Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

現代詩 ガードレール


曇天の空に
雨が降る


痩せた
形ばかりの人間が
草の枯れた川原にしゃがみこんでいる


こわばった頬に雨があたる
おお
冷たさに身を震わすのだ
この人間の形をしたものは
もっと冷たい空洞が
胸の奥に空いているというのに


しばらくすれば体は冷えきり
風邪を引いてしまうだろう
彼は持っていたライターで
しきりに枯れ枝に火をつけようとしている


なんと愚かな
なんと頑固な木偶だろう
いまは雨が降っているのだ
そら
枯れ枝はすっかりびしょ濡れではないか
そんなに真剣にならないでくれ
可笑しいじゃないか
馬鹿げてるじゃないか


どうしてそんな理屈に合わないことを
するんだい
少しでも暖を取りたいのか
それならせめて雨がかからないように
橋の下でやったらどうなんだい
乞食と間違われるのがいやなのかい
そんな自恃も君にはあるのか
お願いだから
そんなに真剣にならないでくれ
可笑しいじゃないか
馬鹿げてるじゃないか


君の胸の奥の空洞はどのくらい深いんだろう
それは誰かの胸の空洞とどこかで繋がっているんだろうか
そうして
その底深い暗がりに君は不可能な火を灯そうとする
その底には無しかないにしても


男は枯れ枝に火をつけることを諦めた
曇天の空を見上げると
無数の雨粒が見えた
それは男の胸の底まで落ちて静かな水たまりを作るように
思われた


すると
それはこれであったというわけか


ガードレールが雨に濡れていた
清らかに洗われた肋骨のようだった