Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 革新者 <法然>

法然の新しさには、何か決定的なものがあって、わたしはその不思議な革新性に惹かれる。


法然の思想上の新しさは、「念仏も」往生の種となるというのを「念仏こそ」に改めたに過ぎない。だが、これは思想上のことに止まることではない。当時の人々の宗教生活そのものの革新だった。宗教生活の変化とは、当時の人々にとっては、生活そのものの変化を意味したであろう。


この語義上の変革が、異常とも思える革新性を孕んでいたことを、当の法然自身が気付いていなかったわけはなかろう。この「智慧第一」と評された人物には、この新しさのいわば、絶対性というべきものが、意識されていなかったわけはなかったであろう。


当時の仏教界・思想界に与えた影響は大き過ぎるほど大きかった。勢力としての旧仏教は、ほとんどその存在意義を失い、他の鎌倉五祖たちは、法然上曳いた路線上を歩くしかなかった。禅仏教も、その反証のようにしか動けなかったし、日蓮は言うまでもない。仏教は、本当にその風貌を一新してしまったのである。


キリスト教のルターが母体としてのカトリックに対するプロテストとしてしか、革新できなかったのとはまったく違っている。また、西洋ではどうしても暴力が絡む。未だに続く、アイルランドのカトリックとプロテスタントとの血腥い戦いには、目を背けたくなるものがある。


日本では、この宗教上の大革新は政治的な迫害という形を取ったが、宗派同士の争いは、念仏者から法華信者への攻撃ともなったが、内輪もめで済み、いずれの内輪もめも暴力的なかたちで後を引くことはなかった。


これも、非常な革新性を、単なる語義上の読み換えに終始させた法然の手柄と言ってもいいものであろうか。