現代詩 夕べの海の幻影
海と陸とが接するさかいにかつて砂浜があった
あそこの突堤まで綿々と打ち続く砂浜があった
けれども今はわずかな砂地が残り
わたしはそこに座り
永遠の太陽が沈むのをまっている
太陽が海に没するとき高い波がこの海岸に打ち寄せ
わたしのたましいは海にさらわれるのだ
ヴァニティーが邪魔をしないなら
わたしはシイラになり
流木に身を寄せ銀鱗を波のうえにひるがえし
孤高の星座たちとひめやかな内緒話をたのしむだろう
けれども
わたしは夕闇の砂地に座り肉体の受苦に身を縛られている
私は私であって彼ではない
この近代の公理はしかし私についてなにも語りはしなかった
ハムレットはあの恐ろしい苦悩に閉じ込められることはなかった
この苦悩することの天才は呪われた自由のために天上の秘密をお手玉のようにもてあそんだ
ただしく危険な道化師だった
わたしは夕闇の砂地にうもれてこれから歩いて行く道のりが悲劇ではなく喜劇であることを願う
ほのかな予感とともにわたしは海が生命の母であったことを思い起こす
太陽が海に没するときわたしはシイラになる
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