Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「アメリカ素描」司馬遼太郎 新潮文庫

歴史小説を得意とした著者が、アメリカについて書いた題名通りのデッサンです。ただ、司馬の眼光は鋭く。この不思議な大国の急所をよく見抜き、秀れた筆致でその暗部も明部も鮮やかに描き出してくれます。「普遍性があり便利なモノやコト、もしくは思想を生みつづける地域は地球上にアメリカ以外ないのではないか。」と著者は言います。憲法のみが国としての存立基盤である不思議な人工国家アメリカを語り、独自の文明論を展開し…

「馬上少年過ぐ」司馬遼太郎 新潮文庫

戦国期の名将、伊達政宗を描きます。司馬のこの短編は、優に他の伊達政宗に関する書物を凌駕しています。題名は、漢詩もよくした政宗の「馬上少年過ぐ、世は平らかにして白髪多し、残躯は天の許すところ、楽しまずんば又如何せん」からとられています。政宗がこの漢詩を詠んだ時、戦国の世は終わり泰平の世が始まっていました。油断も隙もなかった戦国の世を振り返り、今の我が身を残躯<ざんく>と顧みました。戦国武将随一の名…

「国盗り物語」司馬遼太郎 新潮文庫

油売りの身から一国の城主にまでなった斎藤道三と稀代の天下人織田信長を描きます。道三の話柄には、多くフィクションが紛れ込んでいる感がありますが、一介の貧民から城主にまで登り詰めた男を描いて、痛快ささえ覚えます。信長については、「信長公記」があるおかげでしょう。写実的な筆致でその人物像を捉えます。戦国時代の二人の名武将を描いて、読み応え充分な書物に仕上っています。エンターテイメントとしても楽しめる小…

現代詩 若い友の訃

山縣よ お前は気ままに生きて 勝手に逝った 建設現場で得た金は酒と女に 費やされた アトピーを抱えた体も意にも介さず お前は不摂生を続けた それがお前の魅力でもあり欠点でもあったが 最期を見とる人はいなかったが 通夜には多くの弔問客が訪れたという 俺はお前が放った愚かな一言のために お前の葬儀に行くことを拒んだ 春だというのに雪が舞った ああ おろかなのはどちらだったろうか お前の死に顔は安らか…

「世に棲む日々」司馬遼太郎 文春文庫

数多い司馬の歴史小説の中でも、もっとも優れた著作と言っていいでしょう。吉田松陰と高杉晋作の二人の傑物を描きます。司馬は、日本は鎌倉時代になって、始めて日本人の顔が見えるようになると言っていますが、法然と親鸞の師弟の繋がりを先駆とする日本の師弟関係、時代は経て、幕末の動乱期になっても健在なまま保持されたこの強靱な糸を松陰と晋作の師弟間の中にも見ています。欧米列強の外患に対しても強い力を発揮したこの…