Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

2017年4月のブログ記事

  • 現代詩 記憶

    明るい夕暮れ 少女がまぶしく笑いながら駆けていく 少年の日の 思い出は裂け 傷口は新しい血を流す 記憶はやわらかい肉体 わたしが人間であることを思い出させてくれる

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  • 自作詩 夜の航海

    船乗りたちが飽きず眺めた星空を、今夜ぼくは見ることができるだろうか 船底で泣き、強い酒に焼けた、彼らのたくましいのどに通う歌をぼくは歌いたい 甲板に何日も、居座り続けたアホウドリを〃親父〃と呼んだ彼らの生を、ぼくは語りたい   雲の垂れ込めた 夜の海 船は暗黒の航海をつづける 船乗り達は眠る 明日... 続きをみる

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  • 現代詩 春夜

    あなたに秘密を告白した日 春の夜は にじんでいました 張りつめた目で あなたは侵入してくる痛みに じっと 耐えているようでした 城は町の灯に映え 川は黒く 夜道は遠くかすんでいました 濡れた目を伏せ もう一度 しみるような目を上げた あなたを わたしはしびれた両手で引き寄せました 夜気が下りてきま... 続きをみる

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  • 現代詩 詩心

    言葉でいい 真心を書くのなら ありふれた言葉でいい 色はなくてもいい 精神を写すのなら 活字でいい 鍵は開いている

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  • 現代詩 四季の音

    それぞれに不思議な焦点を結ぶ 一つ一つの季節を 君は机の引き出しにきれいに整理してしまい込み 鍵をかけて忘れた 冬枯れの薄に気がつきもせず 君は坂道を登って行く あの薄の穂が空にさしかかるあたり 永遠が青くきらめいていたのに 生きることの意味を尋ねて行った道の途上で 君は途方に暮れている 両手で打... 続きをみる

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  • 現代詩 肉体

    ぼくはきみのやわらかい体を抱いた きみはぼくの何であるかを ぼくはきみの何であるかをまるで理解してはいなかった ぼくらはお互いそんなにも孤独であった きみのうつくしい胸にふれたとき きみは恥じ入るように目を伏せ そうして ぼくを受け入れた 夜の風が鳴いた きみはどこまでもやわらかかった そして か... 続きをみる

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  • 現代詩 マイ・ハート

    これがわたしの心臓です ずいぶんしなびて赤いのですが 白い洗濯物と一緒にぶら下がっている わたしの一つしかない心臓です 風の鳴る夜は、シャツといっしょに 夜の夢が一杯つまった 洋服ダンスの中に いれておきます 出かける前は忘れずに 洗濯物といっしょに干しておきます ある朝二羽のヒヨドリが来て啄んだ... 続きをみる

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  • 現代詩 都市

    白い日の光が照る ビルは都市の海に浮かぶ島々 伝説を忘れた潮流のように自動車は 流れていく 魚群のような人々は 張り巡らされた道を縫って歩く まぶしく反射する ガラス 都市に酔い痴れるものたちのため 歪に切り取られた 立体の空 けたたましい航空機が そこに描く白い直線意思 高速道路は豪華な日除け ... 続きをみる

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  • 現代詩 ガードレール

    冬 曇天の空に 雨が降る 痩せた 形ばかりの人間が 草の枯れた川原にしゃがみこんでいる こわばった頬に雨があたる おお 冷たさに身を震わすのだ この人間の形をしたものは もっと冷たい空洞が 胸の奥に空いているというのに しばらくすれば体は冷えきり 風邪を引いてしまうだろう 彼は持っていたライターで... 続きをみる

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  • 現代詩 耳

    子どもは聴く 新聞が新聞受けにゴソッと入る音 ばあさんがおりんを鳴らす音 牛乳が吹きこぼれる音 クラスメイトのざわめき 先生のあくび 給食の食器がカチャカチャ鳴る音 放課後の高校生のおしゃべり バスの運転手のしゃがれ声 枯葉がアスファルトの上をサラサラ転がっていく音 いたずらをした弟の泣き声 母さ... 続きをみる

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  • 現代詩 燃えあがる月

    幼いとき 月と太陽は同じものだと思っていた 昼はさんさんと輝き 夜になると静まり微光を放つ そんな芸当ができる天体を ぼくはただただすばらしいと感じていた それでは 昼と夜の区別はどうつけているのか 当時のぼくにはそれが説明のつかない難問だった あるとき ぼくは真昼間に月を見た 夜見るよりも白っぽ... 続きをみる

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  • 現代詩 赤ン坊

    キミは何を見ているんだろう そんなにあどけないつぶらな瞳で 何度も こちらを振り返りながら 何をそんなに気にしているんだろう キミにはぼくの姿がどう見えているんだろうか キミという不思議な鏡 ぼくがほほえむと キミも無邪気にほほえみを返し それから ぼくの見知らぬおかあさんの腕の中で 手足を振って... 続きをみる

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  • 現代詩 路面

    雨に濡れた アスファルトの路面に うっすらと うつる 赤いヒヤシンス かたちは 淡く 滲んだように 歪だが 黒い道に その色地は くっきりと浮き出ている 僅かに反映する 白い雨雲 路面はラメ入りの黒い布地のように 玲瓏で薄い 目を上げると ヒヤシンスの赤 黒い路面は 危うい均衡の上に 銀輪に光る ... 続きをみる

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  • 現代詩 器

    生命を容れる入れ物が 欲しい 生まれたばかりのぷるぷるした生命を いつまでも生かし続ける器が それは三角形でも四角形でもないだろう およそ角という名のつく代物ではないだろう 赤ン坊が吸いつく 乳房のような 永遠のやわらかさをそれは持っているだろう あなたはあなたでいてください 裸の心を見せてくださ... 続きをみる

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  • 現代詩 公園のベンチ

    秋の日の午後 透き通った影を落としながら 雲が動いて行く その向こうに連なる紅葉した山々 並木道の銀杏はやわらかい午後の光を吸い込み しずかに澄んだいきを発散する 束の間の美を 現出するために しだいに緊張していく それら 雲 木 山 影 はるかな鳥 その白い流点 あのなだらかな丘の上でおにぎりを... 続きをみる

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  • 現代詩 夕景

    燃えているのは 夕暮れの空 神託を信じた古代人が見る 安らかな夢のように しみるような光に満ちる こんなにすべてが燃えているようなのに 人々の眼差しはおだやかでやさしい 光の粒子は無数の塵のように漂い 人影は青くにじむ 公園の木々は野生の心を開き その秘められた言葉を語りかける 鳥たちは金色のねぐ... 続きをみる

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  • 現代詩 ウサギ

    君は孤高の兎かい 悲しいひとみをしているね そんなにピンと耳を張って なにを聴こうというんだい そんなにじっと空を見て 何が見えるというんだい 聴こえてくるのは天の声 けれど 誰にもしゃべりません 見えてくるのは天の衣 けれど 誰にも着られません これはたいしたファンタジストだ それで、神様も見え... 続きをみる

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  • 現代詩 ある日の夕景

    なんとも奇妙な夕焼け空だ 雲が空と化学反応を起こしたみたいに こんな醒めるような紫色の空は そういえば昔 図書館の天井まで届く窓から 見ていたことがあるよ 魂に色があるとしたら こんな色なのかなとぼんやり見つめていたっけ 人類が始めて火を手に入れたとき 空はこんな色で 人類を祝福したのかもしれない... 続きをみる

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  • 現代詩 夕べの海の幻影

    海と陸とが接するさかいにかつて砂浜があった あそこの突堤まで綿々と打ち続く砂浜があった けれども今はわずかな砂地が残り わたしはそこに座り 永遠の太陽が沈むのをまっている 太陽が海に没するとき高い波がこの海岸に打ち寄せ わたしのたましいは海にさらわれるのだ ヴァニティーが邪魔をしないなら わたしは... 続きをみる

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  • 現代詩 黄泉

    あの暗闇のしずけさに するどい耳を澄ませば 千万個の岩を穿って 死人たちのほの憂いつぶやき声が 聞こえてくるのだろう

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  • 現代詩 寒夜

    冬の夜 外灯は白く滲み 町は海の底に沈んだように静かだった わたしはコートの襟を立てて 見知らぬ線路沿いの道をとぼとぼと歩いていた けたたましい音が鳴り響いた 視界がパッと明るくなった 電車は未知の暗がりに向かって突進する 明晰な意識のように見えた もし到着駅というものがなければ 彼は裸で不安な ... 続きをみる

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  • 現代詩 秋の虫

    静かな夜です 虫はいい気持ちに鳴いています なにやら 雨でも降ったらしく 窓を開けると 少し冷んやりするくらいです 秋の虫なんて けれども なんていい神さまの思いつきでしょう 虫のたましいはあんまり透明で 人間のたましいはあんまり生々しくて それでも 人間として生まれて来た方が 良かったような気が... 続きをみる

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  • 現代詩 半跏思惟像

    しずかにかんがえることができるならば ゆっくりと 書物から真理が立ち上がってくるときのように 感情は軽やかであるか 神経は瑞々しく働いているか 感覚は研がれているか 理知は末端まで届いているか 血流は潮のように満ちているか そして 何にもまして澄み渡っているか 弥勒 空というヴィジョン 時は静止し... 続きをみる

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  • 現代詩 時

    あざやかな夢を見た かわいた砂地に水がしみていくように 夢の記憶はすみやかに消え 町音のようにいつまでも通底する 残響を残した 薄明のうす暗がりの中で 森の中に迷い込んだ人のように 男は放心する 目を奪われた画家のように 音を奪われた音楽家のように じっと 目を凝らし 耳を澄ますようにして 男は不... 続きをみる

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  • 現代詩 響声

    酷熱のアスファルトの路面に 蟬が転がっている 持ってみればわかる 体はうずら卵の殻のように薄く 夏の熱気と直かに 結ばれた共鳴体である 愚問が一つ 頭を叩く なぜ蟬は鳴くのだろう なぜそんなに短い命を かくもやかましく表現するのだろう わたしの蟬はもう鳴かない 唖蟬のように 閑けさを恐れない それ... 続きをみる

  • 現代詩 祭典

    詩人無用の立て看板が あちこちにたてかけてある 町々を 口笛を吹きながら通り過ぎると 海に出た 朝日がにぎやかな光を散らしていた 大波が体を揺すって笑っていた こんなときだろう 寝坊な奴らをたたき起こす 大砲をぶっぱなすのは 太陽の精髄を音にするんだ 白熱する感情を奴らの胸にたたき込むんだ ラッパ... 続きをみる

  • 現代詩 「あ」

    「あ」という店があった 電話帳の一番最初に載りたいための 店主苦心の発明だった おかげで店は商売繁昌 店主満足ほくほく笑顔 幸運もたらす店名に 我が意を得たりのしたり顔 ある日電話がかかってきた 「もしもし、あです。」 「アハハハ、そら見ろ、あ、じゃなくて アデスなんだ。」 中学生の悪戯電話 「あ... 続きをみる

  • 現代詩 失題

    驚きは束の間のこと   そう 思いがけず山肌が間近に見えた春の朝 見つめ合った瞳が同時にきらめいた夏の夜 薄の穂がさんさんとゆらめていた秋の夕べ 隣家のピアノがひどく澄んで聞こえた冬の午後 驚きは束の間のこと そう そして古びぬもの

  • 現代詩 大岡信追悼

    今 桜の盛りです あなたに読んでもらいたい 幾つかの詩がありました けれども もう それは叶わなくなりました あなたの御霊に幸いがありますように では お休みなさい 大岡さん

  • 現代詩 風変わりな詩

    夜はうつろな吐息を吐いた 父は寝床で病んでいた ぼくは古代を思い出していた おそらくは母の胎内にいた頃の 出来事のことを 朝は透明な叫び声を上げ 船に乗ってやってきた ねつとりとしたこころを 幻想の海に浮かべながら 日が暮れるまで ぼくは一個の知的パロディーだった

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  • 現代詩 寝息

    目を閉じる 深まる闇に追いつこうとして 時をきざむ針の音 夢を象る鑿の音に似て しばらく あなたの静かな寝息をきいていたい 孤独という言葉が 裸になるまで

  • 現代詩 歳月

    象<かたち>は壊れたね 風は死んだね 昨日は遠く明日はさらに遠い 掛け替えのない一瞬 ああ 贅沢な思想 時間を切断することが これからの人類の課題であるか 切り取られた孤独 誰のためでもない純潔 けれどもどの額縁にも似合わない 漸く芽を吹いた植物 あはれ深いものたちのために 物言わぬ石に封じ込めら... 続きをみる

  • 現代詩 電話

    午前0時 ルルルル ルルルル もしもし もしもし あれ え 本田さんじゃないんですか いいえ違いますよ すいません間違えました いえ ルルルル ルル もしもし あれ プチン ルルルル もしもし ごめんなさい電話番号の確認だけお願いします  XXXーXXX=XXXXですね そうですよ あの人番号を変... 続きをみる

  • 現代詩 断層<肉親の死に寄せて>

    断層に突き当たった 世界はまるで相貌を変え 白くなった ああ この風景は どこかで見たことがあるよ デジャヴーではない デジャヴーという機械論ではない 菜の花が風に揺れ 海は銀色に輝く そうなのだ いつまでも 変わらない風景はいつまでも 古びずに新しい 断崖から放たれた グライダーのように アホウ... 続きをみる

  • 現代詩 蝶

    ハガキの上に蝶がとまっている 世界中に張りめぐらされた 無漏の郵便の網の目のどこに ぼくはこのハガキを乗せようか 十色の絵の具を流した川の上を流れて行けばいい 粉砕された光の粒を散りばめた湖の上を渡って行けばいい 霧を忘れた砂漠のラクダには 挨拶をして行っておくれ あらゆる雲の形を覚えてしまった象... 続きをみる

  • 現代詩 ねずみの死

    ねずみがうずくまって死んでいる いかにもやさしく目を閉じて コンクリートの冷たさも もう気にならない 物音に身を縮めることもない 尻尾は全く垂れた 生きている間必死に餌を求めて飛びまわっていた 姿に比べれば これはなんと荘厳な姿だろう 死の一瞬を覚悟したもののように 手足は平静に開かれている 死ん... 続きをみる

  • 現代詩 ソーニャ

    あの方のことをお訊ねですか 何をお話ししたらよいのでしょうか わたしには何もわかりませんが あ 何もわからないと言ってしまってはいけないんでしょうね きっと わたしはあの方のことをいつも思っております どうかあの方と呼ばせてください それはあの方は人を殺しました だから あの方と呼んではいけないん... 続きをみる

  • 現代詩 電話という言霊

    電話でケンカをした 女は泣いた もう二度とあなたには電話はかけないと言った わたしは黙ることしかできなかった そうして 沈黙はまるで暴力のように二人を裂いた 電話は言葉を丸裸にする それは 現代の言霊 無言さえ反響する

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  • 現代詩 現代神

    1㎏原器は 神のように 何重もの頑丈な扉の向こう側に恭しく安置されている そう 計量できぬ一切のものを厳格に世界から排除する これは 現代の神である 呻き声が 聞こえはしないか 居場所を奪われた 無数の病んだこころたちの

  • 現代詩 四季2

    虫が 腹に滲みて鳴く夜 薬を三粒飲んだ 夜風がそろそろと入り込む 久しぶりの夜の秋 友の電話はきれいな声をしていた もうすぐ牡蠣が食えるだろう 気の早い山国の楓は もう紅葉しているかもしれない 四季は 年を取らない幼馴染みのような顔をしている 腹の虫が鳴り止み 頭が少し冴えたとき 思想を潰したら ... 続きをみる

  • 現代詩 四季

    比喩ではなく 地表を癒していく大きなやわらかな手 春 犬が小川を泳いでいる 無限がそそり立つとき 人々はまなざしを上にあげる 夏 木陰には蟻の巣がある 時間は旋回し 銀河に軸が通される 秋 公園のベンチで思想が成熟する 無意識の底に沈んだ記憶 美しい人々の足音が聞こえる 冬 時おり木枯しが吹く

  • Hideの俳句 1

    燕の子横一列に顏並べ 動くとも見えでうつろう春霞 冬の夜の思いはとぎれ雨の音 それぞれの星を背負いて雪の道 生き抜けとつぶやくごとく寒椿 行く春や行方も知れぬわが身かな もの言はぬ自販機うれし炎天下

  • 現代詩 思想 1

    信という選択 不信という不毛 喜びというせせらぎ 悲しみという海 文学という白日夢 哲学という留め金 科学というファンタジー 自己という流動体 証明という照明 深層という新層 思想という彫像 自由という女神 認識という征服 悟りという傾斜 生命という持続 それでは 世界とは

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  • 現代詩 摩周湖2

    湖は静かだった 流れ入る川も 流れ出る川もなく 湖底からみずからの清らかな水を汲み上げていた 悲しみは溢れ出ることもなく 喜びは束の間のうちに消え去ることもなく 自足し満ち足りた生命の営みを続けていた かつて この湖から叡智が去ったことはない ただ一つのことを 千の身振りで語ろうとする強靭な意志が... 続きをみる

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  • 現代詩 摩周湖

    カミと静かな対話を望むのなら 君は摩周湖へ行き給え 騙されたと思って行き給え 切り立った白い山は君の振り切れぬ思いを断ってくれるだろう 静かな深い青い水は君の波立つ思いを鎮めてくれるだろう  小さな碧い老いたカムイッシュは君の立つべき地を教えてくれるだろう アイヌの酋長はここに眠っている ここに彼... 続きをみる

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  • 現代詩 同時代 2

    あなたの悲しみを分けてもらえませんか あなたが湛えている その冷たい水を 自分が傷ついていることを 自分で知らない人がいるなんて 心とはなんと不思議な実在でしょう 電車はあなたをいつも通りの 場所に連れて行きます 静かな湖のように湛えられた水 けれども 本当にそれは誰の悲しみでしょう 水が誰のもの... 続きをみる

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