明るい夕暮れ 少女がまぶしく笑いながら駆けていく 少年の日の 思い出は裂け 傷口は新しい血を流す 記憶はやわらかい肉体 わたしが人間であることを思い出させてくれる
2017年4月のブログ記事
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言葉でいい 真心を書くのなら ありふれた言葉でいい 色はなくてもいい 精神を写すのなら 活字でいい 鍵は開いている
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これがわたしの心臓です ずいぶんしなびて赤いのですが 白い洗濯物と一緒にぶら下がっている わたしの一つしかない心臓です 風の鳴る夜は、シャツといっしょに 夜の夢が一杯つまった 洋服ダンスの中に いれておきます 出かける前は忘れずに 洗濯物といっしょに干しておきます ある朝二羽のヒヨドリが来て啄んだ... 続きをみる
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冬 曇天の空に 雨が降る 痩せた 形ばかりの人間が 草の枯れた川原にしゃがみこんでいる こわばった頬に雨があたる おお 冷たさに身を震わすのだ この人間の形をしたものは もっと冷たい空洞が 胸の奥に空いているというのに しばらくすれば体は冷えきり 風邪を引いてしまうだろう 彼は持っていたライターで... 続きをみる
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幼いとき 月と太陽は同じものだと思っていた 昼はさんさんと輝き 夜になると静まり微光を放つ そんな芸当ができる天体を ぼくはただただすばらしいと感じていた それでは 昼と夜の区別はどうつけているのか 当時のぼくにはそれが説明のつかない難問だった あるとき ぼくは真昼間に月を見た 夜見るよりも白っぽ... 続きをみる
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秋の日の午後 透き通った影を落としながら 雲が動いて行く その向こうに連なる紅葉した山々 並木道の銀杏はやわらかい午後の光を吸い込み しずかに澄んだいきを発散する 束の間の美を 現出するために しだいに緊張していく それら 雲 木 山 影 はるかな鳥 その白い流点 あのなだらかな丘の上でおにぎりを... 続きをみる
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なんとも奇妙な夕焼け空だ 雲が空と化学反応を起こしたみたいに こんな醒めるような紫色の空は そういえば昔 図書館の天井まで届く窓から 見ていたことがあるよ 魂に色があるとしたら こんな色なのかなとぼんやり見つめていたっけ 人類が始めて火を手に入れたとき 空はこんな色で 人類を祝福したのかもしれない... 続きをみる
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海と陸とが接するさかいにかつて砂浜があった あそこの突堤まで綿々と打ち続く砂浜があった けれども今はわずかな砂地が残り わたしはそこに座り 永遠の太陽が沈むのをまっている 太陽が海に没するとき高い波がこの海岸に打ち寄せ わたしのたましいは海にさらわれるのだ ヴァニティーが邪魔をしないなら わたしは... 続きをみる
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あの暗闇のしずけさに するどい耳を澄ませば 千万個の岩を穿って 死人たちのほの憂いつぶやき声が 聞こえてくるのだろう
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驚きは束の間のこと そう 思いがけず山肌が間近に見えた春の朝 見つめ合った瞳が同時にきらめいた夏の夜 薄の穂がさんさんとゆらめていた秋の夕べ 隣家のピアノがひどく澄んで聞こえた冬の午後 驚きは束の間のこと そう そして古びぬもの
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今 桜の盛りです あなたに読んでもらいたい 幾つかの詩がありました けれども もう それは叶わなくなりました あなたの御霊に幸いがありますように では お休みなさい 大岡さん
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夜はうつろな吐息を吐いた 父は寝床で病んでいた ぼくは古代を思い出していた おそらくは母の胎内にいた頃の 出来事のことを 朝は透明な叫び声を上げ 船に乗ってやってきた ねつとりとしたこころを 幻想の海に浮かべながら 日が暮れるまで ぼくは一個の知的パロディーだった
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目を閉じる 深まる闇に追いつこうとして 時をきざむ針の音 夢を象る鑿の音に似て しばらく あなたの静かな寝息をきいていたい 孤独という言葉が 裸になるまで
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断層に突き当たった 世界はまるで相貌を変え 白くなった ああ この風景は どこかで見たことがあるよ デジャヴーではない デジャヴーという機械論ではない 菜の花が風に揺れ 海は銀色に輝く そうなのだ いつまでも 変わらない風景はいつまでも 古びずに新しい 断崖から放たれた グライダーのように アホウ... 続きをみる
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電話でケンカをした 女は泣いた もう二度とあなたには電話はかけないと言った わたしは黙ることしかできなかった そうして 沈黙はまるで暴力のように二人を裂いた 電話は言葉を丸裸にする それは 現代の言霊 無言さえ反響する
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1㎏原器は 神のように 何重もの頑丈な扉の向こう側に恭しく安置されている そう 計量できぬ一切のものを厳格に世界から排除する これは 現代の神である 呻き声が 聞こえはしないか 居場所を奪われた 無数の病んだこころたちの
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比喩ではなく 地表を癒していく大きなやわらかな手 春 犬が小川を泳いでいる 無限がそそり立つとき 人々はまなざしを上にあげる 夏 木陰には蟻の巣がある 時間は旋回し 銀河に軸が通される 秋 公園のベンチで思想が成熟する 無意識の底に沈んだ記憶 美しい人々の足音が聞こえる 冬 時おり木枯しが吹く
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燕の子横一列に顏並べ 動くとも見えでうつろう春霞 冬の夜の思いはとぎれ雨の音 それぞれの星を背負いて雪の道 生き抜けとつぶやくごとく寒椿 行く春や行方も知れぬわが身かな もの言はぬ自販機うれし炎天下
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信という選択 不信という不毛 喜びというせせらぎ 悲しみという海 文学という白日夢 哲学という留め金 科学というファンタジー 自己という流動体 証明という照明 深層という新層 思想という彫像 自由という女神 認識という征服 悟りという傾斜 生命という持続 それでは 世界とは
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