わたしが、大江健三郎さんのことを知ったのは、小林秀雄の著作を通じてであった。小林秀雄は、晩年、大江健三郎さんについて、少し書いた文章がある。それで、この人に興味を持った。 浪人時代は、大江健三郎の暗さが、ちょうどよくそのときの心境にマッチしたこともあって、就寝前に、彼の短編小説を読んでから、寝るの... 続きをみる
短編小説のブログ記事
短編小説(ムラゴンブログ全体)-
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題名が思い出せなくて、申し訳ありませんが、マンの短編集の巻頭にある、強い印象を残さずにはいない、短編小説です。公園のベンチで、偶然出会った老人から、人生の話を聞くという体裁で、その老人は、社会に出たときも、結婚をしたときも、子どもが生まれたときも、病気から治ったときでさえも「それで、どうしたという... 続きをみる
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ドストエフスキーの大小説によく見られるのですが、極限にまで紛糾したと思わせる男女間の心理のせめぎ合いが、この短編小説では、まことにコンパクトに、けれども克明に描き出されます。自分でも知らぬ間に、新妻の心を、ぎりぎりにまで追い詰めてしまった金貸しを生業とする男は、自ら命を絶った主人公のおとなしい妻の... 続きをみる
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この短編小説は、いわゆるドストエフスキーらしい心理観察眼というものを、まるで感じさせないものです。作中、老婆は忽焉と息を引き取ります。天寿を全うした老婆の死は、誰にも悲しみを与えません。死ぬ直前の老婆は、しきりに自分の曾孫のコートの丈が少しばかり短いことを気にしていましたが、もう誰もそんなことを気... 続きをみる
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古今にわたる世界中の冤罪事件を集めた短篇集です。時を隔てて出てきた証拠によって、無罪であることがはっきりと証明された数々の事件が、短編小説のように綴られていきます。著者は、別の著作の結びで、「事件というものが起きなければ、悲劇は生まれない。それが二十世紀である。」という有名な言葉を残しています。こ... 続きをみる
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江戸時代に取材した短編小説です。話の主題はたいへん重く、実の兄弟をやむを得ない事の成り行きからあやめてしまい、護送船に乗せられた男の話です。ここでも、やはり鴎外は自分の意見などを陳述していません。ただ、護送船の船頭にこの男は果たして、罪人と言えるのだろうかとお上に問うてみたいと思わせて、物語を終わ... 続きをみる
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サリンジャーはユダヤ人の作家です。日本の禅文化の影響を色濃く受けた人で、巻頭言には白隠の「両手で打って鳴る音を片手で聞け」という禅の公案が掲げられています。サリンジャーは初めから、日本の禅文化に興味を持っていたわけではなく、アメリカで起こった、金持ちの家に生まれ、どこから見ても幸福そうだった青年の... 続きをみる
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およそ小説に描かれた女性で、これほどかわいい女は他にいないでしょう。オーレンカは自分の意見というものを持たない人間ですが、誰かを好きでいずにはいられない女です。三度結婚しますが、三度とも相手の意見に従い、愛し切ります。最後に寡婦になりますが、ある少年に心底から愛情を注ぎます。トルストイは、この短編... 続きをみる
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フレンホーフェルという金持ちの老画家の話です。彼は、熱っぽく絵について語り、瞬く間に一枚の見事な絵を描いてしまうような腕を持っていますが、少し風変わりなところがあります。十年来、ある絵に没頭し、それが自分でも傑作かどうか判じかねているのです。ある機会があって、思い切ってその絵を信頼している画家の仲... 続きをみる
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バルザックの中では、比較的短い小説ですが、強い感動を受けずにはいない傑作です。話は、二人の子どもを連れた若く美しい未亡人が誰とも付き合わず、ざくろ屋敷で行い澄ましているところから始まります。なぜ、未亡人は誰とも付き合おうとしないのか。その理由は、読み進むうちに明らかになりますが、物語の末尾は、どの... 続きをみる
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作者の中島敦は若年で亡くなりましたが、漢文調の簡潔で力強い文章を得意とし、さまざまな格調の高い小説を残しました。この本に収められている短編は、どれも完成度の高い、何回もの再読に耐える、古典の名に値する名篇です。囚われの身となった「李陵」が、鬱屈を晴らそうと馬で駆けて行く場面は雄渾ささえ感じます。「... 続きをみる
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晩年の志賀は、老練な剣豪のような風貌をしていました。志賀は、日本語から大理石像のような不動の文章をきり出すことに成功しました。ニュアンスが豊富なために、平易な言語で、正確な文章を書くことの難しい日本語の性質と、長年の間、格闘したことのあらわれなのでしょう。その日本語をあくまで生かしきりながら、簡に... 続きをみる
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芥川は、晩年のある時期を除いては、宗教的な考え方について秀れた見識を有していました。この作品では、布教のために近世日本にやって来た主人公のバテレンを通して、日本人の宗教の有り様を見事にとらえて見せています。短編小説ですから、論理的な説得力を持ったものではありませんが、日本的な宗教の微妙な勘所をたく... 続きをみる
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芥川は、小説の中で自分の姿を見え隠れさせます。それが、初期の頃はピリッとしたエスプリと自嘲の効いたよい味の作品になるのですが、後期になると、やり切れないほどの苦い後味を感じさせるものになっていきます。この「蜜柑」では、世間の塵埃にまみれた自分というテーマは相変わらずの芥川ですが、はじめのうちはがさ... 続きをみる
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菊池寛は偉人です。何がどのように偉かったか説明に困るような偉人です。文藝春秋という雑誌を創刊し、大衆小説を数多く書いた、実業家と作家を兼ねた人と言えばそれまでなのですが、それだけではどうしても菊池寛という人を掴んだことになりません。およそ、作家と言われる人はその当の人間より、書かれた文章の方が立派... 続きをみる
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文庫本で数十ページほどの短編小説ですが、この作品の題名から「小説の神様」とまで呼ばれた日本を代表する近代の小説家です。磨き上げられた正確な美しい日本語を用い、完成度の高い数々の小説を書き上げました。平易ながら簡にして要を得た品格のある志賀の文章は英訳し辛い性質があるため、国際的には低評価されている... 続きをみる