華麗でよどみのない文体と、「才能の魔」とまで言われた異常な詩的才能とを合わせ持ち、当時の日本で圧倒的な存在感を誇った三島由紀夫の絶頂期の小説です。こんこんと尽きることを知らずあふれ出る豊かで彫りの深い詩的イマージュは、読む者をそのまま文学世界のただ中に引き入れます。柔軟で格調の高い文章は、最後まで... 続きをみる
2017年5月のブログ記事
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jazzはかんがえない、踊る。 だが、チャーリー・パーカーはかんがえる。 なにを。 何をではない。ただ、かんがえる、しかも過不足なく軽やかに。 チャーリー・パーカーのサックスは早すぎて踊れない、だからスウィングする。 論理的に言えば、無思量底を思量する。 こんな意識の絶壁で、詩や音楽など歌い上げら... 続きをみる
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シェイクスピアが創造した数多くの魅力的な人物の中でも、異彩を放つ人物像です。体型は背が曲がり醜く、風采の上がらない男ですが、口が天才的にうまい。その口を武器に、あらゆる権謀術数を駆使し、特に地位の高い女性を言葉巧みにたぶらかし、胸に秘めた野心を実現して王位につきます。まさに、立て板に水のその驚くべ... 続きをみる
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女→論→教え→信仰 という日本仏教の流れ。 記録されている限り、日本の最初の出家者は女であった。このことは、日本人の仏教に対する態度として、多くのことを示唆している。 伝教大師は、当時の仏教が論であることを嘆いて、中国に渡り、教えを伝えた。その後の鎌倉六祖である。 この流れは、何を示唆しているであ... 続きをみる
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作者は四年間、政治犯としてシベリアの監獄で獄中生活を送りました。その体験から書かれたのが本書です。前書きを除き、文句のつけようのない確固とした写実性に貫かれ、囚人たちの異様な、また最底辺の日常生活が克明に描き出されます。ダンテスク<ダンテ的な>とまで評された風呂場の情景。凄惨な三千にも及ぶ笞刑。労... 続きをみる
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現在、一番上等な牛は、世界で公認されている和牛である。オーストラリアがWagyuの商標を取って世界に売り込んでいることでも知られる。ただ、世界の一般の人々には、Wagyuが日本由来の牛であることは、あまり知られていないようだが。 明治期になるまで、日本では牛を食う習慣はなかった。こんな滋養に富んだ... 続きをみる
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花のように世界を信じている 少女に出会いました 男は突風のように あっというまに少女を連れ攫いました 根っこさえ残らなかったのです
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表題は、イスラームのことわざである。この言葉には、大きな知恵が宿っていて、現代のような気忙しい世の中では、こんな言葉は間違いだという人もあるだろうが、人が生き延びていくためには、よくよく考えてみれば、明日という日をしっかりと信じていなければ本当には生きていけない。経済的で効率的な観念よりも人を重視... 続きをみる
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セゴビアという名ギタリストがいた。ある友達がその人のことを当然のごとく絶賛しているのを聞き、早速買って聴いてみたが、良さがさっぱり分からなかった。1930年代くらいの古い録音で、多分SP番からの復刻だろう、録音状態の悪さもあって、何がいいんだろうと思っていた。それに、演奏自体も取っ掛かりのない弾き... 続きをみる
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作者のルイスは数学者です。作品は、物語好きなルイスが仲のよい少女たちにせがまれて、書き始めたことから生まれました。「鏡の国のアリス」はその一つです。自分の内面にある劣等な人格面を、これほど小気味よくさらけ出した作品もちょっと他に見当たりません。王女は、訳も分からず「首をはねろ!」とわめき散らします... 続きをみる
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バルザックでは、金貨が活躍する。バルザック自身がありとあらゆる事業に手を出しては失敗し、金に振り回され続けた作家だった。 「ウジェニー・グランデ」で、ウジェニーの父の守銭奴のグランデが、娘に譲ったはずの金貨をいとおしそうにじっと見つめる場面には、凄惨な迫力がある。 「絶対の探求」で、バルタザールの... 続きをみる
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日本人は、記憶力のいい国民である。アメリカに無条件降伏したとき、大人たちは何と言ったかというと「早く、子供たちを隠せ。」と口々に言ったのである。 これは、元寇のとき、元の軍人たちは何をしていったか覚えていたからである。彼らは、男女を問わず、子供たちの手に穴を開けて綱を結び、船にその綱を絡げて、引い... 続きをみる
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ドストエフスキーの「死の家の記録」の中で、廃船解体を命じられる囚人たちの話がある。鮮やかな印象を残す場面で、最初に読んだときにも、よく記憶に残った。 アランも「幸福論」の中で、言及しているが、囚人たちに課せられたのは、どこにでも山のようにある、一文の得にもならない廃材を、廃船を解体して積み上げるこ... 続きをみる
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全応態とは聞き慣れない言葉だが、聖書(キリスト教では旧約聖書)の言葉の正訳を心掛けようとして、こういう言い方になった。もちろん、わたしの造語である。もっと、いい言い方があればそれにするのだが。 聖書中のもっとも哲学的な書と言っていい「伝道の書」の中に「金はすべてのことに応じる」という言葉が見える。... 続きをみる
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「生きるべきか死ぬべきか、それが問題なのだ。」など、シェイクスピアの作品の中でも、名文句、名台詞に溢れたあまりにも有名な作品です。作中、あらゆるものを突き抜けたように感じられるハムレットの自由感情は、世界中のどのような文学と比べても比類がありません。運命の自然力と人間の自由とが渾然と一体になった、... 続きをみる
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芸術上、あるいは宗教上に伝えられるものとして、秘伝というものがある。禅の教外別伝などは次元の違う考えで、混同してはならないが、この秘伝というものの正体はそのほとんどが俗なものと言っていい。 能にも秘伝がある。このことは世阿弥が風姿花伝の中で、はっきりと書いているが、芸の妙味というものは、能に通じて... 続きをみる
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風にもまれ サクラは散り急ぐ 空を映した川に それは音符のように流れて行く 降りそそぐ花びらのその一つ一つの軽さを 川は 透明な裸体で受け止める 空は高く晴れ サクラは散り止まぬ その性急な凋落 遁走のアレグロ 死という最良の友を 連れて
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モーツァルトの音楽は、極めて高い次元での両性具有が達成されている。しかも、官能性さえ損なわれていない。両性具有は、ハイドンの音楽でも共通の性格なのだが、人々を引きつけ、思わず一緒に歌いたくなるような繊細さや官能の点においてもう一つ欠ける。 仏像の形姿も男でも女でもない。やはり、両性具有である。ここ... 続きをみる
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「ある朝、グレゴール・ザムザが何か気がかりな夢から目をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変わっているのを発見した。」なんの説明もない作品冒頭の文章です。作者カフカは、実生活では平凡な役人の人生を送りましたが、いつでも、どこでも、自分の内部は何故こんなに他の人間たちと違うのだろうという疑問... 続きをみる
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題名だけで、すでに何かを暗示しているような思いを抱かせますが、作者はこの有名な題名については、一言もその由来を書きませんでした。主人公の頭脳明晰で鋭敏だが、貧乏な大学生ラスコーリニコフは、自ら考え出した自由思想に呑み込まれるようにして、金貸しの老婆を殺害します。作品の最後で主人公は自白するのですが... 続きをみる
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わたしがいなくなったら お前はどう生きて行くつもりなんだろう 息子よ お前はどうしてかあさんに似て わたしに似なかったのだろう ああ 愚かにも心を閉ざしわたしの許を去って 行ってしまった息子よ 応えておくれ 息子よ わたしの生き方をお前はどう思うのか
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はじめに、「和を以て貴しと為す」という有名な言葉が掲げられているが、ここで、正邪、善悪の判断は保留されているというのが肝心なので、「和」が正しいこととか善であるとか、理念的な言葉遣いをしていないことに注目して頂きたい。「貴しと為す」で、人の心の動きに重点が置かれているのが、この名文の要のところだと... 続きをみる
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ガンジーのことをよく考える。思うのだが、あれだけの民衆を苦難の道へと進ませ得た男が、王としての素質を持っていなかった訳がないとかんがえている。 ガンジーとトルストイは手紙のやりとりをしているが、トルストイもまた、王としての素質を持って生まれた男だったと思っている。このたった一人で国家を敵に回すとい... 続きをみる
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ゲーテが、シェイクスピアの諸傑作とともに「自然」と呼んだ世界文学屈指の名作。圧倒的な幻視力で描かれる死後の世界。すさまじい迫力に満ちた地獄篇。確固とした造形美を持った煉獄篇。崇高で純粋な天国篇。文学が到達した一大極地を示す。
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ベートーヴェンの後期の音楽は、わたしはとても、宗教的で西洋音楽としてはエキゾティックな感じを受ける。カルテットやピアノソナタなど特にそうである。 宗教的だと感じるのは、わたしだけではないと思うが、ベートーヴェンの場合は、ある特定の宗教を指向しない、いわば、自由な宗教感情にあふれている。ここが、バッ... 続きをみる
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太宰治の代表作。太宰の人生を色濃く反映した自伝的な小説とされています。他人の前では面白おかしくおどけてみせるばかりで、本当の自分を誰にもさらけ出すことのできない男。仕事についてのやる気を問われてもどうとも返答しない男。徹底的に、世の中の余計者であり続けた男の人生を描き、海外でも多くの人々の共感を呼... 続きをみる
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文庫本で数十ページほどの短編小説ですが、この作品の題名から「小説の神様」とまで呼ばれた日本を代表する近代の小説家です。磨き上げられた正確な美しい日本語を用い、完成度の高い数々の小説を書き上げました。平易ながら簡にして要を得た品格のある志賀の文章は英訳し辛い性質があるため、国際的には低評価されている... 続きをみる
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金については、いつもその不足を嘆き、今の収入の中でなんとかやりくりをつけているというのが、一番まっとうな、またもっと言えば、健全な在り方なのではないかと思っている。 1億円の宝くじが当たって、いい気になってしまい、高級自動車を買い漁り、首が回らなくなって、社会からドロップ・アウトしてしまった人を知... 続きをみる
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