Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 天地の間にわれ一人生きてあると思うべし

この言葉は、戦国時代の動乱期から、江戸時代初期によく使われたことばだそうで、今の世の中の「一人ではないよ」というメッセージソングなどに使われることばとは、正反対に見える言葉だが、あまりにも対極的なことばなので、掲げてみたくなった。


戦国期は、言わずと知れた、自分一人の力のみが頼みの綱であった時代で、自分というものがしっかりとしていなければ、他の誰も当てにするなど出来ないという時代風潮を生んだ。


中江藤樹は、戦国時代を天下の大不幸と呼んだが、この江戸期を通じて、唯一、学問のために脱藩して見せた江戸初期の儒者は、戦国期の風を充分に受けていたので、この頼む者は、ただ自分一人だという、時代風潮の精神的な先駆者と言って良いので、精神の独立を名実ともに成し遂げ得た、豪傑であった。


この豪傑という言葉は、やはり、戦国時代が生んだことばであるが、後の儒者、荻生徂徠も伊藤仁斎を評して豪傑と言っていることからも明らかなように、学問上、ほとんど誰の力も借りずに、独り立ちして見せた人物を、豪傑と呼んだのである。


今の時代を見渡してみて、どうであろうか。独創とか既成観念を破るとか、掛け声だけは勇ましいが、似通った論の横行や、作るのではなく、ただ壊しているだけなのに、新しい創造だと言い張ったりする人間たちの、如何に多いことだろうか。


天地の間にわれ一人生きてあると思うべし、こうした日本風の覚悟は、今を生きるわれわれにこそ、必要なことばではなかろうか。