Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 安心というもの

「安心」という言葉は、英語にはないそうである。従って、「安心」に類する安堵という言葉も同じくないと推測できる。


安堵は、本領が保証されてこその安堵であった。一所懸命(今では一生懸命になっているが)の言葉の出処は、この本領を死守するために、懸命になることだった。従って、本領を保証もされないのに、一所懸命になるのは、理にそぐわないことになる。


その本領安堵に付随する観念である、ご先祖さまという言葉も、現代では死語と化している。柳田国男は「わたしはご先祖さまになるんですよ」と心の底から、安堵している老人に、実際出会い、その明るい姿を描いているが、現代では、もうそうした老人には、まったく出会うことはできなくなってしまった。


従って、本当の安心というものは、われわれ日本人には、もう得られなくなってしまった観念と言った方が良いようである。


安心、安堵の代わりに、われわれは何を得たか、自由と平等には違いない。けれども、もう一つの観念である友愛は、われわれには見当違いの言葉だったように思えてならない。自由は個人主義と成り下がり、平等は自己責任と翻訳され、友愛は遙か彼方に霞んでしまっている。


こうした現代の状況は、不思議なほどSNSなるものを普及させている。忘れてならないのは、わたしもその一員に他ならないことであろう。