現代詩 知人の訃
その人は甲高い声で
とある文章の是非を論じていた
眉を吊り上げ鼻の穴を膨らまし
性急にその文章の作者の不誠実を難じた
その人にとって文章の難解はそのまま
作者の不誠実であった
論理の糸は単線で屈曲を欠き
あちこちの壁にぶつかった
通念の鎧で覆われた感性は柔軟な動きを成し得ず
複雑に折り畳まれたニュアンスを
解し得なかった
矛盾があらわれた
その人はついにそれを解決しなかったが
幼年時代という王国を見出した
その人はそこで残りの限られた命を過ごし
一冊の本を著した
秋も深まっていく頃であった
食いしん坊ではあったが食通ではなかった
わがままではあったが無心にはなれなかった
荒削りな自我がそのまま突き通された生であった
それは幸福というものであったろうか
中村さんの霊よ
安かれ
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