Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」

この曲は、昔から気になっていたピアノ曲で、op.111のピアノソナタに心の底から感激し、もうこれ以上のピアノ曲はあるまいと思っていたときに、op.120のこの大曲があると知って驚き、聞きたくてどうしようもなかった。学生時代のことである。 最初にグルダを聞いたが、どうも納得できない。次にブレンデルの演奏会での録音を聞いて、これはいいと合点した。ブレンデルには他にスタジオ録音版もあるが、演奏会の方が…

エッセイ 自分を信じるということ <幸福論>

アランの「幸福論」の中に、こんな言葉がある。 「自分を信じるやり方に二つある。一つは学校式のやり方で、そのままの自分を信じるということ。もう一つは職場式のやり方で、自分を全く信じないというやり方である。」 どちらも軸となっているのは、自分であることに注目したい。 「ありのままの自分」とか「自分らしく」というような、今、はやりの言葉がある。これは、そのまま自分に酔って、自分と戯れることだけに終わっ…

「ワーニャ叔父さん」チェーホフ 新潮文庫

ロシアの近代作家チェーホフは医者でもありました。結核を患い44才で亡くなりましたが、その生涯は忍耐に忍耐を重ねた、聖職者のように清潔なものでした。作中のワーニャ叔父さんはどこにでもいるような、さしたる取り柄のない独身の中年男ですが、ある若い美しい夫人に恋をします。ワーニャ叔父さんは結局振られてしまうのですが、このツキから見放されたような男の心の苦しみには、平凡ですが、ある退っ引きならない必然性が…

現代詩 ゴッホ

ここに人間がいる オーヴェルの夏の空の下 大地の黄と空の青とが直に連続する 色調の緊張に抗し 裸心だけで立ち続ける奇妙な人間がいる よくよく見れば なんというボロ着を纏った 人生に踏みつけにされた男だろう 武骨な節だらけの手は 画筆より鶴嘴を握った方が よく似合う 頑丈な真っ直ぐな腰は異様な忍耐力の 確かさを思わせるが 双肩はすでに健康な均衡を 失っている 麦畑がざわめく 男はもう驚きもしない …