わたしは使うたびに感心してしまうのだが、電気湯沸かし器の小さめの「ロック解除＜チャイルドロック＞」ボタンと大きめの「給湯」ボタンを考えた人は、よほど、よく人間の行動というものを理解していた天才ではなかったかと思う。

ボタンの大きさというところだけに着目し、発売当初、子供が遊んでボタンを押し、ヤケドをしてしまうという欠点を克服してしまったというところがすごい点なのである。

わたしは、ある店で、初めてその改良された電気湯沸かし器に出会ったのだが、操作してみて、じつに簡明な方法なのに、良い意味で、人間の本能を裏切っている、とてもよくできた操作方法だと、ひどく感心したものである。人間は、いくつかボタンがあるときは、まず大きいボタンを押すものだというのは、心理というよりも、むしろ頑固な本能なのだということを、この電気湯沸かし器から教わったと思う。

この方式の電気湯沸かし器が現れて以来、子どもが過ってボタンを押し、ヤケドをしたという事件を聞かない。それで、人々は当たり前のように、この電気湯沸かし器を使っている。いや、何気ないが、大した知恵の持ち主がいたものである。