燕の子横一列に顏並べ 動くとも見えでうつろう春霞 冬の夜の思いはとぎれ雨の音 それぞれの星を背負いて雪の道 生き抜けとつぶやくごとく寒椿 行く春や行方も知れぬわが身かな もの言はぬ自販機うれし炎天下
信という選択 不信という不毛 喜びというせせらぎ 悲しみという海 文学という白日夢 哲学という留め金 科学というファンタジー 自己という流動体 証明という照明 深層という新層 思想という彫像 自由という女神 認識という征服 悟りという傾斜 生命という持続 それでは 世界とは
湖は静かだった 流れ入る川も 流れ出る川もなく 湖底からみずからの清らかな水を汲み上げていた 悲しみは溢れ出ることもなく 喜びは束の間のうちに消え去ることもなく 自足し満ち足りた生命の営みを続けていた かつて この湖から叡智が去ったことはない ただ一つのことを 千の身振りで語ろうとする強靭な意志が 実現されるべき精妙な均衡であった 造化の神は 身を隠す術さへ心得ている この語り難い叡智のさまは …
カミと静かな対話を望むのなら 君は摩周湖へ行き給え 騙されたと思って行き給え 切り立った白い山は君の振り切れぬ思いを断ってくれるだろう 静かな深い青い水は君の波立つ思いを鎮めてくれるだろう 小さな碧い老いたカムイッシュは君の立つべき地を教えてくれるだろう アイヌの酋長はここに眠っている ここに彼らのたましいは集っているのだ カムイはカミであった わたしはそれを信じようと思う 第一展望台に立ち …
あなたの悲しみを分けてもらえませんか あなたが湛えている その冷たい水を 自分が傷ついていることを 自分で知らない人がいるなんて 心とはなんと不思議な実在でしょう 電車はあなたをいつも通りの 場所に連れて行きます 静かな湖のように湛えられた水 けれども 本当にそれは誰の悲しみでしょう 水が誰のものでもないように また 誰にでも必要なものであるように あなたはあなたの壁を きってください 枯野を冷…