Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「西郷南州遺訓」山田済斉編

名高い本ですが、西郷は、書を世に問おうとする意思を、まるで持っていなかった人だということを忘れてはならないでしょう。この書は、ある藩での西郷の講義筆録をまとめた小さな本ですが、読み方は少々難しい本であると、撰者には思われます。蒸気機関や電信などの、当時最新の技術を何のために取り入れるのかというような反時代的な言葉が見えますが、西郷という人が、こうした所懐を頑固に押し通した人とは思えないような節があります。西郷は、旧知識人からは蛇蝎視されていた福沢諭吉の著作を知人に勧めるほどの人で、この書の言葉をそのまま額面通り受け取っては、西郷という大きな人格を取り逃がしてしまうのではないかという怖れさえ、撰者は抱きます。西郷の事跡に照らし、取捨し、選択しながら読むべきだろうというのが、撰者の意見です。ちなみに、この書に見える「金も命も名もいらぬ」という有名な言葉は、西郷においては、そのままで受け取って良い言葉だと思います。