現代詩 卵
それはぼくがよそ見をしているいつのまにかの間に
出来あがっていた
驚きもしたが
また
それはそうであるべきものだろうとも思った
けぶった靄のかかった高原にコトンと生み落とされた
もののように
それは空恐ろしくもあり
また新鮮な可能性に満ちていた
ぼくはいつのまにか卵を一つ
所有していた
ちょうど両手ですっぽり包み込めるくらいの大きさの
生温かく
さらりとした手触りのそれを
ぼくはふるえる手で
おずおずとそれを握るしめる
割らないように
落とさないように
いつ孵るか知れない
あるいは
ずっと卵のままであるかもしれない
それを
ぼくの唯一の生命のあかしとして
どこへでも持って行こう
いつまでもそれとともにいよう
ぼくは明らかなわたしという徴<しるし>と
出会ったような気がした
おそらくは
ぼくよりもずっと生き延びて行くに違いない
わたしと
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。