Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 「自己責任」なる新語

誰が、最初に言い出した言葉か知らないが、わたしは、この新語を聞くたびに、つよい嫌悪感を覚える。


先に言って置きたいが、この言葉は、自分というものとしっかりと真面目に向き合って来なかった者に、言われ始めた言葉である。この言葉の語感を、よくよく確かめて欲しい。


自分と真剣に向き合い、自分自身と懸命に戦っている者のどこに、責任という余計な言葉の生じる余地があろうか。責任の向かう方向が、まるでトンチンカンな言葉であることに注意して欲しいのである。


この出生の不確かな言葉に迷わされているようでは、現代の日本は、自己という言葉とたわむれている人間が、いかに多いかを物語ってもいるようである。


自分を相手に戦っているのではない。単に、自分と戯れているだけの人間が、「自己」と「責任」を、頭だけで考えて、無理やりくっつけた言葉である。


「自己実現」とか「自分らしさ」とか「自分探し」とか「自分の個性」とかそういう言葉に酔い、いい加減弄んだ挙げ句、思い出したように、ああ、おれには責任があったんだと思う。そうした中途半端な反省から生まれた、いかにも、現代の軽薄な世相を反映した、自分のことは棚に上げて、他人に投げかけられてばかりいる、不自然きわまりない言葉である。


自己は、物事に充実して取り組んでいれば、こと改めて、自分などというものをかんがえないものである。確かに、無私を得るのは、むずかしいことだが、決して出来ない道ではない。余計な言葉に、邪魔をされてはなるまい。