エッセイ モーツァルトと自然
モーツァルトの音楽を語る者は、誰でもその自然さを言うが、モーツァルトの自然は西洋の中でも、特筆されるべき自然である。
これは比喩によって語るしかないが、例えば、日が翳り、それとともに心がそこはかとない憂いを帯びる。または、落葉の降りしきる中を、少女が無心に踊っている。そのような無垢な情を伴った自然である。
ビバルディの四季に見られる季節という観念を、軽快に音化したような音楽でも、また、ベートーヴェンの第六のような田舎の自然を印象として叙したような音楽でもなく、もう一つ挙げれば、ドビュッシーの自然感覚として訴えかける音楽でもない。
これは、どの音楽家にも見られない自然であって、自然と心とが絶妙に出会い、そこに断絶の入り込む余地のない、両者がまことにシンプルに協和した音楽なのである。
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