Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 個性というもの

今、テレビを見ていると、クラシック界で第一人者と呼ばれる人の変人ぶりを、見て興じるのが、流行りのようである。


クラシック界に限らず、その道での第一人者と呼ばれるような人には、大概、変わり者が多いようであるが、変わり者でも、二つに大別できるようである。誰かや、また何ものかを攻撃せずにはいられない変わり者と、クラシック界のように、自分自身とはげしく戦わなければならない変わり者とである。


一体に、個性というものを重んじる考え方の出処は、ある道を究めた人というのは、例外なく個性的であるという事実に拠っている。現在では、天才という言葉は、ずいぶん下落してしまい、天才では足りなくて、神という言葉まで、使われるようになってしまっているが、言葉の正確な意味で言えば、天才は奇人変人揃いである。


真に個性的な人は、まず、自分の個性と戦う必要に迫られるもので、相手を見つけて戦う必要は、本当を言えばないものである。平凡な人が、自分で、自ら個性的になろうとしても、世間はそんな個性は相手にもしないもので、生まれついての個性で、我知らず、やることなすこと、どうしても生き方が個性的にならざるを得ない人間を、世間は進んでゆるすし、愛しさえするものである。その人の戦わずにはいられないものが、自分自身という果てしない壁に他ならないことを、本能的に見抜くからである。


ある敵を攻撃せずにいられない変わり者は、心理的に言って、単に、その敵に寄り掛かっているだけであることがほとんどである。であるから、そうした敵は、できるだけ大きい方が良いようである。


本物は、いつの時代でも少数なものである。見掛けだけの奇を衒う個性では、しようがないもののようだ。