Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

現代詩 歳月

象<かたち>は壊れたね 風は死んだね 昨日は遠く明日はさらに遠い 掛け替えのない一瞬 ああ 贅沢な思想 時間を切断することが これからの人類の課題であるか 切り取られた孤独 誰のためでもない純潔 けれどもどの額縁にも似合わない 漸く芽を吹いた植物 あはれ深いものたちのために 物言わぬ石に封じ込められた時間 透きとおった湖の底に 美しい牡鹿の屍体   ああ それでも 刻々と蝕まれて行く 歳月がある

現代詩 電話

午前0時 ルルルル ルルルル もしもし もしもし あれ え 本田さんじゃないんですか いいえ違いますよ すいません間違えました いえ ルルルル ルル もしもし あれ プチン ルルルル もしもし ごめんなさい電話番号の確認だけお願いします  XXXーXXX=XXXXですね そうですよ あの人番号を変えたのかしら そのようですね すみませんでした いえ 若くかわいらしい女の声 雪の降る静かな夜だった

現代詩 断層<肉親の死に寄せて>

断層に突き当たった 世界はまるで相貌を変え 白くなった ああ この風景は どこかで見たことがあるよ デジャヴーではない デジャヴーという機械論ではない 菜の花が風に揺れ 海は銀色に輝く そうなのだ いつまでも 変わらない風景はいつまでも 古びずに新しい 断崖から放たれた グライダーのように アホウドリが飛んで行く それはどこにつながる道だろうか

現代詩 蝶

ハガキの上に蝶がとまっている 世界中に張りめぐらされた 無漏の郵便の網の目のどこに ぼくはこのハガキを乗せようか 十色の絵の具を流した川の上を流れて行けばいい 粉砕された光の粒を散りばめた湖の上を渡って行けばいい 霧を忘れた砂漠のラクダには 挨拶をして行っておくれ あらゆる雲の形を覚えてしまった象にはよろしく言付けておくれ 小川のせせらぎに感動しているカワセミには黙って 井戸の底で呟いている大山…

現代詩 ねずみの死

ねずみがうずくまって死んでいる いかにもやさしく目を閉じて コンクリートの冷たさも もう気にならない 物音に身を縮めることもない 尻尾は全く垂れた 生きている間必死に餌を求めて飛びまわっていた 姿に比べれば これはなんと荘厳な姿だろう 死の一瞬を覚悟したもののように 手足は平静に開かれている 死んだねずみの傍らを絶え間なく流れていく時間 そうして 生きている私 ねずみと私とのちょうど真ん中に 私…