現代詩 水銀
細かい雨が降る
小さな澄んだ泉がある
楠の木のうろにはコトンと置かれた
卵がある
洞穴では傷ついた牡鹿が
小さく呻く
古代人は鋤を手に西日に頭を垂れる
ゆっくりと沈んで行く石ころ
あるいは
海底から沸き出て
ゆらゆらと上昇する気泡
老いた釣り人の後姿のような
清浄な時間が流れる
あるいは
やすく眠る赤ん坊の寝息のような
気がついてみると貧しくて一人
けれども
そこに
取り立てて言うような
何んの不足もない
雲のあいだから
日がのぞく
雨上がり
アスファルトの路面からは
水銀のような匂いが匂ってきた
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