Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「悪霊」ドストエフスキー 岩波文庫

現代の黙示録とまでいわれる本書は、他のドストエフスキーの作品と一線を画します。この点、シェイクスピアのマクベスに似ています。これは、単なる文学上の趣味的な見方でいうのではありません。主人公のスタブローギンは徹底して悪の道を歩きます。それも、最初は単なる興味本位からですが、それが、スタブローギンの行く道を決めます。「彼の顔は美しいが、まるで仮面のようだ」と人々は噂しあいます。ある政治結社が影のように彼に付きまといます。あるとき、これも興味本位から、ある少女をかどわかし、和姦するのですが、その少女は「神様を殺してしまった」と自殺します。詳細に描かれた場面ですが、彼の理性は正常そのもの、健康そのものに働いています。数々の悪行の後、一瞬、良心の呵責が彼の全身を揺さぶります。ですが、それも夢のように過ぎてしまい、後に何も残しません。ただ、少女の幼気な姿が彼を悩まし続けますが、彼の本性を変えることはできません。知力も体力も精神力も抜群の三拍子揃った能力を兼ね備え、生まれながらの貴族とまで言われながら、虚しく自死し滅びます。彼を取り巻く人々も、奈落の底へと沈んでいきます。黙示録的な滅びの姿です。