Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「意識の形而上学」井筒俊彦

未完に終わった井筒最晩年の著作です。井筒の教養は破格です。およそ考えられる限りの人文的教養を身につけた人と言って良く、その深さと広さは脅威と表現しても、大げさではないくらいです。その井筒が、最後に手がけたのが、中国成立説が有力な「大乗起信論」という仏典をめぐるこの論考であったことは、何か不思議の感を覚えます。井筒はここで「薫習<くんじゅう>」という仏教用語に注目します。「薫習」とは平たく言って、人格が別の人に及ぼす、人格的作用と言って良いものです。井筒は、ここに、東洋的な哲学的知恵の結晶を見るようです。現代人によって書かれた秀逸な哲学書ですが、決して、難解極まる本ではありません。ぜひご一読のほどを。