Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 顔という指紋

一卵性双生児を例外として、顔は、その人を他の人と振り分ける、指紋のようなものである。人と人を簡便に区別することにおいて、これに勝る身体的特徴はないと言っていいだろう。


これは、誰が見ても、その人かどうかの見分けが付くもので、よほど、注意力が散漫な人でない限り、まず、区別できないということはない。ある程度、年齢が重なったとしても、その人はその人らしい面影を、どうしても残しているものである。


であるから、現今のSNS流行りの世の中になると、自分の素顔をさらすことは、それなりの勇気が要る。実名も一緒であったなら、もう、逃げも隠れもできない。


自分の顔を、加工する技術が流行っていて、特に、女性は目を大きく見せるアプリを使いたがるが、画像にある違和感が出て、すぐ、それと知れるものである。顔に比して、目が不自然に大きいのである。


写真はじつに魔術的な技術で、その人の雰囲気さえ写し撮ってしまうものである。


ただ、女性は化粧をするので、女性を顔だけで判断するのは、あやういものであるし、抑も、人を見分けられるという理由だけで、その人のことが分かると思ったら、大きな間違いをする。


ある人の顔は、よほど見る目を持った見巧者を別として、その人自身を語るものではない。その人のすることを見て、何によって暮らしているかを見て、そして、何によって自分を保っているかを察して、はじめて、その人はその人を表す。孔子の言うところに誤りはないので、どうしても、その人と親しく付き合うという手間が要るのである。


SNSが発達した現在、人を顔だけで判断するのが、どうしようもない趨勢となってしまっている。手間を省きたがる現代人の、盲点を突くような趨勢である。どうにも、あやうい時代になってしまったものである。


ただ、その人の顔は、それなりの写りの写真なら、ほぼ確実にその人と見分けられるという点で、ひとつの救いと言って良いが。