ユング<イメージの心理学> ユングの自伝を読んでいると、ユングが人生を決定するような強烈なイメージに襲われるときは、それは、襲われるという言い方に相応しいものだが。 それを自分のうちに引き受けるのに逡巡する何日間やときには何週間かがあって、そのときには、ユングは鬱に近い状態に陥るのだが、そのイメー... 続きをみる
2018年7月のブログ記事
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鏡花のグロテスクな怪奇趣味が横溢した書物です。主人公の旅の男はある山の家で、美しい女人と出会います。その女人こそ魔界の主で、自分の色香に迷った男どもを次々と醜いけものに変えてしまいます。きよらかな心を持った主人公だけが、無事人間のまま山を下り、不思議だった経験を人々に語ります。鏡花の他の作品では、... 続きをみる
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江戸時代に取材した短編小説です。話の主題はたいへん重く、実の兄弟をやむを得ない事の成り行きからあやめてしまい、護送船に乗せられた男の話です。ここでも、やはり鴎外は自分の意見などを陳述していません。ただ、護送船の船頭にこの男は果たして、罪人と言えるのだろうかとお上に問うてみたいと思わせて、物語を終わ... 続きをみる
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鴎外の文章は剛直そのものです。まったく当たり前な文章法に従って書かれているにも関わらず、鴎外の強い個性と文章本来の持っている力強さがにじみ出てきます。この作品は、ある人物のひょんな通癖が巡りめぐって、一族もろともの滅亡にまで発展してしまうという皮肉な悲劇ですが、筆者は、ここになんの説明も加えていま... 続きをみる
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第二次世界大戦に取材した小説です。自身が一兵卒であった大岡は、復員兵となって日本に戻りますが、その戦争中、アメリカ軍の俘虜となります。その間の経緯については作者自身による別の大きな小説があります。この小説は、極限状態に置かれた人間の話です。作者と思しき兵士が、別の兵士からもらって食べた乾し肉は、人... 続きをみる
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歴史があるということは われわれがまさしく生きているという、そのことに他ならない。 〇 シルクロードからもたらされた夥しい異邦の文化を、無際限に取り込んで、消化してきた日本は、その地図上の形態からも人間の胃を思わせる。世界の胃。そのたくましい消化力は、いずれ、西洋文化やイスラム文化さえ... 続きをみる
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現在、日本のピアニストで、こんなに見事にモーツァルトを弾きこなせる人は、彼女くらいだろうと思って、好んで聞いている。協奏曲のアルバムの謳い文句には、Greatという言葉が使ってあったが、その言葉を少しも裏切らない非常な出来映えである。モーツァルトのピアノソナタのCDも、実にいい。 それにしても、こ... 続きをみる
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遠藤周作は大学に入る前に三浪しています。自分がいかに間抜けであったか、こと細かく書かれていますが、辛辣な苦味はありません。遠藤はここで若い人々に向け、学業が不調であっても、頭が悪くても決して落胆することはない、人生は長いのだから。元に、わたしという見本があるではないかと世話好きなカトリックの神父さ... 続きをみる
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新約聖書のシモンは、洗礼を受けてペテロと名乗りますが、三度キリストを裏切ります。鶏鳴三度の有名な話ですが、遠藤はそのキリストを裏切らざるをえなかった弱い普通の人間であるペテロを思い、その地を訪れ、そのイエスを裏切ったと伝えられている場所に立ち、なんとも言えない深い安らぎを覚えたと言います。日本のカ... 続きをみる
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武は儒教の洗練を受けてその人格形成力を増したと言っていいが、武は侍という言葉が示す通り、君に仕えるのがその本分である。従って、その人格は表立って主張されることを嫌う。 君に仕えるという現実の仕事の意味合いに、儒教は強固な足場を提供したのだが、その中で、作り上げられた人格は少しも分かり易くはなら... 続きをみる
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イギリスのユーモア小説です。少しばかり読み辛い、丸谷才一による翻訳文ですが、イギリスならではの野性的なユーモアや皮肉が、随所に散りばめられたじつに愉快な本です。物語は、気鬱に塞いだ男が家庭医学書を読み耽り、自分はたった一つの病気を除いて、あらゆる病気に罹ってしまったと思い込む所から始まります。世に... 続きをみる
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「女らしい女なら、向こうから逃げ出す。男らしい女なら、こっちから逃げ出す。」アンチフェミニストらしいニーチェの言葉である。 わたしはフェミニストであることを心掛けているから、女らしい女は追いかけることを、男らしい女は、受け入れることを信条としているが、なかなか事はうまくは運ばない。実際、男女関係く... 続きをみる
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豊かな色彩感覚に溢れた美しい小説です。自分が非常な美貌の持ち主であることに自分でも気がつかないような純粋な心情を持った女性と、寡黙だがたくましいアイスランドの美青年の漁夫との恋愛悲劇です。ロチは、さまざまな経緯をへて二人を結びつけますが、物語の最後で、美青年の漁夫をまるで海の女神が嫉妬したかのよう... 続きをみる
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宣長が「古事記伝」を執筆する際、研究余録として書かれた随筆集です。内容は国学を中心として、諸事万般に渡るもので、宣長の興味教養や思考の幅がじつに広く、また深いものであったことを窺わせます。書中、尚古主義とは正反対の思考や弁証法的な論法をきれいに叙した文章などが見えます。また、孔子という人物はけっし... 続きをみる
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美しく貴重な感情には、礼儀の衣が欠かせない。 〇 形式は、法則というよりも礼儀に近い。 〇 俳句の五七五形式、季語は礼儀そのものと言える。 〇 読書は、レコード針とレコード盤の関係に似ている。 早く読み過ぎても、遅く読み過ぎても何も分からない。... 続きをみる
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福井の方の年始行事に、弓打ち講というものがあるそうで、的に矢を放ち、その年の吉凶を占うものだそうだが、これは的に矢が当たらないときの方が、吉で、却って的に矢が当たってしまっては、凶事が起こるとされているそうである。 批評ということと、重ね合わせてかんがえてみるのだが、あまりにも的確で、息を... 続きをみる
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賢治は謎めいた詩人です。賢治の作品にはまぶしい光が散乱している感がありますが、その光がいったいどこから来ているのかまったくの謎です。また、初期の詩集「春と修羅」に見られるように、自我意識のにごりと格闘せざるを得なかった典型的な近代人であるにもかかわらず、どの近代人にも到達できなかった、いわば、底光... 続きをみる
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小林秀雄は福田恆存<つねあり>の人物を評して「良心を持った鳥のような人だ」と言っています。ボードレールは滅びゆく貴族階級を範にして自分の生き方にダンディズムを取り入れましたが、福田は日本人的な直感で、これからの時代は俗物的な視点が欠かせないとスノッビズムを創作態度の中に取り入れました。この書は、近... 続きをみる
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2018年サッカーW杯 日本対ポーランド戦での、日本へのブーイング試合。 あれこそ、本来の、古風な意味合いでの「やまとだましい」「やまとごころ」を持った日本侍選手たちの試合なのである。 「武士道」とは、だから、定義するのが、まったく困難な、じつに含蓄に富んだ言葉なので、一種の精神主義とは、一線... 続きをみる
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アメリカの作家ヘミングウェイの代表作です。メキシコの海で何日にもわたる格闘の末、小さな釣り船に乗った主人公の老人は巨大なカジキマグロを釣り上げますが、その獲物はサメに襲われて骨だけにされてしまいます。人間の不屈の営みとその報われない空しさを描き、世界から共感を得た名作です。ヘミングウェイはノーベル... 続きをみる
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福田恆存は現代の作家です。演劇、翻訳、評論など多岐に渡って活躍しました。シェイクスピアの翻訳でもよく知られています。この書はわたしにとっては忘れられない本で、浪人時代の精神的な支柱になったということもあり、このおすすめ本の中に入れました。現実は確かに不平等である。だが、不平等だからと言って不平ばか... 続きをみる
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日本の現代作家丸谷才一の軽快なエッセーです。これはわたしの好みも入りますが、この人の文章は小説よりも、こうしたエッセーのように軽妙なものの方が、生き生きとした精彩が感じられるように思えてなりません。たいへん博学な人で、博識を元にした知的遊戯の達人と言っていいかもしれません。それでいて、ペダンチック... 続きをみる
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原文は、とても立派な英文で書かれているそうです。西郷隆盛をはじめとして中江藤樹、二宮尊徳、上杉鷹山、日蓮らの短いけれど、じつに精彩に富んだ評伝集です。誰も内村が書いたように、これらの日本の傑物たちを書けた人はいませんでした。これは内村鑑三自身が代表的日本人だったからに他ならないという理由によるよう... 続きをみる
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歎異抄 たましいの奥底に墨で大書されたような文言 これはどんな人間のたましいにも応ずる 善人だろうが悪人だろうが 「たとへ、法然上人にすかされまいらせて、念仏して地獄に堕ちたりとも」 「すかされ」という俗語が、肉体的に痛切と言っていいくらいの血の匂いがする なんという奥深さだろうか 親鸞の手振りや... 続きをみる
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知人が飼っていた「フクロモモンガ」を遊び心で描いてみました。 やはり、2015年に描きました。
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「和風美人2」をさらに加筆修正しました。 やっと、得心のいく絵になったという感じです。