉には、なんとも言えないユーモアさえ籠もっています。鴎外の簡潔な文... 続きをみる
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良い文章を書きたい願いは誰でもあります。この本は大谷崎と称された文豪が、読書人のために良い文章を書くための便宜を図るために書かれたものです。単に文章の手引き書というだけではなく、文章自体に味わい深い品格があります。懇切丁寧な文章の紹介を読むと、思わず自分でも何か文章を書きたくなってきます。作品とし... 続きをみる
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キリスト教では、先述の聖書を旧約聖書と呼んでいます。コーランも、拠り所となっているのは、聖書です。ムハンマドはイスラーム教をアブラハムの宗教だとさえ言っています。この新約聖書くらい輝かしい書物はないでしょう。古代中国ではキリスト教を景教と呼びました。「景」とは、光り輝くという意味です。イエス・キリ... 続きをみる
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アダムとイブの物語が載せられた有名な書物ですが、この書物を最後まで読み通した人は少ないことでしょう。聖書は神話ではありません。神話はその民族の永続を願って作られるものと言っていいのですが、聖書の神は、そのイスラエルの民に、もしあなた方がわたしの言葉に背くようなら、わたしはあなた方を滅ぼし尽くすであ... 続きをみる
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この「おすすめ本」に入れるかどうか迷う本ですが、やはり、取り上げましょう。リルケはドイツの詩人です。ロダンの秘書を務めたこともあります。リルケは、何よりもネガティブなもの、殊に夜をこよなく愛しました。「闇の詩人」と言ってもいいでしょう。この「マルテの手記」の毒は強烈です。リルケ自身が、マルテの心情... 続きをみる
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数多いバルザックの作品の中でも、選り抜きの最高傑作です。バルザックは、スタンダールと同時代人のフランスの小説家ですが、スタンダールとはまるで作風が違います。充分に前置きを固めておいて、大団円まで持っていきます。前置きがかなり長いために、中途で読むことを諦めてしまう読者も少なくないほどです。けれども... 続きをみる
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ト翁とまで称される文豪トルストイの面目が躍如とする一大叙事小説です。トルストイは人間が想像しうるあらゆる才能を備えた人間と絶賛されました。「戦争と平和」はそのトルストイが、幼年時代から続けていた日記も止め、図書館が一つ建つくらいの膨大な文献を渉猟し、文字通り天才が心血を注いだ作品です。登場人物は五... 続きをみる