Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ トルソの句 <明治は遠く> 他所感

「明治は遠くなりにけり」は、誰でも知っている、有名な文句だが、これは一句目がまったく看過されてしまった、言わば、トルソの句である。


降る雪や明治は遠くなりにけり 草田男


が、本来の句なのだが、わたし自身が「降る雪や」の一句目は知っていたのだが、誰の作かについては、頓着しないで過ごしていた。今、ネットで、慌てて調べて、ああ、中村草田男の句であったかと思いだしたところである。


ちなみに、わたしはブログを書くとき、ほとんどというか、まるでネットや当の本を調べずに、書いている。「おすすめ本」や「エッセイ」などを、書くときなどは、特にそうで、前の記事の「大言海」を引いた記事などは別だが、後は、ひたすら、自分の記憶に頼って書くようにしている。


勿論、調べて書いた方が正確なのは、分かり切った話で、今は、ネットで調べれば、必要で、正確な情報など直ぐに手に入る。ただ、そういうものを、そのまま他人様の前に出して、何が、面白いだろうとも思うのである。


自分の中で、熟れたものしか、出してみたくないという思いが強いのである。一種の依怙地な趣味ではあるが、お付き合いされる方には、少し、正確さを書いた文章を、読んでもらっている訳で、その点は、申し訳なく思っているが、文章の良さは、決して正確さだけに留まるものではないとも、思っている。


お付き合いされている方には、ただただ、有り難いと思っている次第です。


話が、横に逸れてしまった。


トルソの句であるが、この「明治は遠くなりにけり」の句には、逸話があって、作者が、ある旅館の女将に、揮毫を求められたとき、この自分の句を「降る雪や」を付けて、本来の、言わば正確な句にして、差し出したところ、「あら、あんさん、有名な句に前句を付けて、上手うに作りなはったなあ。」と言われ、いやな顔をするしかなかったそうである。


良句は、自分のだけのものではない。人口に膾炙したとき、それは、みんなの持ち物にならざるを得ないのである。それにしても、自分の句が、トルソにされて、有名になった作者の心情はどうであったろうか。思うに、複雑極まりないものだったろうと忖度する次第である。