Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 江戸時代考

江戸時代は、元禄文化をはじめとして、様々な文化が花開き、その妍を競いあった時代と言えるのだが、技術の面でも抜かりはないので、たたら製鉄技術や上総掘<かずさぼ>りなどはその代表的なものであろう。


日本の自動車が、世界中であんなにも評判が良く、故障が少なく、性能の良いものとして重宝されているというのも、日本が世界に誇る日本刀の伝統を他所にしてかんがえられない。


そうして、その優れた日本刀には、たたら製鉄の技術が欠かせないのだが、この技術は、江戸期の後半に至ってやっと完成したむずかしい技術なので、江戸時代という平和な時代がなかったら生み出されていなかった技術であるとも言えるのである。


たたら製鉄とは、一言で云うと、玉鋼を作る技術なのだが、鉄だけでは鋼を作ることはできない。炭素と鉄とがうまく配分されて、鋼になるのだが、鋼だけでは折れやすいという難点があって、日本刀のような玉鋼で作られたねばりのある刀にするには、一見、鋼には邪魔であるような不純物が微量に混じり、それが、炭素と鉄と絶妙に調和することによって、ようやく玉鋼というものが出来上がるのである。


技術が完成したと言ったが、この技術は、いつも同じ品質の玉鋼ができる訳のものではなく、未だに、江戸時代から伝わる製法でなくては作れない、また、同じ玉鋼が出来上がるわけでもないという、とても繊細な技術である。


日本がそうした製鉄における長い伝統を持った国であったことは、日本が工業化するときに、とても幸運だったと言える。たたら製鉄技術があったからこそ、日本は世界の鉄を制したのであるし、未だに、鋼に関しては、どの国にも負けない技術を有している。


先に挙げた、上総掘りも、江戸時代に完成した技術で、安価な竹と縄のみを用い、地中深くまで竹を通して、地中の奥深くにある澄んだ地下水を汲み上げるというもので、現在、その技術を伝える職人さんが、水に困っている途上国に行って、世界に貢献しているほどのものである。


地面は、どんな地面でも、水の豊かな国であれば、深く掘れば、水が湧くものであるが、飲用に適する澄んだ水を得るためには、地中奥深くまで達しなければならない。それを安価な竹と縄のみで可能にしたのが、上総掘りという技術なのである。


いや、江戸時代を単なる封建時代と一括りにして侮蔑するのは、とんでもないお門違いである。今は、技術のみに触れたのだが、文化にも目を見張るべきものがいくらでもある。俳句は言うまでもない。江戸時代は、もっと、見直されてしかるべき時代である。