Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ プチ・サンス <セザンヌ>

セザンヌの言葉によると、ゴーギャンやゴッホは、私の絵から勝手にプチ・サンスを盗んで画業を成した画家たちで、セザンヌと親しくしていた人は、彼らのことに話が及ぶと、セザンヌは憤懣やる方ないという様子を見せていたという。


本家のセザンヌに言わせれば、そういう言い方になるのも、もっともかも知れないが、そのセザンヌの絵からプチ・サンスなるものを目ざとく見つけ、それを自分自身の絵の中で展開していったゴーギャンやゴッホが、そのために、どれほど緊張度の高い人生を送らねばならなかったかということに思い至れば、セザンヌの発見に懸かるこのプチ・サンスという代物は、いかに言わば業の深い危険な感覚であったかを思わざるを得ない。


彼らのような天才的な美的感覚は持ち合わせていないわれわれでも、セザンヌやゴーギャン、ゴッホに共通する、ある沈痛な感覚がそれぞれの絵に底流していることを感ずるとき、彼らが人生を賭けて取り組んだ課題の、退っ引きならぬ全人性、言わば、誰もが逃れようのない人間の本源に由来する、「小さな感覚」が、どれほど大きな意味合いに富んだものであったかを疑うことはできないだろう。


ともあれ、セザンヌはこのプチ・サンスを生涯をかけて、全画面に展開せしめた。彼の最晩年の絵は、神秘的と評しても良いほどの、直な予見性を持っている。