Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 世界というもの <誰も知る者はいない>

ドラクロワという画家は、歴史に、戦争しか見なかった人であったそうで、戦争の絵を描くのに、とても長けた画家であった。


かと思うと、平和そのもののような絵を描く大画家もいて、じっさいのところ、今の世の中自体も、戦争と平和とが、絶え間なく入り交じっているような、けったいな現状である。


わたしは、ごく若い頃、世界というものが気になってしようがない時期があった。それで、「世界認識の方法」という、大仰な題を付けた、なんとも大上段に構えた本さえ読んだものである。


その本を読んで、それでは、世界が分かったかというと、その本の内容さえ、今は思い出せない。つまらない本を読んだものだと、思っている。


そんなある日、小林秀雄がベルクソンについて言及した文章を、読んでいたとき、「世界を知っているという人間など、一人もいはしない。」という文句に出会い、ああ、まったくその通りだと、長年の疑問が氷解したような思いがし、自分の中で、何かがストンと落ちた気がした。


世界がどういうもので、どうなっているものなのか、ほんとうのところ、誰も知りはしない。それで、人々は、その不思議な世界の中で、何の差し支えもなく、十分に自分を発揮して、のびのびと生活している。無論、そうでない人もいるが、その点むしろ、後者の人の方が、世界というものを、知った振りをしたがるという、おもしろいパラドックスがあるようである。


自分を十分に、発揮できない人の方が、世界とは、こうこう、こういうものだと断定したがる。この皮肉な傾向は、よくよく覚えていた方が、得のようである。