日本は、夏は東南アジア諸国並みに暑く、冬は北欧の冬並みに寒い。また、日々の気温差が季節の変わり目には乱高下する。自然が厳しい国というだけでなく、自然災害は他の先進国と比べても、圧倒的に多い。地震、台風、豪雨、豪雪等々。 こうした国であるにもかかわらず、日本人は、ほかのどの国よりも、自然を愛でる。特... 続きをみる
2018年9月のブログ記事
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英語で9月の意味するセプテンバーは、本来7を表す数詞です。では何故この名称になったのか、そうした素朴な疑問に本書は丁寧に答えてくれます。また、暦が占いときっても切れない関係にあることを懇切に解説し、占うという行為が正確な暦を作る上で欠かせないものだったということを説き明かしてくれています。著者の平... 続きをみる
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河盛好藏はフランス文学者です。この本は、だれしも一度は悩む、人との付き合い方について著者が若い人に向けて書いたものですが、といって、自分の経験をかいつまんで、単なる処世術を書いたというような気楽な本ではありません。人とつきあうという人間にとって退っ引きならない業と真正面から向き合い、では、どうつき... 続きをみる
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角川書店が企画した仏教思想シリーズの中の親鸞についての書物です。当時、新進気鋭の学者だった梅原猛が中心になって筆が執られています。論文と対談という形式で構成されていて、仏教の初心者にも読み易い本になっています。学術的に提示される親鸞像と小説として描かれる親鸞像とを繋ぐ橋がないという嘆きが語られ、親... 続きをみる
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菊池寛には「屋上の狂人」といい、知的障害者を扱った作品が多いのですが、この「義民甚兵衛」もそのひとつで、また菊池寛の中で最もよい作品ではないかと思われます。意地の悪い、悪知恵に長けた母親や兄弟から、知的障害の甚兵衛は苛められるのですが、甚兵衛の間抜けな正直さが、知らぬ間にあっと驚くような復讐を母親... 続きをみる
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名古屋人というものを知るためには格好の本でしょう。名古屋をこよなく愛する名古屋人の屈折した心情がよく書けています。熱烈なドラゴンズファンのタクシー運転手が、客から最近調子のいいドラゴンズを褒められると「あんなもんあかんわ。監督がアホだで。」と喜びを心中に押し隠しながら、素っ気なくそう応えます。名古... 続きをみる
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「資本論」に、こんな言葉がある。「人が、半年生きるということは、その半年分、死に近づいたということである。」これを読んだ当時、また、年齢を重ねた現在も、この物差しで測ったような年齢についての見解には、砂を噛むような人生を見せられている気がして、どうしても、釈然としない思いを抱かせられたものである。... 続きをみる
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巻頭に、「別れた妻そうしてまだ見ぬ妻たちへ」と書かれています。異才を放った伊丹十三の半ばどうでもよいと思われる話が、軽妙に語られていきます。女についての毒づき方は、彼の思慕する本当の女らしい女への求愛の方法なのでしょう。伊丹は、やがて女優の宮本信子と結婚し2児をもうけますが、マスコミに追い詰められ... 続きをみる
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大野晋、大岡信、丸谷才一、井上ひさしといった日本語の達人たちが、雑誌読者の日本語についての質問に、それぞれの個性が丁寧に応えた問答集です。「なす」の本来の正確な言い方は「なすび」、総理大臣が引き続き政権を担当するときなどの「続投」という言葉は野球用語、「結果論」という言葉も野球用語等々。われわれが... 続きをみる
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宇宙観を一変させたアインシュタインの相対性理論は、しかし、著者によれば、アインシュタインの天才をまたなくとも、見出された理論であったろうと言っています。科学者の理論というものが、どれほどその科学者の世界観を拠り所にして成り立っているものであるかをきれいに説明してくれています。ヒーロー扱いされがちな... 続きをみる
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法律の厳罰化傾向が続いている。法律専門のお役人方は、法律を厳罰化すれば、犯罪は減るとでも思っているようである。これは、簡単な算数なのであるが、法律が厳罰化されたお陰で、自動車によるひき逃げ事件がなんと増えていることだろうか。 人間の心は、算数では測れない。こんな単純なことも(じつは深過ぎる理なのだ... 続きをみる
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ベートーヴェンにしては、思わせぶりな曲だと長年思ってきた。 グールドもベートーヴェンのアパッショナータが何故あんなに人気があって名曲と言われるのか、訳が分からないとどこかで言っていたが、グールドの言うことは、半分眉に唾をつけて聞かないといけないから、素直に賛同はしていなかった。 それで、つい最近、... 続きをみる
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星や宇宙のことが知りたいと思う人には、うってつけの本です。二人の科学者が互いの情報をもとに、最新の星や宇宙の情報を提供してくれます。宇宙の卵は、原子よりも小さかったと語られるとき、わたしは思わず息をのみ、物理学によって提供される知見に圧倒されるような思いを抱いたものでした。豊富な写真や図柄も盛り込... 続きをみる
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読むと、気持ちが浮き立ち軽くなるような話を集めた本です。週刊文春に連載された好評のシリーズもので、本は十数巻出ています。上前の語り口は軽妙で、上質な現代の小話を聞いているような趣があります。ちょっとした感動を誘うものや、品のいいエスプリの利いたもの、実業家たちの武勇伝等々。読めば、自然と微笑がこぼ... 続きをみる
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リレーということで、常日頃考えていることがある。日本の文化歴史の特徴に、このリレーということが大切な役割を果たしているということがあると思うのである。 日本仏教の浄土教の法然・親鸞のライン。戦国時代の信長・秀吉・家康のライン。近くは維新期の吉田松陰・高杉晋作・西郷隆盛等のライン。つまり、日本の歴史... 続きをみる
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モーツァルトがとても好きである。 K551「ジュピター」はわたしにとって、本当に啓示だった。最初にモーツァルトに本当にふれたその高校生当時、世の中にこれ以上の音楽はあるまい。いや、有り得ないと本気で信じていた。今でも、半ばそうである。ジュピターは、未だに、ある強い感情を伴わないでは聞くことができな... 続きをみる
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青山は語り難い人です。何もしなかった天才といわれ、古美術の当代きっての目利きで、本の装丁もしていましたが、では何者かといわれると説明のしようがない人です。そこにいるというだけで本人や周りの人が確かな意味を持つという不思議な人でした。彼には数冊の文章がありますが、どれも彼の活眼が光る破格のものです。... 続きをみる
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自我確立が主題となっている小説です。小説の主人公は若い女性ですが、有名になることも俳優として成功することも、本当の自我を生きることにはならないと知っている女性です。彼女に言わせれば、それはティファニー(貴金属専門店)で朝食を食べることのように滑稽で無理な企てだということになります。自我確立とは何か... 続きをみる
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女流作家円地文子の名篇です。円地には源氏物語の名訳がありますが、長年、この物語に私淑した円地ならではの目が光っています。物語は、亭主から自分好みの若い妾を探して連れて来いと命じられる妻の話です。主人公の倫はこの夫の理不尽な要求に昔ながらの女として耐えてみせます。長年の心労の末、倫は足に病いを得て伏... 続きをみる
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経済学の基本的な考え方を会社という法人を軸にして、論じた本です。この書の中で繰り返される「法人というものは実に不思議なものである」という言葉には、経済学に長く携わってきた人の実感として、経済活動というものの不思議な実態を正確に捉えることがいかに難しいかをよく表しています。著者独自の「組織特殊的人的... 続きをみる
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大野晋は日本語学者ですが、その所論が学会の大勢からあまりにもかけ離れていたために、一時、学会からつまはじきされていたことがあります。この書は、研究者の著作としては珍しくベストセラーになったもので、日本語を問答方式によって、より深く理解する手助けをしてくれます。読み進むにつれて日本語の年輪が浮き彫り... 続きをみる
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「バカ」とは足りない人間のことではなく、跳ぶ人間のことである。「利口」は跳ばない。危険であることを知っているからである。 自分を振り返って、自身をじつにバカだと思うのは、わたしだけではなかろう。 危険を冒さなければ、人生に意味が生じようがないのも、また、事実である。 バカにつける薬はない。自分を省... 続きをみる
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「俳句の愉しみ」の姉妹編です。俳句は句会や吟行などをおこなって句作するというのが一番ですが、一人しずかに句作してみるというのも、また味のあるものです。どういう句が自分の好みなのか色々と句例を挙げて、読者にも句を選んでもらい自分の目の付け所を確かめてみるという工夫がなされています。読む者も思わず句作... 続きをみる
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俳句の好きな著者が、みんなを俳句の世界に誘おうと筆を執ったのが本書です。著者は専門の俳人ではありませんが、句作や句会というものがいかに愉しいものであるかを、専門の俳人の家まで出向き、実際に句会を行い自身の体験をまとめました。そうして、できあがった本書はこの日本古来の文芸が、知らぬ間に人と人との間を... 続きをみる
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錯視現象や色彩の心理テストから筆を起こし、話は、ゲーテの「色彩論」にまで及んでいきます。ニュートン光学に由来する通常の色彩論とは、まるで違う色彩についての論述に、読者は少々戸惑いますが、色彩がいかに豊かな意味合いを担っているものであることに、改めて気付かされることになります。ゲーテの色彩論は、いわ... 続きをみる
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思想と観念は、区別がまぎらわしいものだが、観念は単なる言葉であって、思想は何か別な高級なものと思われがちである。 これは、はっきりしておかなければならないのだが、思想も単なる言葉に過ぎないのである。もっと言えば高級なものでさえない。観念よりはるかに手垢にまみれた生臭いものだからである。だが、そこに... 続きをみる
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「猫のゆりかご」カート・ヴォネガット・ジュニア ハヤカワ文庫
SF界の文豪カート・ヴォネガット・ジュニアの中でも、もっともよく知られた作品です。水を常温で、氷のように固形化してしまうアイスナインという新物質が開発され、使い方を誤り、世界中の水が固まっていってしまい、人間も塑像のように次々と固まっていくというストーリーです。最後のひとりとなった主人公が、天に向... 続きをみる
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わたしの記憶があいまいで、この本だったかどうか不確かですが、九才で丁稚奉公から出発した自分の仕事の履歴を語り、一家を構えて仕事をするようになります。夜になると昼間あったことをしずかにかんがえてみる。そうすると本当はこうであったということがはっきりと分かる。松下という人が直に事や物に即して考えること... 続きをみる
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難解といわれるユングの著作の中でも、ユング心理学の初心者にはもっとも近づきやすい著作です。ユングの学問の骨格がほぼここに出揃っています。一般にフロイトの学問は精神分析学と呼ばれ、ユングのそれは分析心理学と呼ばれます。「一体に、心理療法家は何をしてもいいが、夢を分析することだけはしていけない」という... 続きをみる
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わたしは、モーツァルトの「レクイエム」が好きでよく聞くという人が、信じられない人間である。先日も、モーツァルトの「レクイエム」が好きでよく聞いているという人に出会ったが、わたしは、この人はモーツァルトという人と音楽をまるで知らないなと心ひそかに思ったものである。 安藤美姫だったと覚えているが、「レ... 続きをみる