Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ ことばの力 <その否定的な面から>

ことばの力というと、よく、肯定的に捉えられがちだが、実態を見れば、人々はもっと否定的な面で、ことばの力に振り回されているようである。


例えば、おそろしい病気などの病名、癌とか認知症などの、人々が嫌忌してやまない病名を宣告されたとき、人々は病気そのものの実態よりも、はるかに、その病名にやられてしまうものである。そして、これは、その病名を告げる医者にさえ、よく分かってはいない事柄なのである。


同じく、人を傷つけることばも、人々を振り回すもので、「きもい」とか「臭い」などの言葉も、それを言う人よりも、それを言われた人の方が、どれだけそのことばを、重く捉えているか、知れないほどである。


現代の心理学は、人の心をもっとも傷つけるのは、絵でも音でも映像でもなく、ことばであることを、告げている。


だが、かと言って、ことばの力を、その否定的な面でだけ捉えることは、愚かしいことである。ことばは、その否定的な面だけでなく、非常に肯定的な面を持っていることも、また、真実である。


人々は、ことばに拠って、突き落とされもし、救われたりもする。これは、昔から変わることのない、人生の実相というものであろう。