ここで取り上げられている昔話は西洋のものです。ユング派の心理療法家の著者が、昔話に秘められている意義を明快に引き出してくれます。著者は別の著作で「わたしが人の心を癒やし、救うことさえ出来たりするのは、多くの物語を知っているからである。」と言っています。物語に隠されている力は、われわれが普通に考える... 続きをみる
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民俗学の泰斗、柳田国男による日本の昔話です。薄い本ですが、実に様々な話が採録されています。日本の山姥のすさまじさを思わせる「牛方と山姥」、日本の知識人が揶揄されているかのような「山父のさとり」、心が満たされない日本の妻の代表のような「飯食わぬ女房」、女性の視点から新しい発見をし、貧しい男が長者にな... 続きをみる
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晩年の志賀は、老練な剣豪のような風貌をしていました。志賀は、日本語から大理石像のような不動の文章をきり出すことに成功しました。ニュアンスが豊富なために、平易な言語で、正確な文章を書くことの難しい日本語の性質と、長年の間、格闘したことのあらわれなのでしょう。その日本語をあくまで生かしきりながら、簡に... 続きをみる
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芥川は、晩年のある時期を除いては、宗教的な考え方について秀れた見識を有していました。この作品では、布教のために近世日本にやって来た主人公のバテレンを通して、日本人の宗教の有り様を見事にとらえて見せています。短編小説ですから、論理的な説得力を持ったものではありませんが、日本的な宗教の微妙な勘所をたく... 続きをみる
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世界最古の英雄叙事詩です。起源は聖書より古いとされ、神話上の人物オデュッセウスが主人公です。「オデュッセイアー」とは「オデュッセウスの物語」という意味です。非常な冒険譚に富んだ物語で、古代ヨーロッパの人々にとって冒険がいかに人生の重要なテーマであったかを窺わせます。一度その歌声を聞いたら、もうその... 続きをみる
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ホンダ自動車の創立者本田宗一郎が、自分の履歴を自伝風にまとめた本です。平明闊達、一読して紙背から春風が吹いて来るような爽快さがあります。ホンダの人柄がものをいっているのでしょう。小さな町工場から身を起こし、世界のホンダにまで育て上げた技術者・実業家としてのみずからの風貌を、なんの飾り気もなく等身大... 続きをみる
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仏教経典万巻中第一の書、諸経の王と称される「法華経」です。インドは時間観念を重要視しないお国柄です。そのため、仏教経典もその経典がいつ成立したのか分からないことが多く、また、どれがもっとも重要な教典かの判別もしません。そのために、仏教が中国に渡った際、天台智顗<ちぎ>が教典判釈<きょうてんはんじゃ... 続きをみる
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芥川は、小説の中で自分の姿を見え隠れさせます。それが、初期の頃はピリッとしたエスプリと自嘲の効いたよい味の作品になるのですが、後期になると、やり切れないほどの苦い後味を感じさせるものになっていきます。この「蜜柑」では、世間の塵埃にまみれた自分というテーマは相変わらずの芥川ですが、はじめのうちはがさ... 続きをみる
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頭の働きは悪く、無教養だが大金持ちの町人ジュールダンは、貴族になりたくてしようがありません。貴族の真似をして、じつにさまざまな習い事に手を出します。ついには、娘も貴族でなければ、嫁にやらないと言い出しますが、ジュールダンは、貴族のしたたかさに手もなくやられてしまいます。観客はその有り様に抱腹絶倒し... 続きをみる
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ヨーロッパ、特にフランスの近代詩を日本に紹介することに尽力した上田敏の名高い訳詩集です。藤村の新体詩抄等に飽き足らず、「一世の文芸を指導せん。」との意気盛んな抱負の元に書かれました。もはや、日本文学の仲間入りをしたと言っていいでしょう。気品のある名調子で訳された詩の数々は、多くの日本人に愛唱されま... 続きをみる
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影は、「もう一人の私」という意識下の自分と見ることができます。この書は、その「影」との内的な対決が、いかに現代人にとって緊急の課題であるかを提言しています。対決とは言っても、相手は自分にとって、もっとも不都合な自分の根幹を成しているものを壊してしまいかねない凄まじい力を持ったものです。この書は、そ... 続きをみる
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世慣れない純真一方の青年アルセストは、偽善だらけの社交界に強く反発し、激しく憎みますが、その社交界を体現したような男心を手玉に取るコケットなセリメーヌ未亡人に恋をしてしまいます。この皮肉な出来事が、劇に何とも言えないおかしみを生じさせますが、ついに、おかしみだけに終止することはありません。アルセス... 続きをみる
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インドで発見されたゼロが、世界文化に及ぼした影響は計り知れません。本書はそのゼロの発見の歴史的な過程、また、それがどのような変遷を辿って、世界に流布していったかを平易な文体を用い、われわれに手に取るように提示してみせます。極力、数式を廃し、誰もが納得できるように書かれた数字についての書物は、他にあ... 続きをみる
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著者は言います。「日本文学の盛り上がりのときを見ていると、古今集にしても、新古今集にしても、その他の連歌、俳諧にしても、「合す」原理が強く働き、それだけではなく、その「合す」ための場の直中で、いやおうなしに「孤心」に還らざるを得ないことを痛切に自覚し、それを徹して行った人間だけが、瞠目すべき作品を... 続きをみる
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著者のライフワークです。朝日新聞の第一面にコラムとして、長年月に渡って一時的な中断はありながらも、毎朝掲載されました。海外、特にヨーロッパでは、日本には大新聞の一面に文芸批評が載っているとして、驚きの目で見られました。日本の短詩型の文学によく合致した小さなスペースに収まる文芸批評です。俳句や短歌な... 続きをみる
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一読して、その明快で、流麗な文章が目を引きます。漢の武帝の時代は中国の歴史の最初の大転換期にあたります。はじめて儒学を定立し、その後、二千年に渡り引き継がれた経学、文学、史学を発足させました。有名な歴史家の司馬遷も武帝の時代の人です。つい最近の民国革命に至るまで、中国のお国柄となる中核の性格を形作... 続きをみる
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「詩聖」と呼ばれる杜甫の名詩群をさらに厳選して、解説を加えた書物です。著者の吉川幸次郎は、中国の古典中、冠絶した二著として「論語」と「杜甫詩集」を挙げています。杜甫の詩が日本文化に与えた影響は、白楽天には及びませんが、芭蕉は奥の細道の旅で杜甫の「杜工部集」を懐に忍ばせています。それから得られたのが... 続きをみる
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フロイトのオイディプス・コンプレックスの出処となったギリシア悲劇です。オイディプスは、自分でまったく知らぬ間に、父を殺し、母と結婚して子を産ませます。劇は、そのオイディプスの所行が、連れて来られるさまざまな人々の証言から、次々と明るみに引き出されて行き、劇を見る者がオイディプスの悲惨極まりない運命... 続きをみる
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世界文学の最高峰に位置する小説です。作者が最も成功した「罪と罰」を越えていると言っていいでしょう。「罪と罰」も含めた、ドストエフスキーの後期の大小説群は、単に、長いからというのではなく、コスミックと言えるほどの大きさを持っているのですが、この書はその中でも、最も円熟した作品です。「カラマーゾフの兄... 続きをみる
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現代の黙示録とまでいわれる本書は、他のドストエフスキーの作品と一線を画します。この点、シェイクスピアのマクベスに似ています。これは、単なる文学上の趣味的な見方でいうのではありません。主人公のスタブローギンは徹底して悪の道を歩きます。それも、最初は単なる興味本位からですが、それが、スタブローギンの行... 続きをみる
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「罪と罰」を書き終えた著者が、「無条件に美しい人間」を書こうと筆を執ったのがこの小説です。「キリスト公爵」と呼ばれるムイシュキン公爵がその人ですが、不思議なことに「あなたはキリスト教徒か」と問われ、ムイシュキンは黙っています。人々を途方に暮れさせるようなムイシュキンの純潔さには、ある形容し難い奥行... 続きをみる
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「バッハの思い出」アンナ・マグダレーナ・バッハ 講談社学術文庫
音楽の父ヨハン・セバスチャン・バッハの二度目の妻アンナによるバッハの評伝書です。およそ、音楽家の妻として、その夫について、これほどの評伝を残せた女性はアンナぐらいでしょう。それも西洋音楽史上、最上級の破格の天才バッハであったことは、後世のわれわれにとっては、何物にも代え難い最上の贈り物となりました... 続きをみる
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軍記物の一大叙事物語です。平氏の絶頂から没落までを具に描き、つはものたちの躍動感に満ちた言行を簡潔な和漢混交文で活写します。木曽義仲の最期などは、真に武人らしい最期で、芭蕉が惚れ込んだものです。時代の意匠であった仏教思想は、手玉に取られているようで少しも抹香臭さを感じさせません。男らしい人間臭さが... 続きをみる
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モーパッサンの作品中、もっとも有名な小説です。ある平凡な貴族の娘の平凡な一生が、鮮やかに活写されます。ここにも、著者は特に優れた人物は一人も描いていません。モーパッサンの作品では、自身を題材にしたいくつかの小説を例外として、著者自身ほとんど顔を出すことはありません。この小説の最後で、ある平凡な女の... 続きをみる
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モーパッサンには、研究書の類がほとんどありません。人生がそのまま書かれてあって、それを読めば誰にでも分かる。わざわざ研究書を書く必要などあるまいという訳です。この短篇集はその人生を書く達人であったモーパッサンの選りすぐりの名篇が集められています。どれを取ってみても人生の妙味を味わえるものばかりです... 続きをみる
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モーパッサンはフランスの小説家です。この「ピエールとジャン」は著者の最良の作品と言っていいでしょう。この小説には、少し長めの序文があります。モーパッサンの師匠に当たるやはり小説家のフローベルから受けた薫陶の言葉、「主語を飾るのは一つの形容詞、動かすのは一つの動詞で足りる。しかも、それは他のものとは... 続きをみる
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先述の「詩を読む人のために」の姉妹編にあたります。ここでは、三好は現代詩に限らず、もっと自由に一月から十二月に渡る古今の詩歌を自在に引用し、また、自らの詩的経験を単なる一経験として記述し、読者を自由な詩歌の鑑賞へといざないます。俳句、和歌、口語自由詩、そして、作者にとって最良の詩の手本であった漢詩... 続きをみる
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三好達治は萩原朔太郎の弟子にあたります。自身優れた詩人であった著者が、現代詩を読もうとする年少の人たちのためにと筆を執りました。著者は「詩を読み、詩を愛する者はすでにして詩人であります。」と古人の言葉を引き、そう人々に呼びかけます。「この書物は、たださまざまの詩を、私という一箇の貧しい心に迎えて、... 続きをみる
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近代抒情詩の確立者、萩原朔太郎によって描かれた与謝蕪村です。俳人蕪村に、すでに近代に繋がる水々しいロマン的な抒情性を見出し、芭蕉が「漂泊の詩人」と呼ばれたのに対し、「炉辺の詩人」「郷愁の詩人」と名付け、その本質をあたたかいロマンの詩人として見出しました。「君あしたに去りぬ。ゆうべの心千々に何ぞ遙か... 続きをみる
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俳聖とまで呼ばれた芭蕉畢生の傑作です。昔、権力者から「歌枕の意味を調べてこい」と左遷された人々にあやかって、その意味を逆手にとって出掛けた旅でした。江戸からはるばる奥州に至り、旅の連れの門人曾良は病いに倒れ旅を諦めます。芭蕉自身も病いに伏せりますが、それでも旅を続け、とうとう旅の最終目的地、桑名に... 続きをみる
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これまでの紀貫之のイメージを一新した画期的な名著です。子規の「下手な歌よみ」評から論を起こし、貫之は決して子規の言うような歌人ではなかったことを、「うつしの美学」と著者が呼んだ菅原道真の詩との関連を説き進め、古今集の暗示性、象徴性を体現した歌人であったことを豊かな説得力を持った文章で論証していきま... 続きをみる
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川端による清新な「竹取物語」訳です。源氏物語に「物語の出でし始めの祖」と書かれていることは有名ですが、竹取物語には、歴史上の実在の人物も登場するという虚構と現実が入り交じった性格を持っています。求婚者に無理難題を吹っかけるかぐや姫の姿は、ある意味で、現代の女性とも似通うところを持っています。ともあ... 続きをみる
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評論家で詩人の著者が、万葉集のおもしろさを伝えるために、懇切丁寧な解説を加えながら書き下ろした書物です。「今生きている私たちにとって、『万葉集』を読むことがどれほど身近なものでありうるかをということを、実際の作品を読むことを通じて考えよう」とした著者は、万葉学者でもなければ、その専門家でもありませ... 続きをみる
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日本最古の物語です。原文はすべて難解な漢字で書かれています。これが現在の形で読めるようになったのは、江戸時代の国学者本居宣長の三十年余をかけたライフワーク「古事記伝」のおかげです。日本人ならずとも、一度は手にとって読んでみたい本です。宣長は、古事記の神代の巻を評して、「良きは悪しきよりきざす理<こ... 続きをみる
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遠野は、今の岩手県にあたります。もの深い山奥の物語です。「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。」この物語は事実「平地人を戦慄せしむる」に充分な数々の話柄に満ちています。他の書物で柳田はこうも語ります「迷いも悟りもせぬ若干のフィリステル(俗物)を改宗せしむるの機縁を得れば」柳田は、民俗学の戦慄... 続きをみる
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民俗学、生物学の巨人、南方熊楠の評伝です。南方の著作は膨大を極め、その研究もやっと緒についたばかりです。少年の時の南方は「和漢三才図会」と呼ばれる当時の膨大な百科事典の数十ページを、毎日丸暗記して、とうとう全てを写してしまうほどの驚異的な根気と記憶力の持ち主でした。「ヨーロッパにあるようなものは日... 続きをみる
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ユングは、ある同じ神経症の女性患者の症状を分析したフロイトの外向的な解釈とフロイトの弟子であるアドラーの内向的な解釈が、同等の正当性を持っていることに注目し、外向性と内向性というタイプ論を打ち立てました。古今の書物を渉猟し、例えば、ゲーテの外向性の性格と対照的なシラーの内向性な性格について、詳細な... 続きをみる
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後に一家を成したフロイトの高弟アドラーの著作です。アドラーはあまり本を書いていませんが、優越感情や劣等感情など、今では常識になって使われている用語を発案した人物です。アドラーは名誉心や虚栄心などの過度の発達、いわば権力志向が、真の人間性をいかに損なっているかに注目します。人間知はいまだ、発達の途上... 続きをみる
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日本的経営の原点と言われる本書は、江戸時代の疲弊した松代藩で、財政改革を任された恩田木工<おんだもく>の言行を記した書物です。気の重い、難しい仕事を担った恩田は、次々と手を打ちます。まず、長老たちに一切口出しさせないこと。また、命がけの仕事であることを知らせるために、妻に離縁状を出します。それでも... 続きをみる
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名著「文明論之概略」を精細に読んだ、丸山真男の評論文です。丸山は戦後民主主義を代表する思想家ですが、自分の拠って来たる思想の根本となった、福沢諭吉の代表作であるこの書物を、自分なりに得心のいくまで吟味しようと筆を執りました。丸山の読みは明快です。文明の理想を不抜の理念とする思想は、どこにも曖昧さは... 続きをみる
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福沢諭吉の思想の本領が発揮された書物です。福沢自身が、雅俗混交体と呼んだ俗語も豊富に取り入れたこれまでにない名文になっています。「文明論之概略」には、緒言があります。この未曾有の混乱期を、我が身をそのまま実験台にして「一身にして二生を経る好機」とする人間と、頭だけを切り換えたかに見える奇怪な「両頭... 続きをみる
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現代を代表する知性、立花隆が、七人のサイエンティストと交わした対話集です。多岐に渡る科学分野の第一人者たちとの対話は、知的冒険にも似た興奮を覚えさせてくれます。七人の対話者はいずれも日本人ですが、どの一人を取っても世界の第一線で活躍する人々です。謎を問いかけて止まない、母なる「自然」をかれらはどう... 続きをみる
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「量子力学入門 ー現代科学のミステリー」並木美喜雄 岩波新書
量子力学は、相対性理論と並ぶ現代物理学の知的金字塔です。ミクロの世界における科学及び技術への貢献度は、相対性理論よりも上まわっています。プランク定数h、トンネル効果等、量子論における不思議な現象を懇切に解説してくれます。特に、光の波動性と粒子性の二重性の性質から、物質そのものの波動・粒子の二重性ま... 続きをみる
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難解な相対性理論を厳密に、しかし誰にでも分かり易く説くために、著者は、ニュートン力学から筆を起こします。その次に、動いている船からボールを落とすと、船上の人にはまっすぐ下に落ちるように見え、岸から見る人は、ボールは弧を描いて落ちるように見えます。この二様の見方を説明したのが、ガリレオ・ガレリーの相... 続きをみる
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フランスの科学者であり、哲学者であったパスカルのパンセ「瞑想録」です。「人間は考える葦である」という有名な言葉が見えます。この書は不抜のカトリックの信仰を持つパスカルが、人々を信仰にいざなうために書かれた書物です。信仰を持つ方に賭けることがどれほど大きな得であるかをパスカルは力説します。けれども、... 続きをみる
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セネカは暴君ネロの時代に生きたストア派の哲学者です。どのように荒れ狂い、自分を圧倒するような怒りであれ、その怒りは自分ではない。お前はわたしとは別ものだと、男らしい意志を持って、その怒りを自分から截然と切り離すことを知恵とした哲人です。セネカはこの書で、怒りがどれほどの害悪をもたらすものであるかを... 続きをみる
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知がテーマのプラトンの対話篇です。無知の知とは違い、人間が普通に兼ね備えている悟性の働きに注目します。篇中、傍らに侍っている奴隷の知性を試す場面が見られますが、現実の法廷で、真実である信憑性が極めて高いと裁断されるような、リアル感のある場面です。ソクラテスは、実際にその奴隷の知性を、どのような人間... 続きをみる
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ソクラテスの口から哲人政治が語られる雄篇です。じつに激しい議論のやりとりがあります。政治を担うのは哲人こそふさわしい。それも、進んでではなく嫌々ながらするのだというプラトンの政治思想が語られます。この対話篇には「エルの物語」という挿話が入っています。死後の世界を見たエルの話が語られるのですが、良い... 続きをみる
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愛をテーマとして語られた対話篇です。愛の達人であったソクラテスが、酒を飲み、ご馳走を食べながら、名だたる人物たちと語り合います。悲劇詩人のアガトーンがいます。喜劇詩人のアリストパネースもいます。いずれも歴史的人物ですが、対話を主導するのは、もちろんソクラテスです。アリストパネースはしゃっくりを起こ... 続きをみる
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たましいの不死をテーマとした対話篇です。ソクラテスの対話相手が、人間の心の仕組みを、見事な比喩によって解き明かそうとします。死を直前にしても、平静な語り口で語られるソクラテスの言葉には、どんな人間の心さえやわらげるようなただならぬ力を内に秘めているようです。対話が終わり、獄卒に呼ばれ、ソクラテスは... 続きをみる
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ソクラテスが裁かれた後の獄中での対話篇です。法と正義がテーマです。ソクラテスは、自分がこの牢獄から出ないのは、足が悪いからではなく、出ようとする意志がないからだと、脱獄を勧めるクリトンに言います。アテネの法に従うことが、なぜ正義であるのか。ソクラテスの心情は計り知れませんが、その穏やかに平静に語ら... 続きをみる
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プラトン初期の傑作です。アテネの法廷に立ったソクラテスが不当に断罪され、死罪を言い渡される有名な話ですが、ソクラテスは判決を言い渡された後、親しい人々に不思議なことを語ります。「諸君、驚くべきことが起こった。私のダイモーンがまったく沈黙してしまったのだ。」ソクラテスのダイモーンは、ソクラテスが子供... 続きをみる
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語録の王と呼ばれる、臨済宗の開祖、臨済の言行録です。一読、本から爽快な風が吹いてくるような自在極まりない精神を感じさせます。「仏を殺し、祖を殺し、父を殺し、母を殺し、眷属を殺し、親族を殺し、知音を殺し等々」臨済の言葉は奔放そのものです。「赤肉壇上一無位<しゃくにくだんじょういちむい>の真人、これな... 続きをみる
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著者は、禅に深い造詣を持った学者です。本書は禅を修する者の便宜のために書かれた十牛図という絵図をユング心理学を参考にしながら、精細に分析した書物です。牛は、ユング心理学でいう無意識に他なりません。この無意識とどう向き合い人格の上で、調和させるのか。禅修行の発展段階が、錬金術の過程に不思議なほど近似... 続きをみる
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ドイツの哲学者ヘリゲルが日本に来日し、折角だから日本文化を学ぼうと弓術を習うことにします。そこで、論理思考によって武装した西洋の知性と心技体を体得した日本の弓術の師匠との激しいぶつかり合いが生じます。お互いに一歩も譲らないまま弓道の練習は佳境を迎えます。どうしても納得できないヘリゲルに、師は、的に... 続きをみる
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日本第一級の女流作家宇野千代が、人生の師と仰いだ中村天風の座談です。天風は日本軍の工作員として活動している最中に、難病の奔馬性結核に罹ります。病気を治すために世界各地を転々としますが、どうにもならず、諦めて日本に帰ろうとしたとき、偶然、ヨガの行者と出会いその弟子になります。インドでの修行の末、自然... 続きをみる
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名画をよく鑑賞したいのだが、何をどう見ていいのかよく分からない。そういう人のために、赤瀬川は懇切な入門書を書きました。それがこの「名画入門」です。著者自身が、まったく自分の目で名画を鑑定しようと、先入観を一切取り払って名画と対峙します。そうすると、名画と言われて来た絵画には、やはり立派な価値がある... 続きをみる
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現代の美の達人、赤瀬川原平による卓抜な千利休論です。「茶の本」のような緊張感はありませんが、著者が無意識に求めていたものと、利休がすでに極めていたものとが、著者の心の中ではげしくぶつかり合いこの本が生まれました。著者は、現代でもそのまま通用する利休の芸術性の高さに目を見はります。この時代にすでに現... 続きをみる
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原文は非常に美しい英文で書かれているそうです。新渡戸稲造の「武士道」といい、内村鑑三の「代表的日本人」といい、この時期、日本人による英文の名著が多く出ました。明治人の心意気の高さを感じさせるものがあります。「茶の本」は日本の茶の湯を世界に紹介した高名な本です。狭い茶室の中で、苦い茶を喫し、宇宙を感... 続きをみる
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近世日本国民史という膨大な著作を書いた徳富蘇峰の中でも、一番の傑作とされているのが、この「吉田松陰」です。松陰は行動家でしたが、ほとんどの行動は無惨な失敗に終わっています。鎖国の世にアメリカ渡航を企てますが、乗船を断られ、牢獄に入れられます。幕府の重臣に手をかけようとしてやはり失敗し、そのために安... 続きをみる
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フランス救国の少女ジャンヌ・ダルクの伝記です。二十歳にも満たない少女が一国を救ったという世界史上、奇跡的な出来事なのですが、フランスの正史にも英雄として正しくジャンヌ・ダルクの名が刻まれています。軍の司令官としても政治家としてもずば抜けた行動力を示したこの少女は、王の裏切りによって、最後には火刑に... 続きをみる
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性悪で、手の付けられないような気の強い女が、劇の最後には、素直でどこに出しても恥ずかしくないような立派な女性に変貌するというちょっと有り得ないと思えるような喜劇です。主人公の女は、まさにじゃじゃ馬を絵に描いたような女で、思いつく限りの性悪な悪事をしでかします。この女の教育係を買って出た男は、また、... 続きをみる
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シェイクスピアの書いた最後の傑作と言われています。ミラノ公で魔術師プロスペローは、娘ミランダとともに、とある島で隠遁生活を送っています。島には様々な妖精たち、中にはキャラバンという性悪な怪物もいます。プロスペローは魔術を使い、ある船を難破させ、乗組員たちを全員島に漂着させます。ミランダの夫に相応し... 続きをみる
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劇中、最も魅力のある喜劇人、太ったフォルスタッフの登場する史劇です。フォルスタッフの登場する場面は、どこでも空気が緩みます。フォルスタッフにはおよそ徳というものがありません。悪徳さえ身につけなかった男といっていいでしょう。生きていること自体が、愉快でしょうがないような人間です。何をやらかすにしても... 続きをみる
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金貸しのユダヤ人シャイロックが登場するシェイクスピアの中でも、よく知られた作品です。ユダヤ人の典型的な性格が描かれているとして有名になったのですが、劇の面白さは、むしろシャイロックが法廷で負けて退場した後の、恋人たちの語らいの場面にあります。ここでは、まったく手垢に汚れない生まれたばかりのロマンチ... 続きをみる
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シェイクスピア四大悲劇の中で、もっとも家庭的と呼ばれている悲劇です。オセローは、愛を誓い合ったデズデモーナに嫉妬をするのですが、オセローの気高い心は、この嫉妬によっても、少しも傷つけられることはありません。策略家のイアーゴーの唆しに乗って、最後は、自分の手で最愛のデズデモーナに手をかけて殺してしま... 続きをみる
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シェイクスピアの四大悲劇の中で、もっとも色調の暗い悲劇です。これは、マクベスが本物の悪人に他ならないことから来ています。王の高貴な血筋を断ったマクベスは、自ら、王位簒奪者になります。魔女の予言にいいように振り回され、権力をわがものとするために、殺し屋に暗殺を依頼します。マクベス劇中もっとも暗い場面... 続きをみる
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シェイクスピアの四大悲劇の一つです。リアは領地をめぐる話し合いの際、最愛の娘コーディーリアから、素気ない言葉を聞き、あっという間に信用のならない二人の姉に領地を与えてしまいます。この振る舞いが劇に正邪の反転したような狂気の性格を与えます。リアの怒りは自分の蒔いた種に他ならないのですが、自然力を思わ... 続きをみる
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ニーチェ自身が、「わたしの哲学を学ぼうと思う者は、まず、この書から読むといい」と言ったニーチェ哲学への入門書です。巻頭言に「女が真理であったとしたらどうであろうか」という言葉が載っています。ニーチェにとって真理とは机上の論理ではありませんでした。常に人生や生活の直中で試みられ、生き続けなければなら... 続きをみる
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ショーペンハウアーは幸福について独特の考えを持っていました。ショーペンハウアーの隠れた思想に貴族主義があります。精神の貴族として繊細な感じやすい精神を持った人間は、できるだけ俗悪な人々との交渉を避けて、安逸な静かな生活を送るように心掛けるべきだと言います。弟子のニーチェの考え方とは相容れないもので... 続きをみる
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ニーチェの師匠に当たる、ドイツの哲学者の主著です。ニーチェ自身は、この人の書いた本の第一行目を読むや、あらゆるページのあらゆる言葉を謹聴せずにはいられない読者であったと書いています。この書は、東洋哲学、特に仏教の華厳経の影響が顕著です。滝のように流れて止まない現象の非情性とそこに虹のように掛かる本... 続きをみる
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ユングは、自分の個人的な出来事を語るのを好みませんでした。ユングの秘書ヤッフェがいなかったら、この書物は出来上がっていなかったでしょう。ですが、実際出来上がった書物を読んでみると、この本がじつに価値のある得難い本であるのが分かります。ユングは精神科医でしたが、ユング自身がそのまま統合失調症者でした... 続きをみる
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晩年のユングには、多くの名著があります。「ヨブへの答え」はその一つです。ヨブは、旧約聖書を越えて有名な人物です。義人でありながら、神から手酷い試みを受けるのですが、ユングは、神のヨブへの仕打ちは、イエス・キリストという神の受肉化の前段階であったという独自の理論を提起します。イエスの十字架上の死は、... 続きをみる
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鎌倉時代の旧仏教の名僧、明恵上人の「夢の記」を元に、現代の心理療法家の著者がそれを精細に分析した書物です。著者は、明恵上人が自分の夢とどう向き合って来たのか、正面から取り上げます。著者の本の中では、読解の難しい本ですが、著者独自の父性原理、母性原理という言葉を用い、夢が、どう明恵上人の生き方に関わ... 続きをみる
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著者の鈴木大拙は、世界に仏教を広めることに尽力しました。鈴木大拙は禅仏教ですが、現在、世界で特に欧米圏の人々が仏教をいうときには、ほとんどこの鈴木大拙によって紹介された仏教が基底になっています。その著者の思想がもっともよく現れたのがこの書物です。著者は禅を修したのですが、浄土教的な見方にも並々なら... 続きをみる
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膨大な数の仏典の中でも、仏教の教えがもっとも平易に説かれた書物です。般若心経はいうまでもなく、大乗仏教の空の理法を簡潔に説いたもので、仏教経典の真髄と言われています。また、金剛般若経は、仏教経典の中でも、もっとも初期の頃に成立した書と言われ、後に登場する教典のものものしさ重厚さがなく、清新ないぶき... 続きをみる
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「大学」は儒教の初学者のための書。「中庸」は儒教の奥義が書かれた書とされています。「大学」巻頭には、儒教についての構造的な文章が書かれています。「修己治人」というのがその圧縮した表現で、要するに我が身を修め、しかる後に国も治まるようになるという考え方です。「日日新たにして、日日に新たなり。」これは... 続きをみる
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盛唐の詩を中心に、膨大な唐詩選の中から、読者の便宜のためにさらに厳選して注釈を加えたのが本書です。中国が世界に誇る唐詩のアンソロジーを、日本の読者向けに分かり易く書いたもので、一読して、漢詩のすばらしさを伝えてくれる優れた書物になっています。編者の吉川幸次郎は、流麗で分かり易い文章の書き手で、難解... 続きをみる
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およそ、物語上の登場人物で、作者から、これほど本当に愛された主人公というものは、いないでしょう。式部は太陽光のようなまっすぐな愛情を、光源氏に注ぎきります。物語に奔出するおびただしいメタファーとそれを正確にかぎ分けるするどい嗅覚と感覚は、源氏物語に慣れない人を戸惑わせますが、そのメタファーの大海に... 続きをみる
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六歌仙の一人、在原業平が主人公とされています。業平は、国史に「歌をよくし、女人には行くところ可ならざるはなし。」と書かれたほど、女性にはとてもよくもてた男で、「身を用なき者と思いなして」と諸国を遍歴するのですが、さまざまな女性とも遍歴を繰り返したようです。伊勢物語には、その間の風流な出来事が記され... 続きをみる
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「袖ひぢて結びし水のこおれるをけふ吹く春の風やとくらむ」古今和歌集の巻頭の一首です。この歌には、一首の中に三つの季節が読み込まれています。他の言語では、これほど短い言葉でこれほどの時の推移を表せないものです。古今集は、また、一首一首続けて読んでいくと物語性が隠されていることも分かってきます。心憎い... 続きをみる
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ゲーテは、自分の書いた「若きウェルテルの悩み」は、ほとんど読み返そうとしませんでしたが、この「ヘルマンとドロテーア」という恋愛劇詩については、晩年になっても強い愛着を持ち、何度も読み返したと言います。一読、清新で豊かな抒情性と建設的で骨太い理性とが見事に一体となって感じられる作品で、破れ目のない古... 続きをみる
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この劇詩は、選ばれた少数の人々のためにしか書かなかったとゲーテは言っています。老博士ファウストはあらゆる学問を究めた後、言い知れぬ虚しさを味わいます。悪魔メフィストが現れ、世の活動に満足を見出すまでという契約によって、再び若さと健康を手にし、世の中のあらゆる活動にわが身を委ねます。ゲーテが五十年の... 続きをみる
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主人公のヴィルヘルム・マイスターは、恋に破れ、ある劇団に身を置きます。そこではハムレットを演じるのですが、この小説自体が一編の卓抜なハムレット論にもなっています。ハムレットは性格劇ではないという卓見がここで出てきます。その劇団で運命の荒波にもまれながら、ヴィルヘルム・マイスターは成長していきます。... 続きをみる
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無意識心理学の祖フロイト自身による精神分析学の入門書です。フロイトは重度の神経症者でした。弟子のユングの夢を聞き、ユングは私を亡き者にしようとしていると思い込み、列車の中で倒れてしまうほどの症状でした。フロイトの学説は自身の神経症が治癒していく過程から生み出されていったものです。また、フロイトは稀... 続きをみる
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エラン・ヴィタール「生命の飛躍」と訳される有名な言葉の登場するベルクソンの進化学説です。ダーウィンの「進化論」では説明できない生物の進化の過程を、非常な知力を用い、徹底的に考究していきます。そこから直観されたのが、先に書いた「生命の飛躍」です。付言しておかなければなりませんが、ベルクソンの言う「直... 続きをみる
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原題は「意識に直接与えられたものについての試論」という長い題です。ベルクソンは、われわれが日常感覚として持っている当たり前な自由感から決して離れません。自由が哲学者の間でどう論議の対象となろうが、この自由感からものを考えようとします。ベルクソン自身が、わたしは実在論も観念論も行き過ぎていると感じた... 続きをみる
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ホフマンはドイツの人で、作家、作曲家、画家、法律家と多岐に渡る才能を見せました。現在では、後期ロマン派の幻想文学の奇才としてよく知られています。現実と非現実が直接に交錯する彼の作風は、読む者の感覚を奇妙に混乱させてしまうようなものを持っています。まさしく幻想文学ですが、単なる幻想文学の枠を越えて、... 続きをみる
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著者の吉田健一は、総理大臣を務めた吉田茂の長男です。多くの著作がありますが、著者のもっとも円熟した時期に書かれた傑作です。吉田健一の文体は独特です。奇妙と言っていいほどですが、紆余曲折しながら進む文章に導かれていくと、豁然と展望の開けた高台にいることに気付きます。ヨーロッパが真にヨーロッパであった... 続きをみる
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非常に名高い本ですが、実際に読んでいる人の少ない本です。著者は心理学者で、クライアントとして来た英語の堪能な女性が、息子のことを相談するときに、「この子は幼いとき甘えなかった」という言葉だけを日本語で語ります。英語には「甘える」という言葉がなかったからです。それが、著者の「甘え」論のきっかけになり... 続きをみる
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クラシック音楽の好きな人なら、ぜひ座右に置いておきたい一冊です。古今のクラシック音楽の中から、年代順に300曲を厳選しそれぞれに著者の卓抜で正確な評価を加えていきます。グレゴリア聖歌からシュトックハウゼン、武満徹に至るまで、クラシック音楽に対する著者の並々ならぬ造詣の深さは、単なる紹介書の域を超え... 続きをみる
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日本はタテ社会であるという現在では当たり前となっている常識を作った書です。著者の言うタテ社会の意味は、しかし、実際に本書を読んでみれば分かりますが、現在流布している「タテ社会」という言葉とは、ずいぶん異なったものです。常識として通用している言葉が、いかに本来の意味合いから遠ざかってしまうものである... 続きをみる
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イギリスロマン派の神秘詩人ブレイクの詩集です。ブレイクには次の言葉があります。「生きとし生ける者はみな神聖である」心の無垢なやわらかさというものをこれほど見事に詩にのせることのできた詩人は他にいません。わたしたちには何の準備も要りません。ブレイクの語る言葉に素直に聞き入っていれば、そのまま自分のも... 続きをみる