Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「五輪書」宮本武蔵 岩波文庫 

日本一の剣豪として知られる宮本武蔵が、その自分の剣術の腕前の拠って来たる所以を書き著したのが本書です。武蔵はここで、「仏法儒道の古語をも借らず」つまり、伝統の力を借りないで、書物を著そうと企てています。こうした試みは、まず無惨な失敗に終わることが通例ですが、武蔵の場合は、少なくともその独創的な思想のデッサンは鮮やかに成功した数少ない例の一つです。武蔵の思想に「器用」と「勝つ」の二つがあります。器…

「イワン・デニーソヴィッチの一日」ソルジェニーツィン 新潮文庫

ソビエト連邦はすでに崩壊しましたが、この小説はそのソビエト連邦崩壊の立役者となった作家ソルジェニーツィンの処女作です。筆者は、ドストエフスキーとは違い、全くの無実の罪で当時のソ連の強制収容所へ十年間、囚人として監獄生活を送りました。そのために文学者の中には、この小説に「死の家の記録」に引き続くロシア近代小説の伝統を見る人もいます。確かに、「死の家の記録」と同じく、癒やされることなどほとんど考えら…

エッセイ 「罪と罰」考 <自由という女神>

「罪と罰」のラスコーリニコフは、自分で抱いた自由思想を全人格で実践した男である。そこには、何の妥協もないのであって、誰にも、それを止める力はなかった。そうして、凶行を遂げた後に、良心の呵責が容赦なく襲いかかっても、自由を追い求める彼の悪魔的な頑強な人格は、それによって、崩壊することはないのである。そうなのである。彼は、豊かな良心を持った殺人者という、一見、不可能と見えるパラドックスを、強硬に生き…

「知られざる傑作」バルザック 岩波文庫

フレンホーフェルという金持ちの老画家の話です。彼は、熱っぽく絵について語り、瞬く間に一枚の見事な絵を描いてしまうような腕を持っていますが、少し風変わりなところがあります。十年来、ある絵に没頭し、それが自分でも傑作かどうか判じかねているのです。ある機会があって、思い切ってその絵を信頼している画家の仲間に見せます。拍子抜けしたような画家たちの様子を見て、フレンホーフェルは絶望し、「わしはただの金持ち…

短歌 No.1

夕日より強く激しき赤やあるなほ燃えんとす君の唇 夏座敷縁側降りる猫の子や耳をそばだて秋の音をきく すごいような夕焼け空のもと人間たちのたましいに動物たちのたましいが忍び込んだ 風はどうなっただろうか部屋は散らかっている 冬日差し鏡の国のアリスのみ逆さになりて書棚にありぬ 幻のごとくさくらは舞い上がり空に滲んで溶けて消えゆく 春の日の風はふんわり桜連れ川辺の道をはんなりはんなり 過ぎし日の思い出一…