Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 「カラマーゾフの兄弟」 <17歳の春>

「カラマーゾフの兄弟」を高校時代の17歳の時に読み、圧倒的な衝撃を受けた。それまで、うつろな観念の集合体以上のものではなかった人間たちが、わたしの心のなかで突如としていきいきと躍動しはじめ、ひからびていた心臓に本当の血流が注ぎ込まれ、たくましく鼓動を打ちはじめた。いや、それでもまだ弱い比喩である。わたしは歓喜の絶頂まで連れていかれ、脳天に落雷でも受けたかのように驚き、感動し、ドストエフスキーを読んでいない人生などほとんど考えられなくなった。それはまさしく壮観だった。およそ人間が経験しうるあらゆる精神の劇がこの本に圧縮されていた。以後のわたしの人生の「よき避難所であり、また躓きの石」となったのである。その意味は、わたしの精神的な危機を救ってくれた有り難い小説であるには間違いないのだが、キリスト教という大問題が背後に控えていたことである。この当時、文庫で出ていたドストエフスキーの本は、ほとんどすべて読破した。わたしがクリスチャンにならなかったのは、わたしの家の宗教のお陰である。それから、小林秀雄の論考も与って力があった。小林秀雄は全集を読み漁った。もう亡くなってから相当な年月が経つが、わたしが現代人の中でもっとも尊敬しているのはこの小林秀雄である。


一句
カラマゾフ十七の春炸裂す