エッセイ アラン「幸福論」など
フランスのモラリスト、アランの「幸福論」は名高い本だが、文庫本で三百ページほどに過ぎないこの本は、じつに見事な観察眼や思考がぎっしりと詰まった本で、わたしは、十数回ほど読んだのだが、まだ、読み足りないと思っている。
例を挙げると、もうこの時代に、列車の車窓の眺めが素晴らしいことと、しかもその眺めはただなのであると、今でもそのまま通用することに言及しているし、また、何回読んでも、あっと思うような発見がある非常な名著である。
アランには、この主著と並び称される「精神と情熱に関する81章」という「幸福論」より少し難しい本がある。この本には、少し曰くがあって、小林秀雄の有名な訳本があるのだが、小林訳は日本語の助詞の、かなり不思議な使い方がなされていて、はっきり言うと読み辛くて仕方がない。
別の訳者でと、ずいぶん探したのだが、小林秀雄の名前が大き過ぎるのか、良い訳本が見つからないという異様な現象が起こってしまっている。わたしはプロフィールにも掲げている通り、小林秀雄は尊敬している人間の一人だが、こうした尊敬のされ方には、反対する者でもある。出版不況の最中だが、この本の良い訳本が欲しいところである。
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