Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ キリスト教の一撃 <生き残った翻訳文化>

キリスト教について、あまり言われないネガティブな面がある。それは、キリスト教以前のヨーロッパの古代の歴史や伝統の息の根を、ほとんど途絶してしまったことである。


辛うじて生き残ったものに、古代ギリシア文化があるのだが。古代ギリシア文化と言っても、ギリシア文化と言えば、古代のそれがなければ始まらない。これを今のかたちで保存しておいてくれたのは、イスラーム文化に他ならない。現在のわれわれが接する古代ギリシア文化は、そのほとんどすべてが、イスラーム文化が翻訳して置いてくれたものから逆輸入された翻訳の、さらにわれわれへの翻訳なのである。


キリスト教の功罪の中でも、もっとも罪な面と言っていいだろう。パルテノン神殿を廃墟に化してしまったのも、キリスト教の大勢力に他なかろう。イスラーム文化圏よりも、はるかにキリスト文化圏の方が不寛容だと言えるほどである。


因みに、現在のギリシアは、ギリシア正教というキリスト教の一派が主流のはずだが、これはロシアの国民宗教でもあったものであって、現在のロシアでは、名前を変えてロシア正教と言っている宗教である。


だが、話を元に戻そう。思うに、これは古代ギリシアに限って起こった、他宗教および他文化に対する弾圧ではなかったろう。ギリシア以外の文化についても、ほとんど目も当てられぬほどの殲滅が起こっていただろうことは想像に難くないのである。


古代ギリシア文化が翻訳という形であれ、残ったというのは幸いなことであったが、そういうことを思うと、文化というものは、じつに、不思議な伝播の仕方をするものであるという感慨に堪えない。