日本には、北海道の原野や富士の樹海を除いて、いわゆる大自然というものはない。日本の自然は、どの自然を取り上げてみても、人間の営みとともに出来上がってきたものである。

紅葉やさくらの写真などで、とても、繊細な枝振りが捕らえられているものを見ると、すぐに、これは、日本の自然だなと分かる。これは、繊細なだけではないので、繊細でありながら、しかも力強い。営々とした人々と自然との関わりがあって、その上で、磨きをかけられた、自然に他ならない。

欧米で見られるような、はっきりと自然と人間との間に、境界線が引かれたような、大味な大自然とは、その点で、まるで異なる。そうした自然を、人間界と関わりを持たそうとすると、欧米の宮殿などによく見られるような、壮大ではあるが、箱庭のような自然に成らざるを得ないのである。

日本の自然のように、大地にしっかりと根付き、その上で、人々との関わりを待った自然の有り様というものは、日本ならではのもので、それこそ、本当の意味での、人間と自然とが分かち難く結びついた、自然の姿なのである。