Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 自己実現と自我確立

今は、あまり聞かれなくなったが、三英傑の信長、秀吉、家康の中で、誰が一番好きかというのは、昔よく聞かれた質問である。今でも何かの折に、こうしたことを言う人もいるかも知れない。ただ、この人物たちのことをよくよくかんがえてみれば、これは、単なる好き嫌いで片付けることができない人物たちであるのは、明瞭なことのように思える。


好き嫌いというのは、一種の自我の表明である。一頃、自我確立という硬直気味の自我が盛んに取り沙汰された時代と異なり、現在は、自己実現という動きのある自己を目指すということが、主流となっているようだ。


自己実現を主として、自己というものを見るならば、例え、現在の自我において、嫌いと思えるものであっても、それを単に、自分の中から排除するのではなく、嫌いと思うものの中に、自分にとって、何かとても大切なものがあるのではないかと反省するところに、自己実現の可能性があると考えられる。


現在、欧米人の人々と付き合わなければならない日本人の中には、いや、やはり自我確立こそが、喫緊の課題であると言うことだろう。それほど、自我の強弱は、欧米人との付き合いの上では、大きなウェイトを占めるものである。


平たく言って、自我確立は自我の強さ、自己実現は自己の豊かさを追求するものと、漠然と思われているようであるが、世の趨勢として、自我確立よりも自己実現の方に、人々の関心は集中しているように思われる。


ともあれ、自己実現という考えを最初に提起したユングの思想を思えば、好きなものは、文句なく好き、嫌いなものには、関心も無くなるというところまで行って、さらにそこから、その関心も無くなった嫌いなものから、何ものかを得るというのでなければ、自己実現というのは、意味を成さない観念であるように思える。