「かもめ」チェーホフ 新潮文庫
女優志望の娘ニーナは、名声にあこがれて家を出てある劇団に加わり、男に身をまかせ子どもを産み、やがて、男に捨てられ子どもにも死なれます。絶望したニーナは、自分を気まぐれな漁師に撃たれたかもめのようだと「わたしはかもめ。」と繰り返します。「わたしはかもめ。・・・いいえ、そうじゃないわ。」時を経て、ニーナの胸に知恵の閃きのように人生に忍耐する覚悟が生じます。その新しい芽は、ロシアの荒漠とした大地から真っ直ぐに萌え出たもののように、簡潔ですが、力強く描かれます。絶望の淵にある人間を見つめ続け、そこから立ち上がってみせた、チェーホフの聖者のような、静かで奥深い悟りに支えられた喜劇と言っていいでしょう。
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