Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 「分からない」と言う勇気 <こころの処方箋>

河合隼雄の「こころの処方箋」は、とてもよく売れた本で、おそらく、わたしのブログを読書登録して頂いている方の、およそ5人に一人は、この本を持っておられるであろうというくらい有名な本である。


その「こころの処方箋」を開くと、巻頭言として、真っ先に、「人の心など分かるはずがない。」ということばが書かれ、その次に、「そのことをもっとも良く知っているのが、心理療法家という者である。」ということばとなる。


この「分からないということを、知っている」という現代的なソクラテス流の言い方は、多くの示唆を含んでいるもので、単に、こころと言うばかりでもなく、もっと推し広げて、現代風のソフィストたちを、黙らせるほどの知恵に満ちていると言ってよい。


現代の弊は、誰もが、分かったような顔をしている人人が如何に多いかということである。


断って置きたいが、ソクラテスという人は、「無知の知」を抱いて虚しくなった人ではない。「無知の知」という大きな知恵を得て、頭抜けた知恵者となった人である。


ソクラテスのパラドックスは、未だに有効であるばかりでなく、その真理は少しも輝きを失っていない。


誰かを、批判したくなるくらいなら、自分の無知を思うべきであろう。