宣長が、大著「古事記伝」を落成した年に書いた初学者のための手引き書です。宣長はここで、暇がないからといって、年を取っているからといって、また、才能がないからといって学問をしないのは、とても残念なことだ。学問は、暇がある人より、ない人の方が却って進むものだし、年を取っていても学問するのになんの差し支... 続きをみる
2018年3月のブログ記事
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梶井は宮沢賢治と比肩する童話的感性の持ち主だったと言っていいのですが、イマージュの鋭角的な強烈さでは賢治を上回っているように見えます。そうして、それが円満な童話的世界を破る裂け目となります。レモンの鮮烈な味と引き締まった造形美に爆発を見、美しい桜の木の下には動物たちの屍体が埋まっているのだと見る幻... 続きをみる
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中国の儒教教典五経の筆頭に位置する古典です。中国は不思議なお国柄と言っていいでしょう。「易」は占いの書物ですが、それを聖典として、しかも五経の最初に掲げているのですから。孔子は五十歳になって、はじめて「易」の本当の価値が分かり、これから人生の危機を回避することができるようになるだろうと言っています... 続きをみる
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当時、見掛けだけ大げさでロマンチックな小説が持てはやされていましたが、スタンダールはそうした小説を憎み、一見平板にさえ見えるような文章を用い、本当のロマンチシズム溢れる小説を書くことに成功しました。スタンダールは、この小説を自分の膝に親類の少女を座らせて、その少女に語るように口述筆記をさせて書いた... 続きをみる
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スタンダールは時代を越えてはじめて、その本当の価値が分かると言われるほどの普遍精神の持ち主でした。ただ、フランス人は非常に計算好きな国民性を持っていて、スタンダールもこの恋愛論の中で、恋愛を様々なタイプに分析、分類し、これ以外の恋愛というものは有り得ないということを言っています。有り得ないかどうか... 続きをみる
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親和力は化学用語です。ある物質と他のある物質とが互いに強く引き付け合う化学反応を指します。ゲーテはここで、どうしても互いに引き合って止まない人間同士の恋に例えました。一人は妻のある中年の男、もう一人は、その男を思慕する若い女性です。道ならぬ恋に悩む女性は、ついに絶食して自ら命を絶ちます。男も同じ方... 続きをみる
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ゲーテの幼少青年期の伝記です。占星術にも決して偏見を持たなかったゲーテは、自身のホロスコープを巻頭に掲げています。「ファウスト」に出てくるノストラダムスといい、ゲーテの実に広い教養の幅を思わせます。また、それらに溺れてしまうような人間でも無論ありません。世界精神と呼ばれるほどの人物の伝記です。われ... 続きをみる
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タッソーは実在した歴史上の詩人です。ここでは、ゲーテはタッソーに半ば成り代わってこの劇詩を書いている感がありますが、激情家で疑い深い性格の持ち主のタッソーが、まさに、その自身の性格の故に破滅していく物語です。ゲーテのタッソーへの感情移入は並々ならぬものがあって、劇の終わりにタッソーが縄に掛けられる... 続きをみる
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ゲーテ晩年の著作です。この書には「-あるいは、諦念の人々-」という副題があります。この本を読むキーワードになるような言葉かと思って読んでいますと、はっきりとこの言葉を語るのは、最初に出てくるヤルノという人物だけで、それもほんの少し登場しただけで、後は、最後まで彼の出番はありません。物語は、七十才で... 続きをみる
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「初心忘るべからず」や「秘すれば花なり」といったたいへん有名な言葉の載っている世阿弥の芸道指南書です。「美しい『花』がある。『花』の美しさという様なものはない。」「世阿弥の『花』は秘められている、確かに。」という小林秀雄の名文句によっても光を受けました。芸術に少しでも関心のある人なら、座右に置いて... 続きをみる
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ガリアは今のフランスです。この書は、カエサルが自分のガリアでの戦歴をローマの元老院に宛てて、非常な速さで書いて報告したものです。翻訳文はかなり読みづらく、また、カエサルの時を置かずに進撃して止まない行軍は、読む者に目まいを起こさせるような果てしない単純さを感じさせるものですが、この行軍の成り行きを... 続きをみる
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トルストイと比べると、ドストエフスキーの方がより現代的な小説家だというのが、一般的な見解となって久しいようですが、人物としては、トルストイの方が遙かに上回っているようです。ト翁という言葉はありますが、ドストエフスキーにはそうした言葉はありません。トルストイには、ドストエフスキーが書いたような芸術と... 続きをみる
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題名は、ベートーヴェンの有名なヴァイオリンソナタからとられています。トルストイはこの作品でクロイツェル・ソナタを徹底的に批判し、やがて、芸術一般を否定する強烈な思想を確立するに至ります。しかし、この小説で見せるトルストイの芸術家としての稟質は目覚ましく、夫が不倫をした妻をナイフで刺す場面などは、圧... 続きをみる
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「死の家の記録」には、多くのさまざまな動物が登場するが、皆、動物の形をした人間である。「カラマーゾフの兄弟」にもペレスヴォンという忘れがたい犬が登場するが、これも犬の形をした虐待された人間である。 ドストエフスキーの目は、本当に人間というもの見て見抜く目で、よくあれほどまでに強烈な興味を人間という... 続きをみる
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一時代前、結婚は人生の墓場という言葉があったが、最近の新入社員の黒づくめのスーツを見ていると、就職は人生の墓場であるかと思ってしまう。 さて、結婚難で、少子高齢化の時代となり、これは、どうした加減の現象かと問いたくなるところである。明治初期の頃、福沢諭吉は、結婚率の割合と米の相場が連動していること... 続きをみる