日本人の不思議なところは、思想転向と宗旨替えでは、圧倒的に思想転向の方を重視し、宗旨替えは、ほとんどファッションを変えるくらいにしか考えていないところではないかと思っている。

結婚による宗旨替えは、特に、女性の方は当たり前なものとして、慣行されているし、宗教がどうだからという理由で、結婚が破談になったという話は、先ず聞かない。

ある人が、宗教を変えたとしても、その理由を尋ねる人は、少ないだろうが、右翼から左翼へ、または、左翼から右翼へ立場を変えたとすると、その人はきっと、今の時代でも、理由を尋ねられることだろうと思う。

海外に目を転ずれば、たとえば、キリスト教からイスラーム教へ、また、その逆のことをしたら、質問どころの騒ぎではない。その人は、生活上の大変革を迫られることになるだろうし、また、これは西洋世界だけのことではなく、全世界的にそうなのである。

では、日本人は、宗教を蔑ろにしているとは行かないまでも、ほとんど問題にもしていないのだろうか。ここは、大変、むずかしいまた微妙なところなのであるが。

そのことを、ここですこしだけ、言ってみると、宗教がその宗教としての形態を取る以前の、言わば、原宗教感情というべきものを、われわれは豊富に持っているからではないかと、わたしはかんがえたりする。

ただ、名前があり、存在しているだけで、充足している八百万の神々。これは、世界的に見ても、その無方向性的な性格は、類例がない。神道とは、じつに不思議な宗教ではなかろうか。